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423 皇帝の決断


 フレドリクから語られる皇帝の病状。倒れたことから始まり、神官がサジを投げたこと、聖女ルイーゼでも治せなかったこと、薬屋から似たような症例を聞いたこと、治せないかと2人で奔走(ほんそう)したこと。

 その話はフィリップも神妙な顔で聞き、皇帝はいつもより優しい表情で聞き入っていた。


「残念ながら、治す手立ては見付けられませんでした。力及ばずで申し訳ありません」

「そうか……そんなことだろうとは思っていた」


 息子2人が騙してまで隠していたのだから、すでに皇帝は覚悟を決めていたようだ。


「そして、さらに残念なお知らせがあります。心してお聞きください」

「ああ」


 フィリップはフレドリクの顔を見て、頷いたら皇帝に視線を合わせる。


「余命は、長くて5ヶ月。短くて2ヶ月。残りの時間は、そう長くはありません」

「……」


 余命宣告は、さすがに皇帝も予想外だったのか厳しい顔になり黙り込んだ。フィリップは掛ける言葉がなかなか思い付かないのでフレドリクを見たら、フレドリクも何か言おうとしては口を閉じていた。

 そうして2分は経った頃に、皇帝が口を開く。


「神官がサジを投げた病気をここまで調べ上げるとは、よくやった。大儀である」

「「はっ。もったいないお言葉」」

「今日はもう疲れた。下がれ」


 皇帝のやや強い言葉にフィリップは何か言おうとしたけど、フレドリクが手で制した。


「はっ。失礼します」


 そしてフレドリクは手を引いてドアに向かうので、フィリップは強制的に連れ出されるのであった……



「父上、大丈夫かな?」


 隣の前室に移動して、ドアが閉められたところでフィリップは不安な顔をフレドリクに向けた。


「父上は強い御方だ。何も心配する必要はない」

「そうだとは思うけど……」

「私たちは信じて待てばいいだけだ。すぐにお声が掛かる。フィリップもすぐに駆け付けられるようにしておくんだぞ」

「うん……わかったよ。お兄様も無理しないでね?」

「なんだ。私の心配までしてるのか~?」

「そりゃ家族だも~ん」


 そう。フレドリクも辛そうな顔をしていたから、フィリップはどちらも心配。その心が伝わったのかフレドリクは笑顔を取り戻し、フィリップの頭を撫でるのであった。



 皇帝の私室から出て来たフレドリクたちの緊張が消えていたので、外で待っていた者も「たいしたことがないのかも?」と最悪の事態は少しは払拭された。

 そうしてフレドリクと別れたフィリップは根城に戻るとベッドに飛び込んで物思いに(ふけ)っていたから、オーセたちはどちらが聞くのかと押し付け合いをして、ジャンケンで負けたカイサが代表して質問する。


「今日のって、皇帝陛下と何を話して来たの?」

「2人には関係ないことだよ」

「そうだとは思うけど……プーちゃんは大丈夫? 昨日からずっと変だよ??」

「変なのはいつものことでしょ」

「そうだけど~」


 フィリップは皇子にはまったく見えないことばかりするからカイサも認めちゃったので、それ以上の追及はできない。なので空気を読まないオーセにタッチ交代だ。


「陛下って……体調良くないの?」

「直球だな~……外では絶対にそんなこと言っちゃダメだよ」

「わかってるよ。でも、お城はその話題で持ち切りだから、プーくんのことが心配で……本当に大丈夫? なんでも話聞くよ?」


 2人があまりにも心配してくれるので、フィリップは隣に寝転ぶように言って抱き締めた。


「心配してくれてありがとう。僕は大丈夫。もう数日待てば、2人の知りたいことはわかるから、もうちょっと待ってて。僕の口から何も言えないんだ。ゴメンね」

「「プーちゃん(プーくん)……」」


 フィリップから謝罪の言葉が出たから、2人も気を遣って何も聞けなくなる。この日は珍しくフィリップは手を出さず、カイサとオーセはフィリップの腕の中で眠りに落ちたのであった……



 翌昼。皇帝の近衛から手紙を届けられ、フィリップは昨日と同じ時間に根城を立った。そうしてフレドリクと合流したら、覚悟の目をして皇帝の私室に足を踏み入れた。


「決めたぞ」


 皇帝も覚悟の目をして、2人に語り掛ける。


「俺は退く。フレドリク……あとのことは任せた」

「は? は、はっ!」


 あまりにも唐突な皇位継承だったので、あの天才フレドリクでも反応に遅れた。フィリップはそれを笑うよりも、こんなに早く決断したことにめっちゃ驚いています。


「余命の件は、受け入れられたのでしょうか……」

「自分の体だ。それぐらいわかる。受け入れるしかなかろう」

「そうですか……しかし、退位はそれほど急がなくてもよろしいのでは? まだ動けますでしょう??」

「だからだ。動ける内に、戴冠式を行いたい。急ぎになるが、無様な式にするな。いいな?」

「ははっ! 直ちに準備に取り掛かります!」


 フレドリクは背筋を正して返事をすると、簡単な段取りだけは皇帝に聞いていた。それが終わると、最後の質問をする。


「父上の容態はいつ発表しましょうか?」

「好きにしろ。どうせ城では、俺はもうじき死ぬと言われているのだろう」

「好きにしろと言われることが一番難しい……」

「ならば戴冠式の知らせと同時に、明日にでもしてやれ。それで混乱は少しは改善されるだろう」

「はっ! そのようにさせていただきます」


 皇帝から助言までいただいたフレドリクは、ここから皇太子の仮面を脱いで心配する言葉を掛けていたが、皇帝は少ししたらこれから忙しくなることをあげて退室を促した。

 フレドリクも忙しくなるのは理解しているので、皇帝の優しさと汲んで頭を下げる。フィリップは今まで挨拶ぐらいしか言葉を発していないけど「僕もいいのかな?」と思いながら頭を下げた。


 それからフレドリクに合わせて出て行こうとしたら、フィリップだけ「残れ」と言われたので「なんで!?」って思いながら嫌々その場に残った。


「そんな顔するな」


 皇帝が表情を崩して声を掛けると、フィリップは顔に出ていたのかと思って顔を揉んだ。


「まぁなんだ……たまには誰かに愚痴を聞いてもらいたくてな」

「愚痴? 僕なんか、一番愚痴を言う相手に相応しくないと思うけど……あ、体調のこと?」


 フィリップは余命を聞いて怖くなったのかと遠回しに質問したら、皇帝は頭を横に振った。


「フレドリクのことだ。あんな天才が下から突き上げて来たら、父親はキツいぞ? ようやくその恐怖から解放される」

「ブハッ! 父上でもそんな気持ちあったんだ! アハハハハハ」

「当たり前だ。この気持ちがわかるのはフィリップだけだろう」

「確かに! 僕なんて物心ついた瞬間に白旗上げてたよ~。アハハハハハ」

「お互い辛かったな。わははははは」


 皇帝、君主の重荷を下ろせるからってぶっちゃけ過ぎ。フィリップはいつも厳しい表情をしていた皇帝にこんなお茶目な一面があったのかと、笑いが止まらないのであった……


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