037 首都観光1
フィリップが夕食をしようと大食堂に顔を出したら生徒たちにあっという間に囲まれたので追い払い、ラーシュのことは忠誠心がないと知ってしまったけど、食事が並ぶともう忘れてる。
「めちゃくちゃ豪華だな……これって今日だけ??」
「たぶん殿下用の食事だから、毎日だと思います」
「こんなに食ってたら太っちゃうよ~」
贅を凝らした料理はフィリップに不評。明日からはもっと栄養に気を遣った食事を発注するようにダグマーに指示して、フィリップは外の景色に目を移す。
「あっちにもお城があるけど、アレがこの国の王様の住居かな?」
フィリップの問いに、誰が答えるか目配せしてラーシュが答える。
「はい。国王の指示で、寮は似せて作らせたと聞いています」
「へ~……ラーシュは物知りだね」
「これぐらいは……なんでもありません」
「ここに入るヤツは全員知ってるってことね。知らないのは僕だけか~」
「そのようなことは言っておりませんが……」
「目が言ってた。馬鹿皇子ってね。アハハハハ」
「あまり大声でそのようなことを言わないほうが……」
ラーシュが止めてもフィリップは自分を卑下することをやめない。これは生徒たちに、馬鹿な自分に近付くなと宣伝しているのだ。
それからも食事をしながらカールスタード王国のことを質問して、聞き耳を立てている生徒たちに自分の馬鹿さ加減を教えてあげるフィリップであった。
食事を終えたフィリップたちは自室に向かい、通行証を欲しがるラーシュからは逃げ、長い階段には辟易し、6階の自室ではダグマーに洗ってもらうと今日は解散。
夕食前に楽しんだし、ダグマーも疲れているだろうと思って何もせずに帰したみたいだ。
ダグマーが出て行くと施錠して、フィリップはバルコニーから町並みを眺めていたけど、180度ぐらいしか見えないので、氷魔法を駆使して恐る恐る屋根の上に登った。
「うお~。こえ~。チビリそ~」
怖いなら登らなきゃいいのに、なんとかは高いところが好きみたいだ。
「う~ん……月の明かりが足りないから、遠くが見づらい。でも、けっこう広そうだな」
カールスタード王国の首都は、北側のお城と南側の寮に城壁があり、そのふたつを囲むように内壁が設置されている。お城と寮までの間には円を描くような道が何重もあり、中央には広場のような物も確認できる。
内壁から向こうにも建物が無数にあり、遠くには薄らと外壁が見えるから、そこまでが首都なのだろう。
「う~ん……なんか変な感じだな。中央と東側の直線上には灯りが見えるけど、他には一切灯りがない。真っ暗だ。帝都でも暗いところは多いけど、ここまでハッキリと分かれてないのにな~……あの灯りがある道って、僕たちが通って来た道かな?」
灯りの分布が少し気になったけど、頭を切り替える。
「どの辺りが夜の街なんだろ~? あそこかな~? 中央辺りは高そうな店がありそうだな~。明日、さっそく探索してみよっかな~?」
夜遊び脳に……怖い思いしてこんなところまで登って来たのは、町の地図を頭に叩き込むためだったみたいだ。
こうしてフィリップの、カールスタード学院生活が始まったのであった……
翌日……
合鍵を持つダグマーがフィリップを叩き起こして、着替えさせたら背負って食堂へ連行。ラーシュがいる豪華な特等席で下ろされた。
「お、おはようございます」
「ふぁ~。おはよう。なんか変なことでもあった?」
「変と言うわけではないのですが……これから毎日メイドに背負われて下りて来るのでしょうか?」
「たぶんそうかな? てか、5階でもしんどいでしょ??」
「はあ……私は大丈夫ですけど……」
ラーシュが遠巻きにおんぶはやめたほうがいいようなことを言ってもフィリップには伝わらず。もっとハッキリ言っても通じないと思って、早くもラーシュは諦めてしまった。
そして朝食を平らげたら、今日の予定。外に出て、1台の馬車にフィリップとラーシュ、メイド2人が乗り込み、護衛2人が御者台で馬を操る。残りの護衛2人は馬車の近くを徒歩でついて行く。
そのフィリップたちがやって来た場所は、首都の中央広場。今日は町の視察にやって来たのだ。
「うわ~。なんか楽しそうなことしてる~。もっと近くで見よう!」
「あ、ラーシュ様。走らないでください」
でも、ラーシュが馬車を降りるなり、子供のように目を輝かせてジャグリングしている人に突っ込んで行ったので、メイドと護衛の1人が走って行った。
「殿下は行かないのですか?」
「なにその目……ラーシュみたいなのは僕が真っ先にやりそうって目をしてるよ?」
「はい……正直言いますと、殿下を追い回して疲れる未来しか思い描いていませんでした」
「僕はそんなに子供じゃないよ~」
フィリップが反論しているけど、ダグマーたちは「どこからどう見ても子供だろ」って思ってる。
「ねえねえ。お姉さん? この国の人? 僕とちょっとお茶しな~い??」
「殿下!? ナンパしないでください!!」
でも、巨乳の女性を見掛けるとついて行くので、「中身はオッサン」と意見を変えていたのであったとさ。