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023 依存症


 奴隷館にあるオーナーの自室では、フィリップと久し振りに会ったキャロリーナが盛り上がりすぎて3時間ぐらい話もできず。2人とも疲れたので1時間ほど休んでから、ようやく世間話になった。


「僕がいない間、何か変わったことあった?」

「そうねぇ……衛兵が男の子を捜してるとぉ、夜中に動き回っていたわぁ」

「それって僕のことだよね? だったら捕まってないのはわかったんじゃない??」

「そっちの線は消えたってだけよぉ。貴族の使いとか言う人もぉ妖精を探しに来てたしぃ」

「それもたぶん僕のことじゃない?」

「あ、やっぱりそうなのぉ??」


 妖精の正体はキャロリーナも(うっす)ら気付いていたみたいだけど、聞く前にフィリップが消えていたから確証は持てなかったみたいだ。


「お貴族様にも追われてるってぇ……」

「僕の情報網だと、本物の妖精だと思ってるみたいだよ。貴族ってバカだよね~」

「うん。貴族の情報にも明るいってことわぁ、そういうことなのかなぁ~?」

「僕もバカだった!?」


 言い訳のつもりが墓穴を掘ってしまったフィリップは、秘密にしないともう来ないとか脅して世間話に戻る。


「てか、いまだに捜してるの?」

「ううん。1週間ほどぉ? 君が消えた上にぃ一切情報が出て来なかったから諦めたみたいよぉ」

「情報が出て来ない? 僕ってかなり目立っていたのに、そんなことあるの??」

「君は気付いていないみたいだけどぉ、夜に生きる者には凄く人気が高いのよぁ」


 キャロリーナ(いわ)く、フィリップの遊び方が豪快だから、ここ数ヶ月の夜の街はめちゃくちゃ景気が良くなっていたらしい。

 娼館に足を運べば2人分払った上にチップを渡す。クラブに行けば自分は飲まないのに高い酒を注文して女性にたらふく飲ませる。酒場に行けば女性には奢り、ナンパして宿屋も潤う。

 フィリップ1人で、夜の街1年分の経済効果があるから、自然と箝口令が敷かれていたらしい……


「うっわ……そんなに使ってたんだ……」

「ビックリでしょぉ? うちもツケの領収書見るの怖かったものぉ」

「それ、先に言ってよ~。白金貨2枚ぐらい先に渡しおくから!」

「うん。そんな物ぉ、ポンポン出て来るのも怖いわねぇ」

「あ、使いづらい? 金貨200枚渡そうか??」

「そっちのほうが助かるけどぉ……どこに持ってるのぉ??」

「こ、今度持って来る」

「はぁ~。白金貨1枚で当分足りるからぁ、金貨は細かく持って来てくれたらいいからぁ。そんなに簡単に大金を用意できる君は、本当に怖いわぁ~」

「たはは」


 白金貨だけでもそうそう拝めないのに2枚も出て来たのだからキャロリーナも勘繰ってしまったが、フィリップが金持ちすぎるので素性に踏み込むことは完全に諦めた模様。

 命の危険すら感じたのかもしれない。もしくは、夜の経済損失を計算したか、はたまたフィリップとの楽しい一時を失うことが怖かったのか……



「まぁ、みんなが守ってくれてるのはわかったけど、それは利益がある人だけの意見だよね。野郎ならたいして利益がないから、小金掴ませたら喋ると思うんだけどな~」


 まだ謎が残っていたのでフィリップが予想を言うと、キャロリーナは首を横に振った。


「たまに男共を誘ってぇ、うちの系列以外の店に行ってたでしょぉ?」

「あ、それも知ってたんだ……」

「酒場でジャンケン大会なんて開いていたらぁ、嫌でも耳に入るわよぉ」

「だって~。キャロちゃんの紹介状だけじゃ、ハタチだと信じてもらえないと思ったんだも~ん」


 この件を補足すると、キャロリーナの息の掛かっていないクラブや娼館に行く時には、フィリップ1人で行くと面倒くさいことになりそうだから、数人の酔っ払いを身元保証人として連れて行っていたのだ。

 決め方はその酒場にいる野郎共でジャンケン大会。全てフィリップ持ちで募集するのだから、負けた野郎共もフィリップが来なくなると次に参加できなくなるので、衛兵にも「子供なんて知らない」と嘘をついていたみたいだ。


「なんだか全員、僕に依存しているみたいで怖い話だね……」

「確かにぃ……このままじゃ君なしじゃ経済が回らなくなるかもぉ……」

「あ~あ。楽しくやってたのにな~……もうちょっと来る頻度落とそっかな~」

「その場合わぁ、ここにわぁ??」

「隔週ぐらい??」

「毎日来てよぉ~~~」

「一番依存している人がここに……」


 週2だった契約が週7になっているのだから、キャロリーナが文句なしのナンバー1。ひとまず週1は必ず来ると言って、徐々に依存度を下げようと思うフィリップであったとさ。



 翌日の夜は、ミアの酒場に顔を出したフィリップ。入るなり酔っ払いに囲まれたので、相当心配していたことは伝わった。でも、野郎には興味がないので「もう奢らないぞ」と脅して追い払い、カウンター席に着いた。


「よかった~。殺されたかと思っていたよ~」


 ここでもミアが絡み付いてフィリップの心配。店主も心配していたらしく、娘がフィリップに胸を押し付けていても微笑ましく見てる。


「ちょっと他の町に行ってただけだよ」

「他の町って……そこに家族が住んでるの?」

「ううん。ただの娼館巡り」

「最低だな……」


 たんに詮索をかわそうと嘘をついただけなのに、フィリップは彼女気分のミアに冷たい目を向けられてしまった。


「なんかゴメンね。僕のせいでみんなに変な嘘をつかせちゃったみたいだね」

「もう知ってるんだ! 噂好きだから、イロイロ聞かせてあげようと思ってたのに~」

「うん。聞かせてくれる? 楽しみだな~」

「じゃあ、ベッドに行こう! そこで聞かせてあげる!!」

「仕事は!?」


 ここにも、フィリップ依存症がもう1人。いつもは宿屋でしてるのに、自室に連れ込むミアであった……


「マスター、これだけあれば充分でしょ? 今日は全部僕の奢り! 騒げ~~~!!」

「「「「「うおおおお~~~!!」」」」」

「うわあああ~~~」


 でも、聞き耳を立てられたら困るから、フィリップは戻って来て金貨を数枚積んで、酔っ払いを焚き付けるのであった。


 1人だけ、涙ながらに叫んでいる人がいるけど……


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