021 妖精さん
フィリップが夜の街に繰り出すようになって数ヶ月。今日はフィリップは奴隷館に顔を出し、ベッドの上でキャロリーナと喋っていた
「あのさ~……」
「な~にぃ?」
「いい加減、僕のあとをつけさせるのやめてくんない?」
「そ、そんなことしてないわよぉ~?」
「わかった。もうここには来ない」
「ゴメ~ン。もうしないからぁ~」
フィリップがちょっと脅しただけでキャロリーナは陥落。それだけフィリップを気に入っているのだろう。マッサージは関係なく……
しかし、尾行している話を聞いてみたら、フィリップは腑に落ちない。
「そんだけ? もっと大人数じゃないの??」
尾行の数が全然合わないのだ。
「え? まさかカマかけられてたのぉ??」
「せいか~い。やるならここかな~っと思ってね」
「うちに来た日だけよぉ~」
「だよね~……じゃあ、残りは誰の差し金なんだろ??」
こんな会話をしているのは、最近フィリップが夜の街を歩きづらくなっているから。町に出た日は必ず誰かがつけているので、犯人捜しをしているのだ。
「大金を持ってる子供が派手に遊んでるんじゃ、悪いことを考えるヤツも出て来るんじゃなぁい? 簡単にお金を奪えるとかぁ、誘拐したら親から大金をせしめられるとかぁ」
「なるほど……ちなみにキャロちゃんは、なんでつけさせてたの?」
「ご、護衛……」
「いま思い付いたこと言わないでくれる??」
キャロリーナがフィリップをつけていた理由は、単純な好奇心。どう教育したらこんなスケベモンスターになるのか、親の顔が見たかったそうだ。
「僕の親なんて捜しても見付からないけどね~」
「帝都にいないんじゃ仕方ないわねぇ……」
「ププ。やっぱり僕のこと、帝都学院の生徒だと思ってるんだ」
「え? いつもそこに入って行くって聞いてるんだけどぉ……」
「そうだよ~。そう思われていたほうが都合がいいからそこに逃げ込んでるんだよ~」
「いったい君は何者なのぉ??」
「ハタチの旅人って言ってるじゃん。アハハハ」
フィリップが尾行を放置している理由は、帝都学院の生徒と思わせるため。その作戦が上手くいってると聞いたフィリップは、それ以上の情報を出さないのであった。
それからも夜遊びを楽しんでいたフィリップは、たまに顔を出すようにしているミアの酒場でジュースを飲んでいる。
「ねえ~? 今日もアソコ行く~??」
ミアを腕に絡ませながら……気絶したあの日から、フィリップの虜になったらしい……ミアの部屋ではできないことを宿屋でやっているらしい……
「いや、マスターの前でなに言ってんの? 僕たちそんな関係じゃないでしょ??」
「あ、そうだった。2人だけの秘密だったね」
「だからその言い方やめて! ここに来づらくなるから!?」
フィリップは秘密の関係を楽しみたいのにミアが暴露しまくるので宥め、バレバレの店主にも言い訳したら、今日の世間話だ。
「何か面白い話入ってない?」
「そう言われてもね~……ハタチ君の話ばかりだよ」
この「ハタチ君」とはフィリップのこと。奴隷館の紹介状に偽名を書く時に、ハタチと書いたのが浸透している。ちなみにこの名前を知った人は全員「いつも言ってたハタチって、20歳のハタチじゃなかったの!?」とツッコンだんだって。
「なんで僕の話でそんなに喋れるんだろ? 何ヶ月も経ってるのに~」
「そりゃ話題が尽きないもん。最近では夜の人には『夜の帝王』。昼の人には『妖精さん』とか呼ばれてるよ」
「『夜の帝王』は、まぁわかるけど、なんで行動してない昼にまで僕が話題になってんの??」
「なんかね~。たまたま夜に起きた人が、飛んでる男の子を見たんだって。それも何人も。それが話題になって『妖精さん』と呼ばれるようになったの」
「ちょっと待って。そんな不確かな情報で、なんで僕が『妖精さん』になってるの? その人の見間違えじゃない??」
飛んでる男の子だけでは、ミアがフィリップと断定するのはおかしい。しかしミアにはそれ相応の理由があるらしい。
「『妖精さん』を見たら幸せになれるんだって。だから幸せな気分にしてくれるハタチ君以外いないでしょ?」
「占いとかを信じるタイプなんだね……」
ミアが信じる理由は、ただの盲信。これなら昼の人が噂しているのは、自分のことではないと確信したフィリップであった。
ちょっと話し込んで酒場の閉店時間にミアと外に出たフィリップは、泊まりもしないのに行き付けのちょっといい宿屋に一緒に入る。
そこでマッサージをしあったら、いつも通り宿屋の代金を多めにおいて別れを告げる。ミアは自分の家よりベッドが気持ちいいから、いつも寝てから帰っているらしい。
そうして外に出たフィリップは、例の『妖精さん』のことを考え、本当にいるなら捕まえてやろうと上をキョロキョロ見ながら歩いていたら、会いたくない人たちに気付くのが遅れた。
「またあの子供が出歩いてるぞ!」
「今日こそ捕まえてやる!」
悪者だ。
「ヤバッ。衛兵だ! 逃げろ~~~」
「「「「「待て~~~!!」」」」」
いや、帝都を守る衛兵さんだ。いつもフィリップを見掛けたら「こんな夜中に子供が何してたんだ」と追いかけ回しているのだ。
「フゥ~~~。さすがに屋根に登るとは思ってないみたいだな。プププ。全員、通り過ぎてやんの」
しかし、フィリップの身体能力を持ってすれば、逃げるのは楽勝。屋根に登って衛兵がいなくなるのを笑って見てるよ。
しかしその時、対面にある建物の2階の窓が勢いよく開いて女の子が顔を出した。
「あ~! 妖精さんだ~~~!!」
「シ、シーーーッ!!」
そしてフィリップを指差して叫ぶので、フィリップも焦る。
「いたぞ! 屋根だ! 追え~~~!!」
「ギャーーー!!」
その声に衛兵も気付いちゃったので、夜の鬼ごっこは再開。衛兵は協力して屋根に登り出した。
「妖精さんって、僕だった~~~!!」
そう。フィリップが尾行や衛兵を撒く時に、走って逃げるのが面倒な時は屋根を飛び交っていたから帝都市民に見られていたのだ。
こうして夜の鬼ごっこは、難易度が上がったのであったとさ。