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不思議な月の輝く世界で  作者: 千東風子


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第四十二話 黒竜の呪い


おさ殿。この石はもしや」


 アーシェは人形がつけているペンダントに気を留めた。胸元で七色の光を讃えている。


 ライレットがまたもや何かを噛みしめている。


「いい……。素直な子も礼儀正しい子も好きだよ。それに良い目を持っている子も。お見込みの通り、この月輝石げっきせきには、ずーっと月の精霊たちが貯めてきた力が込められている。『黒竜』を人形これに乗り移らせなさい。この石の力が代わりとなって、『黒竜』に捕らわれている魂たちが解放されるだろう。それから、光の精霊の代わりに眠らせなさい」


「先程、風の精霊は、貯めた月の光では、光の精霊の代わりになるには足りないと……」


 アーシェが言い淀むと、ライレットはあっさりと答えた。


「そうだね。あと、ちょっと足りないけど、大丈夫。ちゃんと最後には代わりになれるようになるから」


 最後には。

 アーシェはその意味を問おうとしたが、ライレットは笑って口を閉ざした。


 鳥肌が収まらず、人形の受け取りを拒否したリクの代わりにアーシェが受け取り、慣れた手つきで背負って縛った。


 アーシェが質問を変えて聞いた。


「……おさ殿がなぜこの石を?」


 本当にいい子だ、とライレットは笑いながら今度は答えた。


「私の家系はこの森を守りながら、いつの日か、歪んだ始まりのこの世界から、光の精霊を解放する事を使命としてきたんだよ。妻と娘が黒竜に連れて行かれてから、ずっとこの日を待っていたよ」


 妻と娘が連れて行かれて。


 その意味するところが痛い程分かるアーシェが静かに聞いた。


「……スズの中に『黒竜の呪い』がいることを知りながら?」


「知っていたよ」


「憎く、なかったんですか……?」


「君、もしかして私の可愛いスズのことが憎いの?」


「スズではなくて、黒竜の……」


「今は一緒だよ」


 ライレットの瞳は静かな光をたたえていた。


 アーシェはそれを見ただけで、ライレットはスズを憎んでなどいないことが分かった。


「俺は、……分かりません。『黒竜の呪い』のせいで、我が国は未だに混乱しています。父も兄も、多くの命が奪われました。それはスズのせいではない。関係もない。けれども、簡単に割り切れるものではありません……」


 素直に思いを吐露とろしたアーシェに、ライレットが優しく話しかけた。


「なぜ呪いと呼ばれているのか知っているかい?」


「……いいえ」


「あれは太陽に近いもの。新月の昼時にだけ現れるんだ。新月というのは月がなくなったわけではない。私たちには見えない黒い月が空にある。……さっき君たちを襲っていた火竜の別名を知っているね?」


朱竜しゅりゅう、ですか」


「そうだ。朱麗月あかうるづきの加護を受ける火竜は特に戦闘能力が高く、朱竜しゅりゅうと呼ぶ。『黒竜の呪い』……あの精霊は病を蒔いて人の魂を集めるが、その勢いが朱竜しゅりゅうや他の色の名を持つ竜が圧倒的な力で全てを薙ぎ倒した後のように何も残らないことから、竜になぞらえて『黒竜』と呼ばれるようになったのだ。それがいつしか、あまりに局地的に人が亡くなるものだから『呪い』がついてしまったわけだ」


「なぜ、それがスズの中に」


「さて、想像はつくが、それはこれから行く泉の番人に聞いてごらん。全部見ていたはずだから」


「泉の、番人……」


「さあ、行きなさい。スズにかけた記憶の封印も解けてしまったようなんだ。思い出してしまったら、あの子は自分から眠りにつこうとしてしまうだろう。あの子、いつも自分自身のことを最後にしてしまうから。いいかい? 『黒竜の呪い』の名の由来を忘れてはいけないよ」


「スズの記憶の封印? 名の由来?」


「覚えていればいいよ」


 ライレットは詳しいことには触れず、それだけ言った。


 アーシェはライレットがそれ以上は話す気がないことを見て取った。


「……分かりました。おさ殿はご一緒には行かれないのですか?」


「私は行けないんだ。道はリクに聞くがいい」


 ライレットがまだトーマの背中に隠れているリクに微笑んだ。


「リク。ちゃんと木々の声を聞きなさい。そうすれば道を教えてもらえる。リクにもちゃんと、血は受け継がれているのだから。スズのために、出来るね?」


 リクはトーマの背から顔だけ出して、俯いて聞いた。


「……おさ、こうなることが分かってた?」


「道の一つではあったよ」


「アーシェたちに光の精霊のこと教えたの、()()()だろ?」


「だろうね。彼もきっと、お前たちが望む未来と同じようなものを望んでいるんだろうね」


「なら、なんで、碧環月みかづきの時に助けてやらなかったんだよ?」


「ん? 緑麟りょくりんが君たちをここに連れてきたとしても、光の精霊は水晶から出られなかっただろう。代わりが足りないのだから」


「……今、だから?」


「今、しか、だよ」


 ライレットはリクに近寄り、頭を優しく撫でた。


 リクは俯いたまま、呟くように答えた。


「そっか。なら、行ってくるわ」


「ああ、いってらっしゃい。全部終わったら、スズにラーイを呼んでもらいなさい。ラーイはこの森ではほとんど力が使えない。ラーイをあまり頼ってはいけないよ。帰りは村に寄らずにラーイに学院まで運んでもらいなさい。夏休みには帰っておいで」


〈あんたに名前呼ばれると、本当に寒気がするわ。心配しなくても、キースに言われているから大丈夫よ。私も隠れて付いて行くわ〉


 帰りも風の精霊に送ってもらうことが決定した三人は、「う」と一瞬詰まったが、王立学院の門が閉まる刻限に間に合うならば、気持ち悪いのくらいは我慢しようと不満を飲み込んだ。


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