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不思議な月の輝く世界で  作者: 千東風子


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第四十話 世界の成り立ち


 その様子に溜め息をついたリクが、何かを覚悟するように瞑目してから、そっと話を引き取った。


「追い出したはいいけど、世界を照らす光が足りなくなったから、慌てて光の精霊を捕まえてこの世界に閉じこめたんだよな」


「リク?」


 アーシェがぎょっとしてリクを見た。


 まるで、リクも知っていたかのような話しぶりである。


〈そうよ。水晶に閉じ込めたの。……よく覚えてるわ。光の精霊の従者として水の精霊がいたわ。争いの末、水魔にとしたけれど。水晶の回りに泉を作って、光の精霊を守りながらこう言ったわ。「どれ程の時がかかっても、我が君をここから出してみせる。身代わりはおまえたちが守る人間の魂だ」と〉


「ちょっと、待った。……待ってください。追いやったとか、閉じ込めたとか、ものすごく悪人の所行に聞こえますが……」


 トーマが慌てて話を止める。嘘を吐けない精霊から、とんでもない告白をされていることに気が付いたのである。


 聞いてしまったら、もう、後戻りは出来ない程の世界の秘密に。


〈そうよ。太陽から見たら、非道もいいところでしょうね。世界に月の扉が付くまでは、皆は一緒だったの。月に色はなく、ただ光り輝き、精霊も皆ずっと起きていた。でも、皆の力が満ちるにつれて世界が狭くなってきた。そこで、月と太陽で世界を分けて住み分けようということになったのだけど、喧嘩になったの。どっちが元々のこの世界を取るか、でね。少数だった私たち月の一族が出て行くことになったわ。……でも、嫌だった。それで、逆に追い出して月の扉を閉めたのよ。でも彼らにとって、私たち用に作られた月の世界は狭くて、七つもの数になったの。そこから、この世界の始まりよ。鍵をかけたのは、他でもない光の精霊よ。怒った太陽の一族と月の一族でいくさにならないように、お互いの世界を完全に閉じたの。これでお互い別れて上手くいくと思ったわ。……でも、この世界にも太陽が必要だった。そこで光の精霊をかどわかして水晶に閉じ込めて、水晶を通して光の恩恵を受けることにしたわ。ずっと閉じ込めるつもりなんてなかったのよ? 私たち月の精霊が一年ずつ交代で起きてこの世界を守って、他の精霊は眠って力……月の光を貯めていたの。そうして、その力を使って、光の精霊の恩恵が無くても世界としてやっていけるようになった頃、光の精霊を解放しようとしたわ。……それが出来なかった。水晶は既に世界の一部に、この世界を支えるいしずえになってしまっていて、光の精霊を水晶から出すと水晶が崩れてしまい、世界も崩れるわ。だから解放出来なかったの。代わりになるには、貯めてきた月の光では足りなかった。そうしてどうしようも出来ないうちに、着々と『黒竜の呪い』が人々の魂を貯めていったわ〉


 一気に語られた精霊の話に、アーシェもトーマも反応が出来なかった。


 精霊とは気まぐれだがこの世界で最も高貴な者ではなかったのか。


 この話が本当だと、人間以上に感情的で泥臭い、ただの国盗り合戦ではないか。


 精霊は嘘を吐けない。世界の頂点に君臨する力を持つ精霊たちは、嘘を吐く必要が無いからでもある。


「勝手な……」


 絞り出すようにトーマが呟き、ラーイが真面目に答えた。


〈そうよ。だから何? 今ここで生きているこの世界が保たれているのは、その勝手のおかげよ。もうひとつ言うと、私はこのまま光の精霊が眠っていても、スズが眠ることになっても、どちらでも良いわ。水晶さえ無事ならばね〉


「ダメだ!!」


 アーシェが怯まずに声を張った。


「それは、ダメだ!! スズはこの世界の者ではない! 後始末を押しつけるわけにはいかない!」


 リクが両手を上げて宥めるように言った。


「とりあえず、もう少し光の精霊には寝ててもらって、後で皆で考えよーぜ。今は少しでも早くその光の泉に行くことが先だろ」


「……それがいい。少し情報を整理して頭を冷やしてから考えるべきだな」


 トーマも息を吐いて賛同する。とてもじゃないが即断即決出来るような案件ではない。


「んで、光の泉はどこにあんの? 遠かったら、びゅーんって送るくらいのサービスはしてくれるんだろ?」


〈いいけど、森の入り口までよ? 私の力も及ばない森だから〉


「森?」


〈灯台元暗しよ。あの村の奥の森の中にあるわ〉


「神秘の森か!?」


 リクの叫びにアーシェが尋ねた。


「知っているのか?」


「……オレとスズが住んでたところ。泉って、あれか」


〈そうよ。太陽の加護を受けた者にしか真実の姿は見えないわ。マセガキ、あんた、頑張んなさいよ? さあ、飛ぶわよ〉


「待ってくれ。バッファに伝言を頼めるだろうか。ここの後始末をして、学院正門で待っててくれと。スズとみんなで刻限までには必ず来るから、と」


 アーシェの懇願に、ラーイは〈まあいいわよ〉と請け負った。そう、ラーイが言うや否や、三人の姿は風にかき消された。


〈さーて、アホの第三公子さん? あなたには過ぎた話だったわね。ちょっと記憶を消させてもらうわね。その後はあなたは大人しくバッファとやらにお守りされてなさい?〉


 柔らかい風が吹くと、一人呆然と立ちすくんで話を聞いていた威張りん坊の男は、こてんと眠りに落ちた。


 起きた時には、火竜が消えたあたりから不思議なことに何も覚えていなかった。


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