七
それから季節は流れ、盛夏となった。橘が花開き、蒸し暑さが京を襲う。
その頃、東宮が元服なさったのにあわせて、帝が御位をお譲りになり、右大臣の一の姫が新帝へ入内した。
桔梗たちの父内大臣は、五節の舞姫をつとめた、桔梗たちの腹違いの妹を入内させようと画策していたために、出遅れたことを歯がゆく思ったようだった。
そのせいか、右大臣家とのつながりを作るために、桔梗に縁談を持ってきた。相手は右大臣の三の姫だという。一方の藤は、叔父大納言の二の姫との文通を続けていたのだが、何故か、なかなか成婚とは相成らない。
そんな中、父は、息子たちを兄弟そろって急ぎで呼び出した。
「ああ、一体どういうことなのじゃ、そろいもそろって我が家に逆風がふいておる」
「父上、何が起こったのですか」
「帝が、そなたと話を進めておる右大臣の三の姫を、どうしても后にしたいと仰せなのだ。桔梗、そなた、なにか帝の不興を買ったのではあるまいな」
「恐れながら父上、新帝はまだ帝となられてから日も浅く、私はお言葉を賜ったことすらござりませぬ。左様なことはあり得ませぬ」
「では何故横から…ああ、藤も参ったか。そなたにも知らせがある」
「遅れて申し訳ございませぬ、父上。……兄上もお久しぶりです」
遅れて父の元へ参上した藤が、桔梗の横に座った。
二人はあの悪夢のような夜以降、何度か今は使っていない別邸で逢瀬を重ねている――桔梗は全く納得していないが――ために、久しぶりに会うわけではないのだが、父の手前、そんなことはおくびにも出さない。
「藤、そなたもなにか粗相をしでかしたのではないか?我が弟大納言が、二の姫がそなたとの縁談を破棄したいと言っていると相談してきたのじゃ」
「それは……二の姫と直截お話しして決めたことでござります。父上」
藤の予想外の言葉に驚いたのは父だけではなかった。はじかれたように、桔梗も弟の表情を窺った。
「何を勝手なことを申しておる!」
「お許しくださりませ、私などはあの方に相応しくありませぬ」
「藤!そなたという奴は――」
二人の口論が激化する。どうしたら止められるか、桔梗は考えていた。そして、両方の問題を解決する策を思いついた。
「お待ちください、私に考えが」
「何じゃ桔梗、申してみよ」
桔梗は、息を大きく吸って、はっきりと話し出した。
「二の姫を私の性質にいたします。そして、藤に、帝に此度のことの理由を伺ってこさせるのです。それならよろしいでしょう父上」
一瞬の沈黙の後、父の表情が明るく輝いたように見えた。