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十九
厳しい冬が終われば、春は必ず巡ってくる。
人里離れた丘の上、満開の花の下で瞼を閉じた男は、心底幸せそうに呟いた。
「ごらん、藤。桜だよ。ずっと一緒にいるって、約束しただろう?私はずっとお前の側にいるからな――」
一斉に野に咲く花と、遠くまで見渡せる青空。男は、浅い息で精一杯、霞んだ空を見上げる。突風が、花弁を吹き散らす。
『兄上。漸く貴方の方から、お側に来て下さるのですね──』
はたしてそれは風の音を聞き違えただけであったか。
大樹の幹に寄りかかったまま、もう二度と動くことのない指先に、薄紅色の花びらが一枚、ひらひらと舞い降りた。




