十八
憔悴した顔で戻ってきた桔梗を、二の姫は優しく出迎えた。
彼女はただ側に寄り添って、桔梗が自ら口を開くのを待った。やっと人心地がついた桔梗が今日の出来事を話し始めたのは、夜半のことだった。
「……帝が、弟の話をされたのだ」
「はい」
「彼奴は、私のために死んだのだと」
「……そんなはずは、ございませんわ」
二の姫の言葉が無責任な慰めに聞こえて、桔梗は声を震わせた。
「貴女に、何が解る」
「桔梗様」
「貴女は、私達のことなど、何もしらないはずだ――」
不意に、二の姫の掌が桔梗の口を覆った。
「いいえ、知っております。私、全部存じ上げておりましたの」
どうかそのままお聞きくださりませ、と呟いて、二の姫は手を下ろし、姿勢を正した。その真剣な様子に、桔梗は諦めて大人しく話を聞くことにした。
「私は藤の君の思い人が誰か、わかってしまったのです。貴方が私に触れてこない日があるのが不安になって、密かに貴方のことを調べさせましたから。私は、全てを書いた文をお送りしました。藤の君は否定なさらなかった。ただ、『すべて本当のことだとしたら、貴女はどうなさいますか』とお返事が来ました」
じじ、と燭台の火が揺れた。そこで初めて、桔梗は自分が息をするのを忘れていたことに気がついた。
「きっとこれは真実なのだと思うと、胸が苦しくて。私は病に倒れました。そして、今度は私が、『私の気分が優れないのは、あなたの想いのせいでしょうか』とお送りしました。そうしたら、『貴女が仰るようなことはございませぬ。私の想いがどんなに貴女を怨んでいたとしても、お守りのあつい貴女に届くはずもない』と」
その文言は桔梗も知っている。たまたま見てしまった文はその問いに対する返事だったのかと、変に納得した。
「あの方の想いの強さに勝てるのだろうかと、何度も悩みました。けれども、私には貴方と離れることはできなかった。私と藤の君はお仲間。貴方という火の輝きにとらわれてしまった、哀れな蝶なのです」
隙間風が、二の姫の髪先を揺らした。
「焦がされると解っていながら、惹かれずにはいられなかったのですもの――」
一筋の涙が二の姫の頬を伝う。桔梗には、二の姫の姿が、最後に見た藤の姿と重なって見えた。
――もしも、もう一度最後に逢ったあの瞬間に戻れるなら、私はきっとこう言うだろう。
『私はお前を、愛している』と。間違いなく、私はお前を愛していた。こんなことになるなら、一度だけでも一言だけでも、素直に伝えれば良かったのだ。




