十五
「全てとは、どういうことだ」
「私の想いを、すべてお伝えしようということです」
「……申してみよ」
怖くないと言えば嘘になる。しかし、桔梗は今このときに聞かねば、後悔することになるだろうと確信していた。発言を許された藤が、ぽつぽつと話し始める。
「最初、私は兄上を脅しました。秘密を握って、情人となれと。この時点で、私は間違っておりました。そして、貴方以外には何もいらないとまで思い、縁談を断って父上と兄上にご迷惑をおかけした。その上、私が兄上と引き合わせた姫君に嫉妬し、怨み、貴方を傷つけた。勝手なことばかりして参りました。そして私は、己の罪深さを自覚しました」
罪を告白するような藤の声音に、桔梗の胸も切なく締め付けられる。しかし、それを表情に出さないように努めていた。
「……もうよいのです。貴方の秘密も、決して誰にも言いませぬ。もうこの関係は終わりに致しましょう。貴方は、私から解き放たれるべきです。今後一切、兄上と共寝するようなことはありますまい」
弾かれたように、桔梗は顔を上げた。それはとても有り難い申し出のはずなのに、何故か胸のざわめきがおさまらない。
「最後に一度だけ、仰ってはくださりませぬか」
「……何をだ」
「一度で良いのです。それで全ての諦めがつく。ただ一言――『お前が憎い』と」
風が止む。周りの音が全て消える。二人だけが、世界から切り取られている。
「藤」
「はい」
「私は、私は、お前が……っ」
「ええ」
視界が歪んで、藤の顔も見えなくなった。頬の上を熱い何かが通る。
「お前が、憎くて仕方ない――誰よりも、何よりも、お前以上に、私をここまで憎しみに駆り立てる者はおらぬ」
桔梗の喉からは、それ以上、言葉が出てこなかった。返答も聞かないまま、逃げ出すように庭に走り出て、元来た道を引き返す。どれだけ拭っても涙が溢れて、止まらなかった。桔梗は感情の整理がつかぬまま、心配する房親を無視して馬を走らせた。
これが、二人の交わした最後の会話となった。




