褒めちぎるだけの関係
「こんにちは」
後ろには、爽やかな青年。
「こんにちは」
私は、仕事が出来ない冴えないOL。
この時間は、ベンチに二人きりになる。
電車が来るまでは、ほぼお互いの声しか聞こえない。
いつも一緒になる。
同じベンチだが、お互い向く方向は違う。
背中を合わせている。
駅のホームでしか会わない。
最初は、青年から話し掛けてきた。
とても嬉しかった。
今日も、青年に話しかけられた。
「今日もかわいいですね」
私も、すかさず返す。
「あなたもカッコいいですよ」
会話は、線路を走るように続く。
「新しいコートですよね。そのピンクのコートが一番似合うのは、かわいいあなたかもしれません」
「今日もスーツが似合っています。夕日が反射して、かっこよさが増しています」
「声もかわいいですから、モテますよね」
「あなたこそ、低い良い声もってますね。癒されます」
電車が来ることを、知らせる音が鳴る。
青年は、後ろのベンチから離れ、視界から消えた。
褒められたことで、明日もまた頑張れそうだ。