表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

婚約破棄され、売られた伯爵令嬢

作者: 桜井正宗
掲載日:2022/01/30

 ようやく孤独から抜け出し、辺境伯ロキと婚約を結んだ。もうひとりぼっちじゃない。彼から必ず幸せにすると約束してくれた。


 ロキは辺境伯であり、その人柄の良さも十分に理解できていた。これだけ誠実な人なら、きっと上手くやっていける。そう思った。


 けれど、ロキはある日、わたしを呼び出してこう言った。



「……婚約破棄するよ、エニス」

「はい? なにをおっしゃるのですか? 御冗談でしょう?」

「冗談なものか。俺は至って真面目。悪いんだが、俺の為に“金”になってもらう」


「……は? は? 金? どういう意味ですか」



 問い詰めると彼は嫌そうな顔をして、手を叩く。奥の部屋からゾロゾロと衛兵が現れてわたしを取り囲む。



「悪いな、エニス。お前を信用させるのに苦労しなかった」

「意味が分かりません!」

「意味? 意味などないさ。エニス、お前はな……俺の借金返済の為に“売られる”んだよ」


「売ら……れる?」


「ああ、お前は美しいからな、それだけの(・・・・・)価値はある(・・・・・)という事だ。つまり、俺は最初から君を愛してなどいないし、金にしか興味がなかったというわけさ」



 うそ……うそよ。

 だって彼はお金に困ってないって……お屋敷だって立派なのに。も、もしかして……わたしの他にも騙して……そういう事なの?



「わたしをどうする気ですか!」

「言ったろう。売るとな。大国アトリーズの奴隷商人は美しい女性を高く買ってくれる。お前ほどなら一生遊んで暮らせる額かもな。あはははは!!」



 高笑いして見下すロキ。

 ひどい、ひどいわ。



「放してっ!!」

「そうはいかん。ここでお前には眠って貰うぞ」



 ――それから、わたしは意識を失った。



 ◆



 目覚めたとき、わたしの首と手足には鎖が繋がれていた。重くて、キツくて、痛い。……わたし、本当に売られたんだ。


 今は馬車らしき中にいた。



「……大国アトリーズへ向かっているの?」



 しばらくして馬車は止まった。

 馬車を操る『御者(ぎょしゃ)』が現れ、わたしを鋭い目つきで(にら)む。……彼はいったい。アレ、しかも鎖を外してくれている。



「どうやら気づいたようだな、エニス」

「あ、あなたは……?」


「僕は“ジークムント”という帝国の聖騎士さ」


「ジークムント……帝国の聖騎士様!? わたしを大国に連れて奴隷にするんですか……」



 金の髪を爽やかに(なび)かせるジークムントは、鋭い目つきを一転させ、優しい穏やかな表情をした。よく見ると腰には剣を携えていた。その格好も立派で、騎士そのものだった。



「そんな事はしないよ」

「え……」



「僕はね、ちょうど大国アトリーズの奴隷商人共を壊滅させてやったところでね。その帰りにたまたま残党と君を発見したんだ。ほら、見てご覧、あっちにボロボロになっている馬車があるだろう。

 この馬車も含めて奴隷商人のものさ。だから、二つある内の一つの馬車を奪って、奴隷商人に変装してロキと取引をして君を連れ出したわけさ」



 草原の向こうに滅茶苦茶に破壊された馬車があった。このジークムントという騎士は、助けてくれたのね。……良かった。わたしは安心して思わず涙が出た。


「ありがとうございます、騎士様」

「いいよ。僕はどうしても奴隷商人が許せなかった……。三年前、僕の妹も売られてしまってね……辺境伯ロキが特に許せないんだ」


「……ジークムント様の妹さんも騙されて……」


「そうだ。妹はアトリーズで散々な扱いを受け……この世を去った。だから僕は妹の無念を晴らすために聖騎士となった。もうこれ以上、被害者を出さないためにね」



 それを聞いてわたしは、ショックを受けた。ロキそんな悪魔のような人だったなんて思わなかったからだ。あんなにも優しくて温厚な人が……実は、奴隷商人と繋がりがあって……女性を騙していたなんて……あまりにも酷い。



「お願いです、ジークムント様……ロキを……、あの人でなしに制裁をお願いします」

「ああ、今から戻るところだ。どうする? エニス、君も来るかい?」


「はい……この目であの男が罰を受けるところを見届けたい。そうではないと……許せないんです」


「分かった。馬車に乗ってくれ」



 ◆



 辺境伯のお屋敷に戻った。

 異常を察知した衛兵十人と、ロキが現れた。


「何事だ!! ……って、さっきの奴隷商人ではないか。何をしに――なッ! なぜだ! なぜエニスが戻って来ている!!」



 静かにジークムント様が前へ出る。



「辺境伯ロキ。僕はランゴバルド帝国の聖騎士・ジークムントだ。三年前、妹のエマを騙し、売ったな! そして死に至らしめたこと……今日までずっと忘れなかったぞ」


「き、貴様……あの没落貴族のバーレイグ家の長男か!! 貴様は価値のない奴隷として売り飛ばしたはず!!」


「ああ、大変だったよ。この三年間……血の滲むような毎日。僕はずっとこの日の為に剣技を磨き上げ、聖騎士にまで上り詰めた。悪漢(あっかん)ロキ、ここで沈め」


「ふ……ふざけるなあああああ……!!!」



 発狂するロキは、衛兵十人を差し向ける。さすがのジークムント様でも、あの手練れを相手に――え。


 (さや)から剣を抜かれるジークムント様は、刃を赤く光らせ、力強く振った。その力は暴風に匹敵。衛兵十人をまとめて吹き飛ばし、戦闘不能にした。



「す、すごい……」



 刹那の出来事に、わたしはただ驚くばかりだった。これが聖騎士の力……。



「……ば、馬鹿な。……ありえん……ありえん!! あの奴隷が……どうして、どうしてだァ!!」


「ロキ、罪を認めて観念するがいい」


「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなあああああああああああああああああああ…………」



 護身用に持っていたのだろうか、ロキは剣を抜いた。でも、ジークムント様はあまりに強かった。目にも止まらぬ動きでロキの両手を吹き飛ばしてしまった。



「へ……ぎゃああああああああああああああああああ!!!」



 ジークムント様の攻撃はそのま続いた。更に両足すら簡単に切断。



「ぬおぉああああああああああ…………」



 ロキは情けなく絶叫し、地面に倒れた。



「罪を認めるか、ロキ」

「……お、おれのてぇがぁ、あしがぁ…………」


「分かった、もういい」



 剣の刃を真っ赤に染め、ジークムント様は思いっきり剣を振り下ろした。次の瞬間には、爆風が飛んでいき、ロキとお屋敷を跡形もなく消し飛ばしてしまった。


 な、なんて衝撃なの……目の前に雷が落ちたみたいな物凄い力。こ、ここまでとは思わなかった。でもこれでロキは消え去った。


「……ジークムント様」

「終わったよ、エニス」


「しかとこの目でロキの最期を見届けました。わたしも含め被害者の方々は、ジークムント様に感謝しております」


「そうだといいな。でも、ありがとう、エニス」



 ようやく笑顔を見せて下さった。

 わたしも彼に笑顔で感謝を示した。



 ◆



 一週間後。

 ランゴバルド帝国・バーレイグ家。



 ジークムント様に抱きかかえられ、ベッドに押し倒されていた。わたしと彼は婚約を結び、永遠を誓った。


「愛しているよ、エニス」

「ジークムント様、嬉しいですっ」


 あのロキの一件から、ジークムント様は英雄視され、帝国の民に留まらず周辺諸国からも絶大な人気を得ていた。狙う女性も多く、わたしは焦っていた。けれど、わたしに振り向いてくれた。



「君のような心の強い女性が好きなんだ」

「わたしなんて……」

「いいや、エニスは最後まで僕を信じてくれて、ついて来てくれたじゃないか。ここまでね。もうこの焔の瞳には、君の姿しか映っていない」


 宝石のようなルビー色の瞳には、わたしだけが映し出されていた。それが嬉しくて、たまらなくて、(まぶた)を閉じた。


 唇にそっとキスをしてもらい、わたしは涙が零れ落ちた。わたしはもう、ひとりぼっちじゃない――。

~こちらも応援お願いします~


亡国の大聖女 追い出されたので辺境伯領で農業を始めます


https://ncode.syosetu.com/n3095hj/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] どんな理由があろうとも勝手に奴隷として売買したら犯罪だし当然の結末ですな。面白かったです。
2022/01/30 13:37 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ