魔王討伐に際して、3000Gはあり得ない(プロローグ)
俺の名前は、割高十一、26歳。
悪徳金融業者、ハッピーファイナンスの社長を勤めているクズだ。
趣味はTwitterを見て、騙せそうな大学生にDMを送ること。これが、100回に1回は反応があるから面白い。
特技は、嘘つきとクズを見分けること。まあ、仕事柄必要だし、この特技があったからこんな仕事を始めようと思ったわけだ。
そんなクズな俺だけど、クズみたいに死んだ。金を貸した奴に刺されて無様に死んだ。まあ、因果応報という他ないのだけれど、俺は生きたいと願った。
他人がどれだけ苦しんでも構わないけれど、自分が苦しむのは辛いから嫌だ。すると、俺の願いは少し俺の予想とは違えど叶った。
俺は気づくと、無駄に大きい城の扉の前に立っていた。
「おい、トイチ、ぼーっとしてないで早く行こうぜ」
「そうだぜ、トイチ。こんな怠いの早く済ませて、女のとこ行こうぜ」
そして、見知らぬムキムキマッチョマンたちにあたかも友達かの様に話しかけられていた。なんなんだこいつらと思いながらも、おうと返事をして、扉を開き、前へ進んだ。
「おお、よくきたな勇者よ。さあ、世界を救うため魔王と戦う冒険に出かけるのじゃ」
王冠を被ったサンタクロースが俺の目を見ながらそう言った。
なんだろう、この世界。え、もしかして俺、ド◯クエの世界に蘇っちゃったの、ザラキかけられちゃったの?
まじかよ、俺FF派だよ、竜◯しか知らないよ。
そんな事を考えていると、
「勇者よ、さあ3000Gを受けとれ、これで装備を整え、冒険に出発するのじゃ」
「あの、すいません、サンタさん。3000Gって、この世界で装備整えたら、どれくらいのお金が残るんでしょうか?」
「サンタさんってだれじゃ、失敬な。ワシは、ドボルベルク王国第73代国王パイラルじゃ。そうさのぉ、一番高い装備を全員が買ったら、ちょうど1Gも残らない様になっておる」
え、俺たち世界を救うために冒険に出る様に命令されてるんだよね。どうして、3000Gしかもらえないの。バスターソード背負った少年は、自分の目的の為に戦ったけど、勇者はちがうよね。
しかもさっきから、この王様から今までで嗅いだことのないレベルのクズの臭いがするんだけど、明らかに国民から不当な税金を徴収してる臭いがするんだけど。
「すいません、王様。この国の国家予算って、どれくらいなのでしょうか?」
俺は、思わず聞いてしまった。だって明らかに金もってるもの。3000Gは俺でもドン引きするくらい割りに合わない仕事だもの。
「さっきから、変な事を聞く勇者じゃのう。10億Gほどじゃ」
「細かく、教えてもらえませんか?」
「なんなんじゃ、くどいのぉ。12億8653万程じゃ。端数など覚えておらん」
「あ、俺遊び人に転職することにします。というわけで、王様、みんな、さようなら」
「な、なにを言っておるのだ勇者よ。そなたには、使命がーー」
王様がそう言いかけた所で、大きなハンマーを持ったマッチョマンが割り込んで言った。
「大きな使命を持つ者には、大きな責任が伴うのです、王よ。そして、大きな責任を果たす者には、大きな報酬が必要な者なのです」
どうやらこのハンマッチョは見た目の割に軍師キャラらしい。そしてどうやら発言から察するに、俺の考えをわかってくれているらしい。
「ほ、報酬なら、民からの称賛があるではないか」
すると次は、細目の槍を持った男が、
「いやいや、王様。報酬に民からの称賛ってのは卑怯でしょう。仮に民が称賛をくれるとして、王様は僕たちになにをくれるって言うんですかい?」
こいつはどうやら、生意気キャラの様だ。槍使いには、噛ませキャラが多い気がするけれど、こいつはどっちだ?
「魔王を倒した暁には、私の娘達と結婚させてやろう。そうすれば、次代の王はお前たちの内誰かじゃぞ」
王は、これならいいじゃろ、と言いたげな様子だ。
だが、足りない。
「なるほど、王の御好意、大変感謝いたします。しかし、万が一、奥が一、私が破れる可能性もございます。その為に、手付金としてもう少しGを頂くことは出来ないでしょうか?貧しい暮らしをしている、母と妹のために、先にお金を渡しておきたいのです」
「むむむ、な、なるほど。わかった、ではいくら欲しいのじゃ?」
「そうですね、9000ほどもらえると嬉しいのですが、どうでしょうか?」
「き、9000Gか、なるほど厳しいが、わかったその条件でーー」
王が条件を飲もうというところで、細めがすかさず、
「王様は冗談がお好きな様だ。9000Gなど、1ヶ月も普通に暮らせば無くなってしまうではありませんか。それとも、我々に1ヶ月で魔王を倒してこいとでも? まさか、そんなことはおっしゃらないですよね?」
そう言った。もしかしたら俺の仲間は有能なのかもしれない。勇者のパーティーメンバーとしては終わってるけど。
「その通りです、王よ。民の気持ちを理解できる名君であれば、民の月にかかる費用くらい把握しているのが道理であります。王よ、あなたは我々の口でもう一度言わねば理解できない暴君なのでしょうか?」
ハンマーも阿吽の呼吸で細目に合わせてきた。
話し方が気になるけど、今はナイスだ。暴君なんて、面子が全ての生き物だ。これだけ煽れば、引けないはずだ。俺もこいつらに続いて、やってやるぜ。
「別に、俺たちは冒険に出なくてもいいんですよ?そしたら、まあ人間は全員滅びるでしょうし、俺はあなたが協力してくれなかったと国中に言い散らかしますけど、事実ですしいいですよね? まあ、俺だったらそんな王様嫌だけどなぁ。一揆、起こしちゃうけどなぁ」
しばらくの間、沈黙が続いた。俺にとっては心地よい沈黙だったけれど、王様は苦虫をすりつぶした様な顔で、俺の目を睨みつけていた。けれど、しばらくして、
「……った。」
「え、なんておっしゃいましたか?」
3人とも笑顔で聞き返した。
「わかった、9000万g用意すればいいんだろ。ああ、わかったわかった。本当お前ら最悪だな」
王は舌打ちしながらそう言った。
もはやそこに王としての威厳は無かった。
ただ、王様は一つ勘違いしている様だった。
「王よ、あなたは計算を間違えている様だ」
「ラインネルソンよ、お主はなにを言っておるのじゃ。計算もなにも、9000万用意すればいいのだろう?」
どうやら、ハンマーの名前はラインネルソンと言うらしい。
「いやいや、王様。だれが全員で9000万なんて言いました? そんなはした金、3日もあれば無くなっちゃいますよ。やっぱり王様には、民の気持ちがわからないのですか?」
「黙れ、フィーロ。お主は、何を言ってるんだ」
細目はフィーロと。
最後は、俺がビシッと言ってやるか、勇者らしく堂々とな。
「2億7000万Gよこせよ、サンタ。お前金もってんだからケチケチすんなよ、仮にも王だろ、おい」
勇者らしく、格上相手にも臆することなく俺は言った。王様は、プルプル震えていたけれど最終的に、金庫から2億7000万Gを、27個の頑丈そうなケースに入れてもってきた。どうやら、この世界でも紙幣は存在するらしい。チップで出てきたらどうしようと思ったけれど、杞憂に終わって良かった。そして、計2億4000万Gをそれぞれの銀行に入金し、残りの3000万Gを3人で分けて、各々で管理することにした。
俺たちの性欲に支配された、魔王討伐物語が今始まる。
所持金 勇者トイチ 9000万G
ラインネルソン 9000万G
フィーロ 9000万G
計 3人 2億7000万G