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09.初顔合わせ

 大きなリュックを背負い、チェック模様のシャツとヨレヨレのジーパンを履きながら最寄り駅の入り口前に立つこと10分。いくら待てどシュウは現れない。

 初めての東京、そして見知らぬ相手と会うことに不安に陷っていると声をかけられる。


「きみが太陽くん?」


 180cm超えの細身な身長と、ワックスで整えた茶髪が印象的な青年が眩い笑顔を向けながら近づいてくる。影山は顔を凝視すると、ツイツイターのアイコンに表示されているシュウだと気がついた。モデル顔負けの小顔と容姿をみて、影山は圧倒される。

 影山はシュウに見惚れながら言う。


「はじめまして、太陽です。写真で見るより顔が整ってますね」

「うん。よく言われるかなぁ」


 目を細くし、無邪気に笑うシュウ。そんな姿に影山は軽い劣等感が生まれる。ネットではイケメンだとチヤホヤされてるが、実際はブサイク寄りの容姿。知ってはいたが、こうもイケメンが現れると現実を思い知らされる。

 眉を顰め、申し訳なさそうに笑う影山。


「恥ずかしいですよね、イケメンと持て囃される男がこんな顔で……」

「俺は色んな実況者と交流があるけど、実際容姿までイケてる人って少ないよ?」


 シュウは言う。

 髪がボサボサの人、清潔感がない人、格好がダサい人、小太りの人、色んな人が沢山いる。それでも年齢性別関係なく、交流を楽しんで自分がつくりあげた実況を楽しんでいる。


「だから太陽くんも自信持ちな! 俺、いい歳したおっさんが乙女ゲーム風の美青年アイコンでチヤホヤされてる人知ってるから」


 影山は無駄に美化されたイラストでチヤホヤされているので無言になる。悪気がないシュウだったが、流石にうまい返しを思いつかない。

 影山は話題を変える。


「……シュウさん、遅刻しましたよね?」

「あはは! 悪い悪い。寝坊した」


 悪びれる様子もなく、笑って誤魔化すシュウ。そんな姿に影山はムッとする。


「まっ、いいんですけどね。初めての東京、初めての顔合わせで不安でしたけど?」


 不貞腐れたように突っかかる影山。シュウはそんな様子に申し訳なく思ったのか発言する。


「わかった、わかった。きみの服ダサイから俺のクローゼットから好きな服持って行っていいよ」

「だ、ださい!? 僕がですか?」

「……ダサいだろ。やっぱり自覚なしか。俺さ、太陽くんの配信みてたけど、コメでも指摘されたじゃん? センスゼロだもん」  


 シュウはハッキリと事実を伝える。一緒に生配信するなら、こんなダサイ格好をした男は生理的に無理だと感じたのだろう。勿論、悪気はない。

 影山は今まで指摘してくれる友達がいなかったので戸惑う。   


「ダサイって言われたの初めてです」

「ホントか? こんなザ・オタクって格好、今どきいねぇぞ? 帽子もダサいし、この際だから一式服をプレゼントする」

「いいんですか?」

「大学生の太陽くんには高い服ばかりだけど、着てない服ならいくらでもあげるから」


 そんな会話をしながら歩くこと数分。目の前には大きなマンションが見えてきた。

 シュウはそのマンションに入ると影山も続く。 


「ここがシュウさんのご自宅ですか?」


 高級ホテルのような広いエントランスホールを見て、恐る恐る尋ねる影山。

 シュウは平然と応える。


「そうだけど?」

「シュウさんのご職業は……」

「職業? あはは! 太陽くんって天然? 俺の職業はゲーム実況者。ゲームをコニコニ動画に投稿して金儲けしてんの」


 腹を抱えながら大笑いするシュウ。滑稽だったか、そんなことを思ってしまう。


「ゲームを実況して、収入を得るなんて初めて聞きました」

「太陽くんは知らないの? 動画って広告流れるでしょ? 広告1再生につき0.1〜0.3円貰えるの。だから10万再生されたら1万〜3万になるってわけ。それを毎日続けたらどうなると思う?」


 シュウは口元を緩める。

 影山は考える。動画に10万再生が続けば月30〜90万。70万再生なら70〜210万。その他にも投稿した動画で再生された広告収入も入る。思わず顔を見上げる影山。

 シュウは言う。


「すごいっしょ? もう一般企業で働くことなんて出来ない。俺達は甘い汁を吸ってるってわけだ」


 自信満々に告げるシュウに、影山は驚きのあまり食い気味になる。


「僕にもできますか?」

「さあな。でも中高生のファンを増やせばあっという間にトップにいけるぞ。太陽くんは勢いがあるし、俺も微力ながら協力する。ただ、年収が8桁いくと税金がすごいから覚悟しとけ」


 苦々しく笑うシュウ。夢があるコニコニ動画生活。影山の夢は膨らんでいくばかりだ。だが、影山の登録者数は現在2万以下。この調子だと夢は儚く散る。

 思わず影山は聞く。


「中高生のファンと言っても難しいですよね? どうすればファンになるんですか?」

「一番簡単なのは恋心かな? 中高生って色々知ってると思いこんでるけど、実は大人と比べてまだ経験が浅い。そこを狙うんだ」


 シュウは言う。

 大人と違い、狭い世界で生きている子供達は悪い意味で純粋で、自分が経験した小さな世界が全てだと思いこんでいる。その小さな世界観が大人にとって好都合になる。

 自由に食べてもいい果実が沢山あるなかで、一つだけ食べてはいけない果実があるとする。理由を伝えず、触れたり食べてはいけないと何度も強く伝えれば好奇心を掻き立て理由を探る。大人なら他に興味を引くものを知っているので無関心だが、経験が浅いと他を知らないので探ってしまう。

 最初は不透明な謎に唆られ、追求していた感情は、次第に己の想像力で理解しようとする。もしそれが果実ではなく、人なら言葉を話すので理解を得るため知らずに夢中になる。

 そんな話をシュウはする。影山は唸る。


「経験が浅い子を狙えってことですか?」

「そういうこと。経験豊富だと比較されてつまらないって思われるだろ?」


 シュウは自信に満ち溢れていた。彼は顔がいいので、淡い恋心を抱きながら視聴する女性ファンが多いからだ。飽きないように親近感を持たせる言葉を定期的に言ったり、動画の編集や会話にも気合を入れている。

 それに対し影山は、女性の恋心を利用することに違和感を覚える。


「恋心ですか。僕は年齢性別関係なく、慕われる実況者になりたいですね」


 シュウは不敵に笑う。


「じゃあ無理だ。太陽くんも自覚してるはずだけど、キミの8割以上が女性ファンだよ? 自分がメインヒロインだと勘違いしてる夢みる女子。もう少し考えて発言した方がいいよ」


 シュウは馬鹿にするように言えば、面白そうに喉を鳴らす。

 シュウは影山の顔に近づく。


「俺は出来るよ? 太陽くんをトップにすること。今まで俺達がしてきたことだから簡単さ」


 影山の口元が引きつる。

 シュウは発言を続ける。


「第一、きみは歌が下手じゃん。チヤホヤされていい気になって、成長を一切みせない。俺が提案した以外に伸びしろがないの」


 ハッキリと告げるシュウ。

 影山は胸の動悸が激しくなる。冷や汗が溢れると、影山は恐る恐る伝える。


「そ、そんなの分かりませんよ? 練習すればプロ並みに上手くなるかも知れませんし、それ以外に特技があるかも……」


 顔色を伺うように見つめれば、シュウは落ち着いた口調で言った。


「ふぅん? ま、いいけどね。プロ並みに上手くなるまでどうするの? 俺が提案した方法じゃないと途中まで繋げないでしょ?」


 シュウは呆れたようにため息をつくと、エレベーターが到着した音がなる。

 エレベーターに入るとボタンを押す。


「太陽くんが着替えたら生配信しよっか。2時間でいい? 初心者でもおすすめのゲーム教えるから」


 そう告げるとエレベーターから到着した音が聞こえた。

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