08.ツイツイター民の非難
影山はシュウのツイツイターをフォローする。すると太陽ファンからリプが相次いだ。
「太陽さん、オフ会するんですか!?」
「シュウって男はオフパコ疑惑があるので気をつけてください」
「太陽さんはオフパコしませんよね?」
「正直、シュウをフォローしたのは残念です。他にいい実況者いますよね?」
影山は否定的なコメントに驚く。フォローしたのは軽率だったか、そんなことを思ってしまう。
影山は否定的なリプを改善しようとツイツイターに呟く。
「次に歌ってほしい曲はありますか?なるべく簡単な歌が嬉しいですw」
その瞬間、良好的なコメントが増える。影山はコメントを見て、炎上したときは質問やリクエスト募集をして火種を消した方がいいと学習した。
そんなことを知らないファン達は沢山のコメントを残す。
「また、最音クミがいいです!」
「おっさん祭りとかどうですか?」
「マタデショーカ好きです」
試しに影山は、マタデショーカとおっさん祭りの歌を聴いて衝撃をうける。マタデショーカはカウントダウンから入り、癖になる刺激的なメロディが頭から離れない。
おっさん祭りはおっさんのような声が流れ、御輿をワッショイするお祭りのような歌が何度も聴こえる。どれも頭に残る歌だった。
「あなた様は神様ですか!?」
コニ民の表現が移った影山は口ずさむ。コニコニ動画で何度も何度も聴き入っていると、シュウからDMが通知される。
「太陽さん、ご迷惑をおかけして申し訳ないです!よろしければ近いうちにゲーム実況しませんか?俺は明日でも大丈夫な勢いですけど、いきなりすぎますよね?ご都合に合わせますよ〜」
シュウのDMを読み終えるとため息をつく。軽い気持ちで歌ってみたを投稿し、想像以上に伸びてしまった。人と交流する気持ちなんてなかったはずが、コメントしてくれる人を想うと応えたくなる。
現実世界よりネットで顔も知らない相手の方が優しいだなんておかしな話だな。そんなことを影山は思うとDMに返信する。
「今週の日曜日なら予定が空いています。関東に在住してますが、シュウさんはどちらにお住まいですか?」
影山は淡々とスマホを打つと送信する
するとすぐに返信が届く。
「東京です。住所は東京都○○区✕✕町△−△△のマンションです。最寄り駅に着いたら連絡ください。お迎えに参ります」
素顔と本名を知らない自分に、住所を簡単に教えることに驚きつつも影山は返信をする。
「わかりました。日曜日が楽しみです」
木曜日の朝、影山はベットから立ち上がるとカーテンをひいた。朝日が寝ぼけた瞳を照らすので、思わず目を細める。普段なら顔を洗って朝食を食べるのが日課だったが今は違う。影山はスマホを掴むとツイツイターを開く。
「おはよう、世界のみんな」
自分に酔っているのか、余計な一言を呟いてしまう。ツイツイターでは一度も海外ファンからコメントされたことはなく、勿論コニコニ動画からもされたことがない。酒の勢いでも顔が真っ赤になる恥ずかしい発言を、いとも簡単にシラフの状態で呟く影山。
一瞬でツイツイターにはコメントがつく。
「おはよう、太陽さん!今日も元気に行ってこー」
「おはようございます。今日は太陽くんのように、太陽が眩しいです」
「憂鬱だった学校も、太陽くんの挨拶で頑張れる気がする。いつもありがとう」
「おはよう!!!気をつけてね笑」
「おはようございます。こちらは雲ひとつなく、いいお天気です。良い一日でありますように♡」
影山はムーンのコメントを見て、笑みがこぼれる。
ーー今日もハートがついてる
ニヤつく口元、ムーンに返信をしたい衝動を抑えながらも第二の呟きを残す。
「みんな、コメントありがとね!!全てのコメント読んでます。今日も頑張ろうね」
影山はスマホをしまうと、制服に着替えようと準備に入る。
コニコニ動画のお陰で無表情だった影山は不思議と表情が柔らかくなった。そんな優しい表情に影山の両親は、彼女が出来たのか問いただしたが、流石にネットでチヤホヤされてるとは言いづらいので笑って誤魔化した。
影山は学校に着くと、外履きから上履きに変えようと手を伸ばしたときだ。
「影山、おはよ」
後ろから聞こえる愛想がない女子の声。思わず後ろを振り返ると美園花恋が影山の姿をじっと見据えていた。思わず身構える。友達がいない影山は、挨拶されたことは久しぶりだった。
驚きのあまり呆然としていると、美園花恋は不機嫌そうに言う。
「無視って酷くない?」
「え、あっ、ごめん……」
「別に謝らなくてもいいじゃん」
口元を尖らせ、拗ねたように目線を反らす美園花恋。そんな姿に影山は小さく笑う。
「あははっ、何か懐かしいなぁ」
「なにが?」
素っ気ない声。
そんな彼女をみて口元を緩める影山。
「いや、昔もこんなことあったよなぁと」
影山は思い出す。入学当初、隣の席だった美園花恋に挨拶された出来事を。
人見知りの影山は人と目を合わせることが苦手なせいか学校生活が憂鬱だった。中学でも友達という仲のいい友達は存在せず、せめて一人だけでも友達がほしいと思っていた。
そんなときオドオドした影山に話しかけたのが隣の席の美園花恋だった。
「おはよう。きみが私の隣?」
好意的に話したつもりだったが、影山は違う捉え方をする。
「ご、ごめん……」
「えっ、何で謝るの?」
眉を潜め、申し訳なさそうに縮まる彼に美園花恋は驚きを隠せなかった。
影山はボソボソと言う。
「だって僕の隣じゃないか。こんな僕と一緒にいたって迷惑だし……」
あまりにも卑下した発言に言葉に詰まる。だが、美園花恋はすぐに笑顔で返す。
「謝らないで。それに私は迷惑じゃない。私、影山くんと仲良くしたいと思ったの」
「ぼ、僕と……?」
「そう。影山くんがよければね?」
美園花恋が手を差しだすと、影山は呆然とする。そんな姿に美園花恋は眉を顰める。
「え、無視? 少しは反応してよー。傷つくなぁ」
拗ねたように笑う彼女に、急いで影山は制服で手を拭くと差しだした手を握った。初めて感じた温もりは、恥ずかしさと胸の鼓動が入り混じっていた。
次第に影山は、彼女がとても大きな存在だと気づき、自分に咲くことを知らない小さな蕾があることを知る。
「手、洗った方がよかったかな……」
コミュ障の影山は、よろしくの一言が先に出ない。心に渦巻く感情はいつも劣等感だ。相手の顔色をうかがい、自分が他人に迷惑をかけないかそんなことばかり考えてしまう。
そんな暗い影山に美園花恋は言った。
「もう、ウジウジくんは卒業しよ? 私も手伝うから」
影山はその言葉を聞いた瞬間、止まっていた時計の針が大きく動きだしたような気がした。ただ頷き、周りに流されるがままジメジメした環境を生き抜いた影山にやっと光が射し込んできたのだ。それから狭かった視界も大きく範囲を見渡せるようになった。
そんな過去を思い出し、下駄箱の前で笑う影山。そんな姿に美園花恋は言う。
「昔ってなに?」
「内緒。美園さんには話したくないかな?」
意地悪そうに笑う影山。
美園花恋は影山を凝視すると突っかかる。
「へぇ? 随分、私と話さないうちに性格悪くなったね?」
「それ、美園さんが言う? 僕の陰口言ってるの知ってるけどなぁ?」
何とも言えない空気感。争うわけでもなく、喧嘩をするわけでもない。ただそれがお互いに心地よく、ずっと続いてほしいと思う二人。理由はわからないがお互いを欲してしまう感情。
美園花恋は続ける。
「昔は純粋で可愛かったけどなぁ? いつからそんな生意気になったの?」
「生意気になったのは美園さんの方だったりして?」
コミュ障の影山は、何故か美園花恋の前だと饒舌になる。思ってもいない言葉が彼女の前だとスラスラ出てきてしまう。きっとそれは美園花恋も一緒だ。何故か意地悪したくなる。
暫く言い争っていると、美園花恋の友達が声をかける。感情的な美園花恋と、根暗でコミュ障だと思っていた影山が饒舌に話す姿をみて驚く友達。
「花恋、どうしたの? 今日なんか変だよ」
周りを気にせず言い争う美園花恋をみて、思わず友達は肩を揺らす。
我に返った美園花恋は素っ気なく友達に言う。
「別に。早く教室に行こっか」
「お、おっけー」
足早に教室に向かう美園花恋に追いつこうと、せわしなく続く友達。
友達は横目で影山を一瞬チラ見する。
二人は階段を登り、影山からだいぶ離れると友達は言った。
「影山って会話できるんだ……」
「生意気だけどね」
素っ気なく伝える美園花恋。友達は遠慮がちに聞く。
「もしかして影山と仲いいの?」
「別に仲良くなんて……」
歯切れの悪い言葉。友達は続けざまに言う。
「今まで影山のこと、散々気持ち悪いって言ってきたけど案外面白いやつかもね」
その発言に美園花恋は反応する。このまま影山に関心を持たれたら、好意を抱かれるかも知れない。
「えっ、影山がなに? 影山は影山だよ?」
あまりの饒舌加減に、友達は引き気味になる。そして友達は言う。
「別に私は、花恋と影山が友達でも気にしないけどね。アイツぼっち極めすぎて同情してたし安心した」
友達はいない、そう自負してた影山だったが、一人くらい気にかける人がいた。




