04生配信前
影山は髪の毛をセットしていた。パッツン前髪のせいで評判が悪かった前髪は帽子で隠し、そして近くの百均ではサングラスと紙マスクを購入した。
理由は簡単だった。ファンから生配信をしてほしいとの声が相次ぎ、優しい影山はその期待に応えてあげることにしたのだ。だが、流石に顔だしをするとクラスメイトにバレる可能性がある。なので、マスクとサングラスをして身バレしないようにしたのだ。
影山はマスクとサングラスをかけると全身鏡で姿を映す。カッコイイと思って購入したドクロの英文キャップ、百均で購入した色が深いサングラス、白い紙マスク、白Tシャツ、黒いジーンズ。キャップ以外は当たり障りのない無難な格好だった。
痩せ型の影山は、マスクとサングラスをすると何故かそれなりにカッコよく見える。マスクを外せばイケメンとはほど遠いヒキガエルのような口をしているが、マスクをすると欠点である大きな口は見えない。
影山はツイツイターに呟く。
「三連休いかがお過ごしですか? 俺は予定がなく、ぼっちですw お昼に雑談と歌を生配信する予定なのでヨロです!」
そんな呟きに盛りあがるコニ民とツイツイターユーザー達。影山はそんなリプ欄を見て思わず笑みが溢れる。
お昼は両親が仕事で不在なので、恥ずかしげもなくイケボで話すことが出来る。ツイツイターのリプ欄にはムーンのコメントが残されていた。
「すっごく楽しみです。太陽くんの生トーク必ず聴きますね♡」
影山はムーンのコメントを見て、口元が緩む。女子に免疫がないので、ハートマークのコメントに胸が高鳴るのを感じた。
ーーやばい、すげぇ会いたい
そんな欲に溢れた願望が心を支配する。ムーンは影山のどんな些細なコメントにも必ずコメを残してくれた。気づけばムーンからコメントを貰う為に呟くこともあるくらいだ。
ムーンのコメントは、数あるなかでも一際輝いてみえた。彼女のことを考えなかった日々は一度もない。影山は、またムーンにコメントを残す。
「いつもありがとw 楽しみにしててね( ̄ー ̄)ニヤリ」
そんなコメントに嫉妬を隠せない信者達。自分は未だに太陽からリプを返されたことがないのに、この女は2回も返信されている。嫉妬に駆られた恋する乙女達はツイツイターに愚痴をこぼす。
「マジムカつく。なに、あのムーンって女? リア友? リア友なら消えて?」
「私は一度もリプをもらっていませんが、何故ムーンって方は2回もリプをいただけるんですか? 私と彼女はなにが違うんですか? ちなみに私の方が太陽さんの視聴回数を稼いでる自信があります。もちろん愛も上です」
「ムーンってリアコ&地雷臭ハンパないのに、何で太陽って奴は構うの? 顔だって可愛くねぇのに」
「だれか一緒にムーンってツイツイター凍結させようぜwwww」
影山は焦る。エゴサーチをすると自分の名前の横にムーンという名前が表示される。このままだとムーンの心が傷つくのではないかと心配し、ムーンのツイートを覗く。するとムーンからは太陽を労る優しいツイートが残されていた。
「私は大丈夫だけど、太陽くんは大丈夫かな? たまたま2回リプもらっただけなのに、こんな騒ぎになって太陽くんの方が辛いよね? 生配信楽しみにしてます」
影山の胸が熱くなる。なんて優しい女性なんだ! こんなに心優しく素敵な女性に誹謗中傷するなんて許せない。そんな思いが全身に駆け巡る。
勿論、ムーンは全て計算した上で呟いていた。絶妙に炎上したツイツイターをみては不敵な笑みを浮かべる。
「あー面白い。太陽くん、オフ会してくれないかなー?」
手慣れた様子でムーンはスマホを見つめる。
そんなことを知らない影山は注意喚起ツイートする。
「すみません。いちいちリプした相手を覚えてる訳ではないので、誹謗中傷はやめてください。俺は楽しいツイツイターをしたいです」
太陽の発言にファン達は過激に反応する。
「なにかあったんですかー?」
「知らないけど、私は太陽さんの味方です」
「生配信中止にならないことを願います」
「バカな信者が騒いでるだけ! 本当のファンはそんなことしませんっ」
騒動を知らないファン達は、ツイツイターの検索から騒動を知る。そして「太陽さんは悪くない! ムーンさんも可哀想」などの擁護コメが相次ぎ、トレンド入りしてしまう。
小さな火種に反応したせいで大きな騒動になってしまった。影山はツイツイターに不慣れなせいで、放置すればいずれ鎮火する内容を多くの人に認知させてしまった。
悪意ないコメントでも、自分の隣にムーンの名前を書かれては検索キーワードに残ってしまう。しかも運悪くトレンド入りしてしまった。頭を悩ませる影山。
そのせいで騒動を知る美園花恋。思わずスマホを握りしめる。
ーー確かに悪くない、悪くないけど……!
実は美園花恋も必ず太陽の呟きにコメントを残していた。それなのに一度もイイねや返信すらされたことがない。フツフツと湧きだす嫉妬心。思わずムーンのツイツイターを覗いてしまう。
余裕がある優しい呟きに更に怒りが込みあげる。できれば私が炎上したかった。そうすれば太陽くんに認知されたのに……! そんな悔しさが生まれる。
「スパム報告してやろう」
見苦しい女の姿が発動した瞬間だった。




