表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/31

23.オフ会終了後の決別

 シュウには譲れない行いがある。それはオフ会終了後の戯れだ。彼の竹のように華奢(きゃしゃ)な体型と、中性的な甘いマスクは乙女の節操(せっそう)を崩すことは容易かった。

 あるファンは言う。あの顔で迫られてしまえば、彼氏がいても身を捧げてしまうと。

 お互いいい雰囲気になり、シュウに夜の営みを誘われてしまえば、流されるように応えてしまう。無駄にときめく鼓動は心地よく、僅かな理性は優しい声で一瞬で飲み込まれてしまう。自分は選ばれた特別な存在、そんな馬鹿げた感情が心を刺激する。


 交わされた約束事は、オフ会中にも関わらず盛り上がる。人混みのなかで合う瞳、次第に浮かぶ不敵な笑みは背徳感を感じさせる。シュウはその瞬間が堪らなく唆るのだ。周りは純粋にオフ会を楽しんでいるのに、それを欺くようにイヤらしいことを考えている。これも営みの前座に過ぎない。高まる欲はベッドの上で発散すればいい。


「太陽くんも予定があるんだろ?」

「予定?」


 これから先、新しい相棒が同じ穴のムジナになる。女子中高生が多い太陽を有名実況者に育てあげれば、熟す頃にファンと関係を結ぶことが出来る。


「ファンとホテルに行く約束だ」

「……ファンとホテル?」


 ふと影山はムーンから貰った手紙を思い出す。

 丁寧に書かれたホテルと部屋番号。その文字を見た瞬間、抑えきれない感情が心を支配したが、影山は己の欲に溺れるバカじゃない。自分の立ち位置を十分理解している。シュウが開催したオフ会で、ゲストである自分が泥を塗る訳にはいかない。そんな気持ちの方が何倍も強かった。


「一度味わった快感は忘れられないぞ」


 シュウは初めてオフパコをしたときの記憶を鮮明に覚えていた。

 ファンと一線を越えて禁忌を犯した、それだけで心臓の鼓動はピークに達する。止めようがない熱は全身に燃え広がり、抑えきれない感情は好奇心を擽る。彼女が頬を染める初々しい反応は、己の欲を激しく掻き立てる。今までの人生がどれほどちっぽけなものだったのかを実感させるほどだ。

 瞼に焼きついた記憶は帰宅しても消えはしない。ひとり寂しい部屋で、ふと記憶を思い出しては夜な夜な身を焦がした。

 影山はシュウを淡々と見つめ、冷たく言葉を放つ。


「ファンと経験あるんですか?」

「当たり前だろ」

「………」


 影山は一瞬無言になると、真っ直ぐとシュウの瞳を見据える。淡々と見つめる瞳には、怒りを感じさせた。


「噂は本当だったんですか?」

「嘘つき裏切り者、俺にそんな安っぽい言葉を浴びせたいの?」


 影山の瞼は怒りでピクピク痙攣する。奥歯を噛みしめ、鋭い眼差しで再度睨みつける。


「オフ会で話していた僕のファンがいましたよね? その子に手を出したら承知しませんよ」


 美園花恋の祖父に言われたことを思い出す。

 ーーもしものことがあったら助けてやってくれないか

 そんな言葉がこだまする。

 シュウは悪戯げに笑う。


「なるほど。拗ねたか?」

「はい?」

「太陽くんも狙ってたんだろ? 俺がやった後の中古でよければやらせてあげるから。だから今日はあの子で我慢してくれ」


 シュウは初々しい女性が好きだ。

 一時的な快楽の為に己の処女を捧げ、恥ずかしそうに布団に身を沈める女性が堪らなく唆るのだ。仄かに頬を染め、遠慮がちに見つめるウブな瞳。そんな汚れを知らないあどけない表情は、処女厨という腐りきった脳みそをもつ、憐れな(シュウ)の感情を掻き立てることは容易い。

 それに対し影山は、心底理解し難い行為だと認識していた。一時的な快楽を求め、好きでもない女性と簡単に関係を結ぶ。それがどれほどバカバカしい行為か。

 影山は問う。


「シュウさん、人はモノじゃありません。中古呼ばわりするのは如何なものかと」

「さっきから言葉に説得力がないわ。これから俺達は同じ穴のムジナだ。君のファンに手を出したのは悪かったけど、これからも仲良くしよう」


 同じ釜の飯を食う同士、なっ? シュウは笑顔で告げると、影山の肩に触れようと手を伸ばした瞬間だ。


「ふざけるのはいい加減にしてください」


 影山はシュウの手を払う。


「同じ穴のムジナ? 同じ釜を食うもの同士? 正気ですか!? 僕はファンと一線を越えるつもりはありません」


 胸の奥から込み上げる怒りは、今までに感じたことがないほど感情を露わにする。

 オフパコはしてない、その言葉は嘘だったのか。思わずそんなことを感じてしまう。

 そんな影山の行動を、冷めた眼差しで見つめるシュウ。


「ふーん? 興醒めしたわ。真面目に生きる奴が損する時代にこんな馬鹿がいたなんて」

「彼女をホテルに誘ったんですか?」

「誘ったよ。太陽くんが来ると嘘をついたら驚くほど簡単だった。馬鹿だよな、やっぱり青臭い」


 淡々と告げるシュウに影山は問う。


「襲うつもりは……」

「ねーよ。俺は愛のある繋がりが欲しい。合意なしで襲う人間じゃない」


 こんな人間でも貫く意志があった。無理やり関係を結ぶことは絶対にしないと。

 シュウは一時的な関係でも愛を感じなければ、相手に熱を感じなかった。いくら自分好みで可愛い子でも拒絶されたら楽しむことは出来ない。だが、雰囲気つくりが上手いので大体の女性は流される。


「ホテルを教えてください。引き止めます」

「待て。太陽くんは感じたいと思わないの? 可愛い子がキミを求めて疼いてる。どこが不満だ」


 シュウは焦る。ムーンと太陽が関係を結ばなければ、自分の半裸写真を晒される恐れがある。


「虫酸が走るんです。ヘドがでるくらいに」


 影山は学生だと知りながら、美園花恋に手を出そうとしたシュウが許せなかった。年齢を偽ってオフ会に参加した彼女は確かに許されない行為だ。だがそれを利用して、己の精力を満たす為に弄ぶ大人は更に許すことは出来ない。

 影山は強く思う。相手の好意を踏みにじり、言葉巧みに性のはけ口に利用する大人のどこに魅力を感じるのかと。大人なら理性を保ち、子供のお手本になる行動を示すべきだ。

 見せかけの優しさと、仮面を被った大人に騙されてはいけない。大人は目的の為なら簡単に嘘を吐く。気づけば見えない糸で操られたマリオネットになっているだろう。 

 シュウは舌打ちする。


「自ら関係を求めるファンがいても我慢するの? 俺は無理矢理犯すクズじゃない。拒絶したら絶対にやらないし、全て合意の上で行っている」


 シュウは思う。一緒にいて同等な人間ほど居心地がいいと。だからこそ一刻も早く同じ穴のムジナになってほしい。彼は拒絶しているが、一番簡単な方法はムーンと関係を結ぶことだ。ムーンの穴を通じれば、弟のように可愛い太陽と兄弟になれる。そう考えれば穴兄弟も悪くない。無事に兄弟になった暁には長男のケントを紹介しよう。俺達は同じ女と繋がる三兄弟なのだから。

 シュウは急き立てるように言う。


「あの子はオススメだ。きっとキミも満足するぞ」


 影山は聞き捨てならない発言に食いつく。


「……彼女と関係があったんですか?」


 二人の間に何ともいえない空気が流れる。シュウはいたたまれない空気に目線を逸しながら咄嗟に返す。


「太陽くんも処女が好きなの?」 

「頭大丈夫ですか?」

「……」


 シュウは道端にある、くすんだガムだ。最初はそれなりに味があるが、噛めば噛むほど味がなくなってしまう。地面にごびりついたガムは黒く変色し、街を汚す厄介な存在となる。


「ホテルを教えてください」


 影山は場所を聞きだすと、その場を後にした。

 シュウは後ろ姿を冷めた眼差しで見つめる。


「このままで済むと思うなよ」


 シュウの美しい顔は醜く歪み、囁いた言葉はドスの利いた恐ろしい声をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ