21.シュウと花恋の出会い
美園花恋は太陽に甘い眼差しを向ける小賢しい乙女達に腸が煮えくり返っていた。妄想の世界では自分だけを愛し、甘い愛を囁いてくれた。だが現実は見知らぬ女性と楽しそうに笑っている。どうすれば蟻のように集る女達を撃退出来るか頭を捻る。癇癪を起こし、踏み潰すなんて真似はごめんだ。ヒロインはあくまでも自分だと決まっているが、王子様を待つか弱いお姫様を演じていたら日が暮れてしまう。花恋はハッピーエンドが皺だらけのお姫様なんてまっぴらだった。青春はいつだって初々しいときに感じていたい。
花恋は太陽と親しげに話す黒髪ポニーテールの女が目障りで仕方がなかった。ブラウスから薄っすらと透けたブラジャー、そして絶妙に胸が見えそうで見えないボタンの開け具合。計算し尽くした見え透いた女に反吐がでる。
思わず歯を食いしばり、遠目から妬ましく女性を睨みつけた。すると会話に参加しない姿を見かねたシュウが優しく声をかける。
「こんにちは。初めましてかな?」
「はい、そうですけど……」
さり気なくシュウを見つめる花恋。
シュウは花恋の容姿を舐め回すように見つめると口元を緩めた。
ーー結構、可愛いな
黒髪ポニーテール、白のダボダボパーカー、そして黒ジーンズ。太陽が生配信で話した好みのボーイッシュな格好をしている。黒ジーンズは太陽が生配信で履いたので、ちょっとした繋がりを感じたくて履いてきた。オフパコターゲットをロックオンしたシュウは馴れ馴れしく話しかける。
「名前なんて言うの?」
「美園花恋です」
「花恋ちゃんか。俺のことはシュウって呼んで」
みんな呼び捨てだし、なんて気さくに笑うシュウ。そして思い出すのはオフ会申込みフォームでの子供っぽい内容だ。自ら成人済みと書き込んだバカ丸出しの文章。もし顔がイマイチだったらやめようと思ったが、きめ細かい肌とノーメイクでも映える顔が無性に唆る。純粋そうな所も高ポイントだ。
ケントには学生くさい奴だと言ったが、予想は当たりで見た目は成人済みとは言い難い容姿だ。垢抜けた雰囲気がない、規則に従った学生感がまさにそれだ。
「ホントに成人済み? なんか怪しいなぁ」
わざとらしい口調で尋ねる。すると花恋は一瞬目線を逸し、咄嗟に答えた。
「一応成人済みです。今年でちょうど二十歳になりました。まだ10代の青臭さがあるかも知れませんが、立派な大人です」
「そっか。疑ってごめん。たまに年齢偽ってオフ会に来る人がいるから警戒しちゃって」
シュウは、ほくそ笑む。成人済みと本人の口から告げたなら、事実上夜の戯れをしたって何ら問題はない。
もしオフパコがバレてしまっても、信者と夢見がちの乙女達は成人済みと偽った彼女の方に批判を向ける。これほど有り難い存在はいない。わざわざツイツイターで正論を示した人物にも「嫌ならくるな」「アンチは帰れ!」等と丁寧に意見を残してくれる。
真っ当な奴らなら、スラム街の巣窟のようなリプ欄に自ら参加したいとは思わない。せいぜい残すのは己のツイートで苦言を呈するだけ。
シュウは不敵な笑みを浮かべ、花恋に話しかける。
「花恋ちゃんって、太陽くんが好きなの?」
「はい。優しくて歌がうまくて、格好よくてお洒落で少しだけ抜けてる所が可愛くて大好きですっ」
花恋は好きな人の話題になると、一気に語彙力が低下する。きっと脳みその半分以上が太陽のことでいっぱいになるのだろう。
シュウは息巻く花恋の姿をみて、優しく微笑んだ。
「ホントに好きなんだね。よければ太陽くんについて色々教えてあげよっか?」
「いいんですか!?」
「いいよ。でもここじゃ長時間話せないし、オフ会終わったらホテルで話さない?」
「……ホテルですか?」
ホテルとの言葉に表情が曇る。流石の花恋も初対面の男性とホテルに行くほど馬鹿じゃない。勿論、愛おしい太陽に誘われたら死んでも行くが。
シュウは花恋の迷いを察してか、言葉巧みに誘導する。
「テレビでゲームをしたり、実況者の裏事情とか話すだけだよ?」
「……でも流石に二人っきりでホテルは」
「太陽くんも呼ぼっか?」
「えっ」
花恋は思わぬ返しに食いつく。シュウはそんな姿に口元を緩める。
「予定が空いてれば、太陽くんと一緒にゲームを楽しみたいね」
シュウは太陽を誘う気は一切はない。ただ太陽をダシにして、好みの女をホテルに誘いたい色情魔なだけだ。シュウは見た目の容姿と優男が幸いし、成功率はかなり高い。経験豊富なので、女を溺れさせるのはいとも簡単だ。耳元で囁く声は一瞬で未開の地へとおとすことができる。無駄に声がいいゲーム実況者の賜物かも知れない。
花恋はシュウの告げた言葉に胸が熱くなる。こんなチャンスは絶対に逃してはいけない。様子を伺うように控えめに返す。
「太陽くんを誘っていただけるなら……」
「そっか。じゃあホテルはーー」
シュウは手慣れたようにホテルと時間を教えた。
花恋はそんな事実は露知らず、無邪気に笑っていた。
影山は仲よさげに話す二人の様子を遠目から見つめていた。流石にどんな会話をしてるかまでは把握出来ない。ただ、花恋がシュウと仲良く話す姿に胸がモヤモヤしていた。
ーー美園さん、僕と一緒より感情豊かだな
ふつふつと湧く嫌な感情。今までに感じたことがない何かが心を刺激する。
そんな太陽の姿にムーンは視線を向ける。先ほどまで自分と仲良く会話を続けていたのに、急な上の空の態度に痺れを切らす。
「……私だけを見てほしいです」
ムーンは自慢の胸を影山の腕にわざと当てる。潤んだ瞳で目線を合わせる彼女の姿に、思わず生唾を飲み込む。先ほどのことが嘘のように、一瞬でムーンのことで頭がいっぱいになる。ほんのり温かく弾力のある膨らみは、男のスケベ心を擽るのは容易かった。
影山は目線を逸しながら言う。
「あ、あの、胸が当たっています……」
ムーンは、耳まで赤くなった影山を見て笑みを溢す。そして熱を帯びた色づいた声で囁いた。
「……太陽くんは私のこと嫌いですか?」
脳に響くムーンの声。全身がピリピリと痺れるような感覚が襲う。彼女が握った手からは熱を感じ、心臓がバカみたいに激しく鳴り響く。
「僕、いや……俺は」
否定しようにも、甘く絡みついたムーンの声は簡単に脳から離れない。影山は骨の髄までほだされた感情から抜け出す方法を知らない。
「……私、太陽くんのことが」
確信を迫る声、そして真っ直ぐと見つめる潤んだ瞳。心なしか目線に入る唇が色っぽく感じる。唇の誘惑に負けないように堪えていると、ムーンは口をひらく。
「私の感じる想いが勘違いじゃなければ、ここに来てくれませんか……?」
ムーンは2つに折った紙を渡すと、恥ずかしそうに目線を逸し、素早く席を外した。
影山は無駄に鳴り響く心臓を必死で止めようと一呼吸つく。やけに火照った顔が嫌でもわかる。
ファンに手を出すことは、実況者として人生を捧げる覚悟があるのなら危険な行為だと知っている。それなのに彼女を見ると胸の奥が熱くなる。心地よい感情は、次第に欲する想いを加速させる。
だが、肝心のムーンは太陽にその気なんて一切ない。彼女が求むものは世間からいい人と絶賛される聖人君子が、一気に堕落する姿だ。せがむ手を嘲笑いながら蹴散らし、泣き喚く男の顔を見たいのだ。
今伸びしろがある男と繋がれば、いつか大きな炎をみせてくれる。積み重ねた努力を一瞬で崩壊させる方法なんて簡単だ。努力は壊すためにある。
影山はムーンから貰った紙を開くと、そこには宿泊ホテルの部屋番号が書いてあった。
「こ、これは……」
影山の手は震えていた。
未成年と関係を持つ行為は法律で禁じられています。
この小説は、オフ会とオフパコを推奨する話ではありません。
大人は勿論、未成年も一時的な気の迷いで人生を棒に振るのはやめましょう。




