02. ツイツイターに登録
@Shine.taiyo 、これが影山のツイツイターアカウントだ。
コニコニのコメント欄で「太陽さんはツイツイターを今すぐやって!いや、お願いします!秒でフォローするから!!!!」」とのコメが目立ったので、初めてSNSのアカウントに手をだしたのだ。
プロフィール名は陽キャのを装い「みんなの光、太陽参上! コニコニ動画で活動中です。フォロー&チャンネル登録よろしくお願いします('・ω・`)ゞペコリ」とだけ書いた。陽キャを知らない影山は、滑ってるなんて微塵も思わなかった。だが、イケボな声で脳みそを突かれた女子達は、薬をキメたように呟き始める。
「太陽って歌い手マジで推せる」
「太陽さんって何者!? イケボすぎて辛い」
「……えっ?マジで太陽さん!?本物なの……か? ここは天国ですか!?」
「卵アイコン可愛いwwイラスト描ける人はよ」
「偽アカかも知れないからフォロー様子見して!!!」
まだコニコニ動画にツイツイターを貼り付けていないのに、一瞬で見つけるコニコニ民。少しずつフォロワーが増える異常な光景に自然と笑みがこぼれる。
伝えたい言葉は沢山あったが、ひとまず自己紹介がてら呟く。
「初めまして、太陽です! 本物ですよ笑」
これが初めてのツイートだ。影山はコニコニ動画にツイツイターのアカウントを貼り付けるとフォロワー数が一気に増える。
止まらない通知がスマホを何度も鳴らす。こんなことは初めてだった。電話帳は両親と学校と110番しかないので、久しぶりの着信音が懐かしく感じる。
ツイツイターではトレンドにあがっていた。
「#太陽さんが好きな人はフォロー」
「太陽っていう、歌い手マジで推せる」
「太陽さんって何者!? イケボすぎて辛い」
「明日、給食の放送で太陽さんの美声を流します!!!」
そんな内容が相次ぐ。
影山は通知を切ろうとツイツイターを見ると一瞬で0から7500人もフォロワーが増えていた。アイコンはアニメと自撮りのアイコンが目立つ。
あまりの人気ぶりに影山は一瞬戸惑うが、抑えきれない好奇心の方が上回る。
影山は呟く。
「沢山のフォローありがとね(*^_^*)俺、みんなが持て囃すほどイケてないからお手柔らかにね? 今から一発撮りで歌ってみた投稿するから宣伝とイイねよろしく」
盲目状態の女子達は、こんな些細な呟きがイケメンボイスに再生される。まるで白馬の王子様が愛の言葉を自分の耳元で囁かれたかのような錯覚に襲われる。
「楽しみにしてます!!!」
「フォロー&チャンネル登録しました♡」
「目指せ、1万フォロワー! 全国に太陽さんの美声が届け☆ミ」
「顔みたい!!!絶対イケメンじゃん」
「謙虚ですね。そんな太陽くんが大好きです!投稿楽しみにしてます♡」
一見何の変哲もない優しいコメにも見え隠れする歪んだ愛情がある。
ーー推しの太陽にリプされたい
最後にコメントした彼女は、謙虚で害のないフリをしているが、話すきっかけと太陽に認知されたいという浅はかな考えがあった。証拠にアカウントIDは「@Moon.taiyo」と、月と太陽をイメージし、自分の名前は「ムーン@太陽さん推し♡」にしていた。太陽がいるから自分は月として輝ける、そう遠回しに伝えたいのだろう。
プロフィール欄には「コニコニ動画専門アカ!主に太陽さんのことだけ呟きます。太陽さんのチャンネルはこちら('・ω・`)ゞ」と、顔文字まで真似て極めている。アイコンは時間をかけて何度も自撮りした自分の顔だ。色白の肌、黒髪パッツン前髪、ピンク色の唇、そして鼻はハートのスタンプで隠している。見る人が見ればガチ恋だと一瞬で見極めることができるが、加工と恋心の恐ろしさを知らない影山はそのアカウントに反応する。
「うわっ、すごく可愛い」
ツイートはしないが、思わず口走ってしまう。タイプだったので下心丸出しでリプをした。
「謙虚じゃなくてホントのことなので……wムーンさん、またコメントくださいねw」
程よいキモさと陰キャ感漂う呟き。ムーンは太陽のアカウント通知をオンにしていたので、リプがきたことに秒で気づく。そして自分のツイツイターに呟く。
「すっごく嬉しい。太陽さんからコメントいただきました。何気に初リプだよね?? これからも応援する。わたしの一生の推しです♡」
これも策略だった。純粋無垢にみせる手法である。
ムーンは太陽の呟きをスクショし、背景画像にした。これは影山の軽率な判断のせいで彼女がガチ恋から厄介な太陽ファンに変化する瞬間だった。
手が届かない遠い存在だと思っていた相手からの優しい言葉。ムーンの鼓動は激しく鳴り響く。
「また、歌い手と繋がりたいなぁ」
ムーンは舌なめずりをする。
「やっぱり忘れられない。繋がったときの快感」
ムーンは一年前にネットで大炎上をやらかした筋金入りの地雷女だ。歌い手と一夜を共にし、飽きたら大手掲示板に顔写真を晒したのだ。ネットでは、ファンと関係を持ったと盛り上がるなか、彼女は燃えあがるツイツイターを他人事のように楽しんだ。後に、この女は影山の活動に支障をきたす存在となる。
「けっこうチョロそう」
ムーンは一呼吸し、太陽のツイツイターにリプを残す。
「太陽さんからの初リプ嬉しいです♡この呟きは私の宝物にしますね(*^_^*)」
そして、そんなリプ欄を複雑な感情で見つめる美園花恋がいた。嫉妬で冷静な判断が出来ない美園花恋は画面越しからムーンのアカウントを睨みつける。
ーーなにこの女、太陽くんのリア友?
ーーそれとも彼女?
思わず唇を噛みしめる。なんで私じゃなくて、こんな女にリプしたの? 複雑に入り混じった嫉妬心がドロドロと駆け巡る。
彼女は心に問う。
ーー私の初恋だった。初めて太陽くんの声を聴いたとき運命を感じた。私が今まで恋をしなかったのは太陽くんに会うためだよね?
彼女は美しい顔を醜く歪ませ、思いっきり手を机に叩きつける。
「絶対に諦めない。これは私の恋だから」
握られたスマホからは、美園という名前と可憐に咲く花のアイコンが指先の間から薄っすらと見えた。