19.オフ会前夜2
シュウはツイツイターで生配信を告知する。「ついにゲストを発表!」そんな呟きを残すと、ツイツイターは盛りあがりをみせる。
一週間前から生配信をすると告知していたこともあって、配信5分前にもかかわらず8万人も人数がいた。
影山は生配信では3.5万人ほどの人数しか経験したことがなかったので、これからもっと増えるはずの人数に緊張が走る。
思わず両手で拳をつくり、親指同士を擦る影山。シュウは、そんな落ち着きがない様子に反応する。
「緊張してるね、大丈夫?」
シュウは優しく背中をさする。
影山はシュウをチラ見すると答えた。
「だ、大丈夫です」
「いや、大丈夫じゃないだろ? ほら水を飲んで」
シュウは足元に置いてあるペットボトルを持ち上げ、蓋を回すと差し出す。影山は喉を鳴らしながら飲むとシュウを見つめる。
「お手数をおかけして申し訳ないです。水ありがとうございます」
「いいって。俺達は友達だろ? 困ったときは助け合わなきゃ」
爽やかな笑みを浮かべ、思い浮かぶ綺麗事を並べる。
純粋な影山は、シュウの優しさに心が温かくなる。今まで親と祖父母以外から優しくされた経験がなかったので、捨てたれた子犬のように懐く。
「や、優しすぎですよぉ……」
恋する乙女のように心打たれた影山は、少しだけ浮かれてしまう。
シュウはお馴染みフレーズを言った。
「俺に惚れた?」
すると影山は食い気味に言う。
「惚れました。僕が女ならシュウさんにこの身を捧げてますよ」
「なんだそれ」
シュウは思いがけない返しに笑い、自分に懐いた太陽をみて思う。
ーー顔が、顔が可愛ければありなのに
もし影山が女なら、絶対に侍らせたい女の一人になっていた。真面目なのに少し抜けている所、忠実な所、何事も新鮮味がある可愛い反応、全てがタイプだった。……顔を除けば。
シュウは電波時計を見ると言う。
「生配信開始30秒前」
3、2、1、ゼロ。シュウはカウントダウンをすると、パソコンをクリックする。カメラ越しに映るシュウの姿。影山はシュウの掛け声と共に姿を現すように指示してるので、ソファーから一時的に外してもらった。
「こんにちは。みんな生配信届いてる?」
シュウはカメラ越しに伝えると、コニ民は反応する。
「大丈夫」
「ok」
「シークレットはよ」
「おおおおおおおおおおお」
「イケメンがいますね」
「生配信届いてるよ!」
「シュウちゅき♡」
「きたぁぁぁぁぁぁ」
「盛り上げろおおおおお」
文字数が多ければ、盛りあがると信じてやまないコニ民からのコメントが相次ぐ。無駄に表現力が強いコメントを手慣れたように見つめるとシュウは言った。
「配信届いてるね。それじゃあオフ会のシークレットを発表します。ほらおいで」
シュウはカメラ外に手を振ると、サングラスとマスク姿の影山がソファーに座る。
「オフ会のゲストは太陽くんですって、あーもうこっち寄って寄って」
シュウは絶妙に距離感をあける姿に反応する。影山の腰に手を回し、距離をあけないように促す。そしてまたピッタリと膝と膝がつく姿に反応するコニ民。
「あっ。。。。」
「……察し」
「ふーん?」
「キモ」
「ま、多少はね?」
「私のシュウを取るな」
「 ┌(┌^o^)┐ ┌(┌^ o^)┐」
「夢女子キモ」
「腐女子の方が自粛しろや」
「いや、ゲストに反応して」
「太陽くん可哀相。。。」
絶妙に荒れるコメント。男同士が話すだけで勝手にエデンにいける腐女子と、ホモコメがウケると信じて疑わないキッズ達のコメントが相次ぐ。だがシュウは、コメントと閲覧数でランキング順位が上がるので放置する。
影山は膝と膝がピッタリな状態に異議を唱える。
「毎回思うんですけど、近すぎません?」
「太陽くんは嫌……?」
わざと甘えるように太陽を見つめるシュウ。
影山は眉間に皺を寄せ、露骨に嫌がるが、マスクとサングラスをしているので表情はわからない。だが、声には不満と棘を感じさせるものがあった。
「……別に嫌って訳じゃありませんけど」
キモいからやめてほしいんだよな、なんて内心毒づく影山。友達がいない影山は人とスキンシップをとることは苦手だ。
そんな反応に盛りあがるコメ欄。
「拒絶されて草」
「wwwwwwwwwwww」
「シュウ、残念だったねw」
「シュウは受けで太陽は攻め?」
「ぶりっ子男ザマァwww」
「太陽、お前はずっと純粋な心を持て」
「オフパコしてぇぜ!」
「ホモコメやめて」
「きっもー」
「バーカ、バーカ」
目立つアンチコメ。思わずシュウは舌打ちをしたくなるが、一旦心を落ち着かせる。
オフパコ疑惑があるシュウは、オフ会のキーワードで鎮火したはずの炎が再びぶり返す。少しでも火種が残っていると簡単に火がついてしまう。
だが不都合な事実がツイツイターで拡散されても、ハッシュタグとリツイートを駆使すればある程度は誤魔化すことができる。プレゼント企画を企てれば、乞食とファン達がRTしてくれるので真実を語るコメントは埋まるのだ。
大人は思った以上にずる賢く、悪知恵が働く。
「とりあえずマリコやろっか」
シュウはコメントをシカトし、キャプチャーボードをパソコンとゲーム機に繋げる。そうするとパソコンでお馴染みのゲームがコントローラーで出来るようになる。
配信画面がゲーム画面になると二人の顔は表示されなくなる。
パソコンには赤い帽子を被った女の子が映っていた。1-1のステージだ。
「太陽くんが先にやって」
「お、俺ですか!?」
影山はコントローラを受け取る。茶色いキノコが攻撃してくるので、ジャンプして避けようとするが一瞬でやられてしまう。
「やられました……」
落胆する影山。
シュウはそんな姿をみると口元を緩める。
「ふーん、ゲーム苦手か。じゃあ俺がお手本を見せてやる」
するとTASのようにミス一つなく、スムーズにクリアする。そんな姿にコメントは盛りあがる。
「うっま」
「流石シュウ」
「ゲーム苦手な太陽も可愛いぞ」
「オフ会」
「うますぎる」
「お前はTASだ」
画面上に流れるコメント。シュウは一通り読み終えると満足気に言う。
「うまいっしょ? 伊達にゲーム実況者やってませんから! あっ、クリア出来なかった太陽くんは罰ゲームね」
「……はい!? 俺、聞いてませんよ」
「ふふん。今言ったからねぇ」
シュウはしたり顔をすると言う。
「ねえ、みんなはどんな質問がいい?」
手慣れた様子で視聴者に呼びかける。すると画面はコメントで埋まる。
「太陽くんのタイプ教えて」
「住所教えろ」
「恋人はいまs((殴」
「結婚してwww」
「芸能人だと誰に似てる?」
「女性と経験はありま(ry」
「二人は付き合ってますか?w」
思わず苦笑する影山。
シュウは肘を押して回答しろと促す。
「流石に住所は無理です。恋人はいませんし、コミュ障なのでなかなか……」
「俺も基本的に外に出ない引きこもりだし、出会いがないな」
プライベートを探られるのが嫌なシュウは、引きこもりだと言って誤魔化す。
女ファンが多いシュウは、淡い恋心を懐きながら視聴してくれるファンが多い。恋とはガラスのように脆く、簡単に崩れてしまう。愛が憎しみに変わるとき、ファンはアンチより厄介な存在になる。
信者ならずっとファンでいてくれるが、正直質が良いとは言えない。批判的なコメントは過激に反応するので、シュウのファンは質が悪いと言われ、新規ファンは増えづらくなる。
シュウ達はゲーム実況しながら暫く雑談を続ける。
そんな生配信をベッドの上で楽しそうに視聴する美園花恋。明日は待ちに待ったオフ会の日。そして大好きな太陽に会える。そんなことを思うだけで恋焦がれてしまう。
「オフ会が楽しみです♡っと」
既に洗脳済みの花恋は甘い甘いコメントを打ち込む。空想の愛で全身が満たされていると、邪魔する大人の小賢しい声。
「花恋、入るわね」
突然部屋をノックされる。ドアが開くと母親が申し訳なさそうな表情で立っていた。手には食べ飽きた高級店のケーキ箱が握られている。いつも喜んで食べていたので、母親は娘の好物だと思い、同じケーキを立て続けに買い与えていた。それが親にとって精一杯の愛情だったからだ。
「ママね、仕事入ったから東京に行けなくなったの。お詫びに大好きなケーキ買ったから」
花恋は気持ちがこもっていない見え透いた嘘に辟易する。一切れ千円の高級ケーキ2つより、札束で買えない愛の方が重いに決まっている。
「ママが忙しいことは私が一番わかってる。それにいつものことでしょう?」
言葉に棘があるが、娘の一瞬の変化に母親は気づかない。
オフ会の為にセクシーな下着を身に纏っていることも、この恋が本気だということも、成人済みと偽ってオフ会に参加することも全て知らない。子供は永遠に子供じゃない。
花恋は母親が部屋から出ると、学年一美しい顔を歪める。怒りを露わにしながらドアを睨みつける。
「嘘つき。やっぱり連れていってくれない」
ーーいつもそう。パパとママは約束をやぶっては私の欲しいものでご機嫌を取ろうとする
でも、もうプレゼントはいらないの。
今本当に欲しいのは愛だから。愛なんてプレゼントできないでしょう? 私より仕事を優先する二人には難しいことだからーー




