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18/31

18.オフ会前夜1

「太陽くん、久しぶり」


 シュウは自宅の玄関ドアをあけると眩い笑顔を浮かべる。手慣れたようにゲーム実況部屋に案内すると、影山は大きなリュックサックを床に置く。


「お世話になります。お泊り、ご迷惑になりませんか?」

「いいの、いいの。約束だし、生配信やる予定でしょ?」


 シュウは心浮かれていた。明日は待ち焦がれた月に一度のオフ会。そして影山がオフ会に参加することで新規の女性が増えた。こんなにめでたいことはない。この日の為にファンを言葉巧みに誘惑するシミュレーションはばっちりだ。

 シュウは影山の服に目線を映す。


「この前俺があげた服を着てるね。嬉しいな。どんどん着てくれよ?」

「はい」


 服をダサいと言われたことを根に持っていた影山は、貰った服を着れば何も言われないだろうと思っていたが大正解だ。

 シュウはカゴいっぱいに入れてある服を持ってくる。


「太陽くん、ファッションショーしない?」

「ファッションショー?」

「そう。明日オフ会で着る服を選びたいんだ。太陽くんは自分の容姿に劣等感を抱いてるみたいだから、少しでも自信をもってほしくてさ」


 シュウは楽しそうに笑う。弟のように可愛い太陽に世話を焼きたい、純粋にそれだけだ。

 いきなりの出来事に戸惑う影山。だが、悪い気はしない。一人っ子の影山もシュウが兄のような存在に感じる。多少違和感を覚えても、優しいことに何ら変わりない。

 美園花恋の存在をすっかり忘れながら頷く影山。


「あまり着飾るとゴテゴテ感がでるから、シンプルな服装にしよっか」


 シュウは影山の服を脱がせると、白いYシャツと黒いジーパンを履かせる。


「黒いジーパンは履くだけでお洒落感出ていいよなぁ。上に鼠色のセーターを着せて、アウターは黒とかもいいな」


 着せかえ人形のように様々な服を着させるシュウ。

 白いシャツに黒のジャケット、茶色のタートルネックとネイビーのチノパン、革ジャンとジーパン等と様々なコーデをさせられる。あまりにも熱中するシュウに疲れをみせる影山。


「ごめん、流石に疲れるか。飲み物持ってくるよ」


 そう告げるとシュウは部屋から出る。思わず影山は床に座り込むと周りを見渡す。

 大きなソファーとテーブルと84型テレビ。そして実況機材とパソコン2台が置いてある広いデスク。背景を簡単に合成出来るグリーンバックも壁にかけてある。

 ーーゲーム実況者は夢があるな

 影山はそんなことを思う。


「お待たせ。お茶とスポドリどっちがいい?」


 シュウは冷えたペットボトルを影山に見せる。


「スポドリ頂きます」

「了解。じゃあ俺はスポドリにするか」

「えっ、なんですかそれ!」

「冗談冗談。太陽くんの反応可愛いから思わず弄りたくなってさ」


 ニヤニヤ笑うシュウ。影山は口元を尖らせながらスポーツドリンクを受け取る。

 影山は蓋を回し、ペットボトルに口をつけるとシュウは唐突に言う。


「何で赤のブリーフ履いてるの?」

「なっ!?」


 思いがけない発言に飲み物を吹き出しそうになるが、必死で堪える。そんな影山をお構いなしに話を続ける。


「ブリーフ履いてると同級生に色々言われて、恥ずかしい思いをしなかった?」


 影山は幸いなことに白のブリーフで弄られた経験はなかった。ぼっちの影山はパンツに気にかけてくれる同級生はいない。

 本当は気にした同級生はいたかも知れないが、パンツがきっかけで友達になるのは難しい。

 影山は首を振る。


「そんなことないですよ」

「そっか。いいクラスメートだったんだな? 俺は小3のとき、白のブリーフで弄られた経験があるから羨ましいわ」


 苦々しい記憶に落ち込むシュウ。そして立て続けに告げる。


「俺のボクサーパンツ履く? 女ウケいいからお勧め」

「い、いや。お古は……」


 露骨に嫌がる引きつった顔。そんな姿にシュウは呆れたように言葉を返す。


「バーカ。お古を履かせるか」

「……安心しました」


 ほっと一息つく影山。

 そして話題はオフ会の話になる。


「太陽くんは何でオフ会に参加しようと思ったの? 最初嫌がってたじゃん」

「ま、まあ……社会勉強で」


 流石に同級生がオフ会に参加するから様子を見に来たとは言えない。しかも本人シュウ)にオフパコ疑惑があるからなんて尚更言いづらい。

 シュウは笑みを浮かべる。


「でも参加してくれて嬉しいな。俺、太陽くんと一瞬に参加したかったから」


 ーーそうすれば新しく訪れた可愛い子と乳繰り合いができるし

 シュウはそんなことを思う。

 影山は見せかけの優しい言葉に心が暖かくなる。

 ーーなんて優しいんだ。パンツもくれるし

 ……パンツ? 一瞬違和感を感じたが、すぐに払拭する。


「いつもありがとうございます。僕もシュウさんと一緒にいるの楽しいです」

「嬉しいなぁ。そうだ! メイクしない?」

「メイク? メイクって女性がするものじゃあ……」

「考えが古いな。今どき男だってメイクくらいするさ。メンズのスキンケアも増えてるし」


 シュウはクローゼットを開けると化粧用品を取り出した。下地、ファンデーション、アイブロウ、コンシーラー、シェーディングパウダーを取り出す。


「せっかく遠方からファンが来てくれるんだ。少しでも格好よくみせたいだろ?」

「……そんなもんですか?」

「本格的にメイクはしなくても、吹き出物をコンシーラーで隠したり、眉をアイブロウで整えるものいいだろ? カッコイイはつくれるってな」

「……どこかで聞き覚えがあるフレーズですね」


 シュウは下地を影山の顔に塗り、ファンデーションをはたく。その後、少し濃いめのシェーディングパウダーを筆につけて鼻の付け根から鼻筋にかけてなぞる。エラが出た顔にも程よく影つけると完成だ。一番肝心の眉をアイブロウで描くのも忘れてはいけない。

 シェーディングパウダーのお陰で影が出来た鼻は心なしかシュッとしている。


「何となく鼻が高くなった気がします!」

「だろ? ハイライトを鼻につけるともっといいみたいだけど、俺は滅多に使わないから持ってない」


 十分整った容姿をしているシュウは、言うほどメイクはしていなかった。寧ろ他人にメイクをさせたい好奇心の方が上回る。


「マスクをしてれば、メイクしても意味がないかも知れませんね」

「……あはは。確かにそうだ。それにマスクをしてれば、誰でもよく見えるからな」


 シュウは思い出す。オフ会でマスクをしてた子をホテルに誘ったら思ったより可愛くなかった苦い過去を。声と容姿を見て、可愛いと感じたが、所詮脳みそがつくりだした偽りの顔だ。

 シュウはそんな経験を活かし、マスクをした子は誘わないように心掛けている。


「眉と髪型を整えるだけにしとこっか。後はマスクとサングラスをかければ十分いける」


 そうすればお花畑のファンは、勝手に食い付くからな。シュウはそんなことを思いながら影山を優しく見つめる。


「早速だし、このまま生配信でもする? 太陽くんとマリコやりたいし」


 マリコとは、真っ赤な帽子を被った女性が敵を踏み潰し、王子様を助ける冒険ゲームだ。

 マリコの販売元である(じん)天堂は、公式で収益許可を表記している寛大な大企業なので、ゲーム実況を基本とするクリエーター達は大変お世話になっている。

 人天堂のソフトが発売されると、こぞって皆が同じソフトを実況するのはそういった理由があった。収益化出来ないゲームを実況したって金儲けは出来ない。案外マーケティングが得意な企業なのかも知れない。


「いつでも生配信大丈夫です」

「そっか。じゃあ告知してから生配信しよっか。後、頼んだイラストは描いた?」

「はい。書きました」


 影山はスマホに保存したイラストを見せる。

 シュウは見せられたイラストに衝撃をうけ、引き気味に影山を見る。

 そして淡々と告げる影山。


「僕と言えば何かを考えたんです」


 それは昨夜の出来事だ。


「イラストどうしようかなぁ」


 夏休みの宿題を31日まで放置した子供のようにうなだれる影山。思わず勉強机の椅子に座りながら深いため息をつく。

 美園花恋がオフ会に参加すると知ってから、頭のなかは彼女ばっかりで描きたいイラストが思い浮かばない。

 ディフォルメはプロに任せるとのことだったので、影山は自分といえば何かを思い浮かべる。


「……ゴキブリ」


 ふとゴキブリの方がマシだと言われた記憶を思い出す。ぼっちの影山は友達はいない。ひっそりと佇む影でしかない。


「丸を書くだけでも信者と夢女子には売れるって言ってたよな……」


 ならゴキブリのイラストでも売れるだろう。そう思い立った影山は親指の形を描いた。やけに長い2つの触覚、4本の足、黒くテカるボディ。リアルではあるが、リアルではない絶妙に下手くそなゴキブリのイラストが完成した。きっと心優しい信者と夢女子なら買ってくれるだろう。

 影山はシュウに告げる。


「昔、ゴキブリの方がマシな顔をしてると言われた過去がありまして……」

「えっ、酷くない?」

「構ってくれるいい人です」

「お、おう……?」


 シュウは生配信の準備に取り掛かった。

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