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17.影山と校長

 

「高カロリーのラテを購入してしまった。また腹が太るなぁ! はははっ」


 椅子に座りながら愉快いに腹を叩く校長。

 それに対し、影山は無言でフラペチーノを吸い上げる。程よい甘み、そしてクリームとチョコが混じった甘味なドリンクに舌鼓していると我に返る。


「あ、すみません! 美味しすぎてつい」

「いいんだよ。お腹空いてるならサイドメニューもご馳走しようか?」

「い、いえ……! それはさすがにっ」


 申し訳なさが上回る影山は、手と頭を何度も横に振る。陰キャ感漂う小刻みな動きと声の裏返り。そんな様子を見ると校長は優しく微笑んだ。


「ずっと前から影山くんにお礼を言いたかったんだ。花恋がいじめられていたところを助けてくれたんだろう? ありがとう」


 深々と頭を下げる校長。そんな姿にビビる影山。咄嗟に椅子から立ち上がる。


「や、やめてください! 助けるなんて大層なことは……っ」


 校長は顔を上げ、影山が狼狽える姿を見つめながら優しく言う。座るように促すと影山は席につく。


「悲しい話、友達がいじめらてることすら気づかない人が多い。そして些細なことに気づき、行動に移す人はもっと少ない。先ず人は苦しんでる人間より自分を優先するんだよ」


 しんみりした空気がながれる。

 そして校長は影山の瞳を見据える。


「だからな、影山くんのように聡明で賢い人が花恋の友達だと大変心強い」


 思わず目線を逸らす影山。思い浮かぶのは先ほどの小さな嘘。相手が信頼を寄せているのに、自分が信頼に値する人間じゃないことに罪悪感を感じる。

 影山は下唇を一瞬噛むと言いづらそうに言葉を放つ。


「僕は賢くないです。頑張って勉強しても誇れる成績ではありません。さっき参考書を買うと言ったのも嘘です。実はアニメの本を見に来ただけで……」


 申し訳無さそうに縮こまる姿に、校長は口元を緩める。


「やっぱり君は素直だな。小さな嘘でも罪悪感を感じ、相手に申し訳なく思ってしまう。そういった心は本当に大切だ。一度嘘をつくと癖になり、気づけば取り返しがつかない事態になる」


 校長は椅子から立ち上がると無言でレジに向かう。影山はそんな様子を伺っていると、二つのトレイに収まりきれないほどの甘いお菓子を持ってくる。


「……ヒッ」


 あまりの量に困惑する影山。そんな様子を楽しそうに見つめる校長。


「はははっ。サイドメニュー全て購入したぞ! 花恋を助けたお礼だと思い、沢山食べなさい」


 テーブル沢山に並べられた甘いお菓子。クッキー、ケーキ、マフィン、バームクーヘン、スコーン、ワッフル、タルト、アップルパイ、チーズケーキ等と食べきれないほどの量だ。ざっと数えただけで30種類はあるだろうか。


「いや、あの、えっ?」


 あまりの量に言葉が上手くでない。


「軽食も頼むか? それとも甘くない紅茶でも頼もうか?」

「た、食べきれません」

「育ち盛りの男子高校生なら大丈夫だろう? それに影山くんは少し痩せすぎだ」


 確かに影山は痩せている。昔、ガリガリで屍だと言われた経験があった。幸運にもそれが馬鹿にされた発言だとは一切気づいてはいなかった。

 影山はお菓子に手を伸ばす。少しでも消費しようと二人で貪り食う。淡々と菓子を食べていると校長はカップに目線を向ける。


「何故、容器サイズの名称がお店によって違うんだろうな? ショート、トール、グランデ。デミタス、ピッコロ、クラシコ。レギュラー、ラージ。英語だと覚えるのが辛いし、全部統一してくれたらいいのにな。S、M、Lなら楽なんだが」

「どうせなら大中小の方がわかりやすくていいと思いますけどね」


 影山はケーキを口に運びながら言う。すると校長は笑いだす。


「トイレみたいだな」

「大中小。トイレ……っ」


 影山はトイレとの表現がツボにハマったのか、笑いを堪えるように鼻で笑う。

 そんな他愛ない会話を続けていると校長は言った。


「影山くんを見込んで話したい。花恋は美園家の恥にならないように厳しく教育したお陰か頭がいい。だが勉強は出来ても、ふとしたときに驚くほど抜けてるところがある。自慢の孫だが、そこが怖い」


 影山は理解する。全ての人間を善だと思い込み、警戒心なくオフ会に参加しようとする無謀な行為。そしてマスクとサングラスをした相手をイケメンだと思い込み、会いたいと思う頭の緩さ。

 もしかしたらその男は彼女がいるにも関わらず、他の女性と情事関係となり、妊娠をすれば中絶を促すクズ男の可能性だってある。ごめんでは絶対に許されない行為だ。

 校長は影山の瞳を真っ直ぐと見つめる。


「影山くん。もしものことがあったら助けてやってくれないか? そして叱ってほしい」


 涙ぐむ姿。大人は頑張っても子供より長生きは出来ない。影山は爺ちゃんっ子なので尚更心を打たれる。


「わかりました。微力ながらお力添えできればと思います」

「本当にありがとう、ありがとうね。お土産に余ったお菓子は持っていってくれ。テイクアウトもできるから」

「えっ、いやいや!」


 立ち上がり、慌てたように手を振る影山を楽しそうに見つめる校長。

 そして思う。


 ーーあの日もそうだった

 校長が思い浮かべるのは花恋が楽しそうに笑う姿。そしてキーホルダーを取られてしまったその先の話。


「待って。僕が言いに行く。きっと彼女はうまいこと言って返さないだろうし、美園さんに酷いことを伝える恐れがある。僕は君が傷つくところはみたくないから」


 影山はそう告げると廊下に飛び出した。行く当てもなく、廊下を歩き回っているとキーホルダーを指で回しながら友達と雑談する二人の姿があった。


()()の花恋がくれたの。売ったらいくらになるかなぁ?」

「親友なのに売るとか超ウケる。私も美園花恋と仲良しごっこしたらくれるかな?」

「くれるよ。だってチョロいし」


 ケラケラと笑う下品な声。影山はすぐにその女子が威圧して奪った犯人だと察した。


「ねえ、美園さんのキーホルダー返しなよ」

「はあ? お前誰?」

「影山純太。美園さんのクラスメートだ」


 影山は二人の元に近づくと睨みを利かす。するとキーホルダーを持った女子が大声で笑う。


「あはははは! 花恋可愛いもんねぇ。いい顔したい男心? まあ、そこがムカつくんだけどさ」


 そして立て続けに罵る。


「ヒキガエルみたいな口と細い瞳。どう頑張っても好かれる顔はしてないよ?」

「僕は好かれたいから取り返しに来たんじゃない! 美園さんの笑顔を取り戻したいから来たんだ」


 影山は掌を前にだす。睨みを利かす影山の姿に一瞬たじろぐ女子達の姿。もう一人は返した方がいいと促している。だが、癇に障ったのか強気で返す。


「うっざ。取り返しにきたって違うでしょう? 私が欲しいって言ったら花恋がくれたの。勿論、花恋の手から。本当に返してほしいなら直接私に言うのが筋じゃないの?」


 口が達者なせいかスラスラと出る言葉。一応伝える内容は分からなくもないので戸惑う影山。その一瞬の迷いがダメだった。

 彼女は口元を緩め、不敵に笑う。


「影山だっけ? 別に花恋に返してもいいよ? 欲しいものじゃなかったし」


 その代わり私から返すね。だって私と花恋の問題だから。そんな言葉を残すと踵を返す。黙っていた友達はチラッと影山を遠慮がちに見つめると、金魚の糞みたいについて行った。

 その後、教室に戻ると花恋はキーホルダーを手に持っていた。すかさず聞く影山。


「大丈夫? 変なこと言われなかった?」

「ごめんなさい。私、影山くんのことを巻き込んじゃった。さっきね、影山って男が絡んできてうるさいから返すわって言われたの」


 眉間に皺を寄せながら続ける。


「きっと影山くんのことを面白おかしく言い回すと思う。でも必ず否定するから安心して」

「別に否定しなくていいよ」

「……えっ?」

「否定したら美園さんの方に被害が及ぶから」


 影山は思う。くれたキーホルダーを奪ったと言い触らして、私を悪者扱いしたと大騒ぎするはずだと。きっと自分の行いは棚に上げてそれくらいは言うだろう。

 花恋は小さく首を横に振る。


「それは違う。私の責任を影山くんに押しつける必要はない」

「僕は元々友達なんていないから大丈夫。美園さんは校長の孫って有名だから変に悪目立ちするだろ?」


 校長の孫、その言葉に大きく気持ちが揺らぐ。祖父に迷惑をかけたくない。そんな思いがこだまする。


「本当にいいの?」


 両親、校長の孫、その言葉が自身を束縛していた。花恋は両親と祖父に迷惑をかけることが一番怖かった。

 影山は淡々と返事をする。


「いいよ」


 その後、花恋は自宅に帰宅すると祖父にさり気なく言った。すると優しい祖父は鬼のような形相になる。


「花恋。お前は一生の友を失ったな」


 静かに告げる言葉。花恋は恐る恐る祖父を見つめた。


「一生の友?」

「そうだ。その場しのぎで繋がる友達より一生の友を失ったんだ。これは大きな損失だぞ」


 無言で聞き入る花恋。


「花恋。お前は流されやすいのが欠点だ。見極める力をつけなさい」

「見極める力……」


 そんな記憶を思い出す美園花伊之助。

 校長は影山の話を楽しそうに話す花恋を知っていた。そしてポニーテールにしたら、影山に褒められたからもうしないと照れくさそうに意地を張っていた姿も。

 校長は影山に言う。


「影山くん。至らない孫ではあるが、よろしく頼む」

「えっ、はい。ぼ、僕でよければ……」


 影山はたどたどしく反応した。

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