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16.花恋と校長

 美園花恋は祖父と一緒にショッピングモールに訪れていた。勿論、オフ会で着る服を買うのが目的だ。

 祖父は可愛い孫の為ならと多少は甘やかす。だがそれがオフ会の為だとは一切知らない。


「花恋。このフリフリした可愛い服はどうだ?」


 メルヘンな世界に迷い込んだかのような可愛らしい服が店頭に並んでいる。まるで毒りんごを渡す魔女のようにしつこく迫る祖父。だが、花恋はロリータを着る趣味はない。思わず口を尖らせる。


「もーう、お爺ちゃん(おじい)! 私、ロリータなんて着ないからっ」

「花恋はお人形さんのように可愛いから、きっと似合うと思ってなぁ」


 孫とのショッピングに浮かれる祖父。心なしか顔がニヤけてるような気がする。今日は可愛い孫のおねだりでショッピングモールに来たのだ。

 可愛いとの発言に恥ずかしそうにはにかむ花恋。


「今日はね、パーカーとジーンズを買いにきたの」


 パーカーとジーンズ。これは影山がツイツイターで呟いた発言だ。「パーカーとジーンズの女の子って可愛いな」たったそれだけの発言だが、恋する乙女は縋るように太陽好みの女性に寄せてくる。もし太陽がスキンヘッドの女の子が唆ると呟けば、盲目乙女達は迷わず髪の毛を刈り上げるだろう。

 普段と服の趣味が違う姿に祖父は反応する。


「好きな奴ができたのか?」

「えへへっ」


 花恋は照れくさそうに笑うと、祖父は眉間に皺を寄せる。


「ろくでもない男なら蹴り飛ばしてやるか」

「またその話? おじいの十八番だよね」

「爺ちゃんは花恋のことを大切に思ってるから当たり前だ」


 祖父が息巻く姿を見ると花恋は言う。


「あー私、下着みたいかも」

「肌着か。爺ちゃんは本屋で時間を潰すから好きなものを買いなさい」


 祖父はそう告げると3万円を花恋に渡す。

 花恋は嬉しそうに笑みを浮かべる。


「おじい、いつもありがとう! また温かい靴下買っとくね」


 美園花恋は手を振るとランジェリーショップに足を運ぶ。

 ショップには色とりどりのブラジャーとショーツが陳列されている。セクシーな黒のブラジャーを手に取ると花恋は妄想に浸る。

 ーー太陽くんとなら私……っ

 口元をモゾモゾさせる花恋。ちょうどそういった行為には好奇心溢れるお年頃だ。妄想でも夢をみたい。

 透けた黒の紐パンとセクシーなブラジャーを購入すると満足げにショップから出る。


 その後、余ったお金で祖父に温かい靴下とインナーを購入しようと男物の下着エリアに行くと見覚えがある男の姿が目に映る。


「影山……!」

「……美園さん!?」


 思わず指をさす花恋。

 影山は、真っ赤なブリーフと三枚組の手頃な白ブリーフにするか悩んでいた。咄嗟に手に持った赤ブリーフを背中に隠すと、恥ずかしそうに顔を見上げた。 


「こ、ここはメンズコーナ! レディースは向こうだからっ」


 店頭に派手に置かれたブラジャーがある方向に指をさす。そんな慌てた姿に花恋は口元を緩める。


「実は祖父の下着と靴下を買いに来たの。たくさんお小遣い貰って悪いからね」

「そっか、肌着か」


 肌着、そんな発言を鼻で笑う花恋。

 突然の出来事に困惑する影山。


「ど、どこが変なんだよ!」

「だって、おじいと一緒なんだもん。今どき肌着って言わなくない?」


 そんな発言に衝撃が走る。

 影山はムッとしながら問う。


「じゃあなんて言うんだ」

「下着やインナーとか」

「高校生の僕が肌着って言うんだからおかしくないだろ?」

「ふーん。そんなもん?」


 花恋は素っ気なく返すと、近くにあるレギンスに手を伸ばす。冬仕様の温かいやつだ。

 そんな様子を伺うと影山は言う。


「股引き買うんだ?」

「も、股引き!? レギンスのこと股引きって言うの?」

「普通だろ?」

「いやいやいや! 影山って私と同い年だよね?」

「うん。そうだけど」

「やっぱり私のおじいと感性似てる」


 おじいも白のブリーフ愛用してるし、そんな言葉を返すと影山は顔を真っ赤にする。


「ぼ、僕のパンツを見たな!?」

「影山のパンツを見ても……」


 素っ気なく返すと、影山は恥ずかしそうに真っ赤なブリーフを棚に戻す。そんな姿を冷めた眼差しで見つめる花恋。


「てか、ブリーフってダサくない?」

「人のことに口だしする方がダサいと思うけど」

「……影山にしては言うね」


 花恋はバツが悪そうな表情をする。実際ブリーフだろうが、褌だろうがどうだっていいことだ。自分好みのパンツを履けばいい。


「とりあえず僕は帰る」


 女性の前で下着を選ぶのが恥ずかしく思った影山は、そそくさと後にした。

 影山は今話題の最音クミの本を立ち読みしようとショピングモールの本屋に足を踏み入れようとした瞬間だ。


「こんにちは。君は影山くんだろう?」


 どこか優しい声。影山は顔を見上げると平服姿の男の姿があった。どこかで見たことがあるが思い出せない。


「すみません。名前をお聞きしても?」

「ああ、私の名前は美園花伊之助(かいのすけ)。影山くんが通っている学校の校長だ。花恋からは影山くんについて色々聞いているよ」

「僕をですか?」


 昔は仲がよかったが今は冷たい態度なので、家族に話してることに驚く影山。

 あまりの出来事に呆然としていると、美園校長は口元を緩める。 


「せっかくだから少しだけお茶でもしないかい? ご馳走するから」


 校長の優しい笑みに釣られ、思わずついていく影山。道中では色んなことを話しかけられる。


「悪いねぇ。本屋で何か買う予定だったんだろ?」

「い、いえ……」


 オタク向けの最音クミを立ち読みする為に訪れたとは言いづらい空気。無難に参考書を見に来たと誤魔化せば、校長は「勉強熱心で感心だ」と大いに褒められた。罪悪感を感じた影山は少しだけ心が痛んだ。

 暫くショッピングモールを歩くと某有名コーヒーショップに着いた。陰キャには行きづらいオシャレな空間と英語で書かれたドリンクサイズ。影山には一生縁がないものだと思っていたので感動する。


「花恋はここのフラペチーノが好きでねぇ。若者の君も好きだろう?」

「は、はい……!」


 感動のあまり首を何度も縦に動かすと、校長は「赤ベコみたいだな」と笑った。

 黒看板に書かれたメニュー表を見ると値段に困惑する。飲み物は自販機やコンビニでしか買わない影山は、一番安くても500円もすることに驚きを隠せない。

 校長に悪いと思い、影山は一番安いブラックコーヒーを選ぶ。


「僕、コーヒーでお願いします」

「影山くん、君は遠慮してるな?」

「い、いえ……そんなことは」


 目が泳ぐ姿に校長は大笑いする。


「花恋から聞いた通りだ。君は顔に表情がでる」

「僕がですか?」

「ああ、だからわかったんだ。本当はフラペチーノを飲みたいんだろ?」


 期間限定のチョコがたっぷりとはいった生クリームフラペチーノ。確かに影山が飲みたいドリンクはこれだ。

 校長は影山がフラペチーノの写真を物欲しげにみていたのを見逃しはしなかった。そして値段を見て眉間に皺をよせた瞬間も。


「花恋とは大違いだな。アイツは遠慮がない。まあ、そうさせたのは私のせいではあるが」


 両親の仕事が忙しく、よく祖父母の家に預けられた孫を可哀相に思ったのか、多少高くても色々買ってあげたのだ。それは両親も同じ考えで、娘が関心を持つものは全て与え続けた。寂しい思いをさせ、飢えた愛情を多少でも埋めたかったのだろう。

 フラペチーノとカフェラテを購入すると二人は席についた。

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