15.悲しき妄想
美園花恋は恋する乙女だ。それはあまりにも愚かで未熟な恋。周りからみればとても滑稽で道化そのものだ。
美園花恋はオフ会に申し込みをしてから常に妄想に浸っていた。普段と何ら変わりない学校生活も、まるできらびやかな花びらが舞い散りながら、数々の栄光を得た舞台女優のように優雅に足を運ぶ。花びらが舞う足元には、真っ直ぐと続くレッドカーペットが永遠と続いている。勿論、レッドカーペットは存在せず、続く道は普段と変わらぬ学校の廊下だ。
一度妄想の世界に入り込めば抜け出すことは簡単ではない。妄想とは都合のいい世界観だ。メインヒロインはいつも自分で周りは全て脇役。唯一違うとすれば、ヒロインにべた惚れの太陽がいるだけ。妄想という名の恋以外なにも存在しない寂しくて孤独な世界だ。
色ボケは周りにも影響が及ぶ。妄想にしがみつかなければ、気力を保つことが出来ない美園花恋は学校生活に太陽がいる妄想をする。
イケメンで運動と勉強も出来る優しい同級生。席は隣でいつも優しく微笑みかけてくれる。そんな都合がいい妄想に浸れば、自然と覇気も失う訳で友達の会話もどこか上の空だ。
美園花恋は太陽のツイツイターを開く。
「おはよう。今日も頑張ろうな」
そんな何気ない呟きに頬が緩む。
太陽中毒になっている美園花恋は、一時間に3回ツイツイターを確認しないと満足しない体質になっていた。気分はまるで遠距離恋愛だ。
そんなうつつを抜かす美園花恋に対し、影山は悩んでいた。オフ会に参加すると独り言を言った美園花恋の言葉が頭から離れない。
勘違いだと何度も言い聞かせるが、シュウのことを思い出すと現実に目を向けなければいけない。
抱く思いはシュウに対する不信感。確かに優しくて気さくな男性だが、ところどころ違和感を覚える。歯車が噛み合わないような気持ち悪さが体をゾワゾワとさせる。
ーーもし噂が本当なら
そう思うと彼女の身を案じてしまう。
影山は自分のせいで被害を被ってしまう可能性があるのが一番嫌だった。
影山は廊下を歩いている美園花恋を呼び止める。どこか覇気のない瞳が影山の瞳を映す。
「おはよう、美園さん」
緊張して心臓は激しく鳴り響くが、精一杯笑顔をつくる。
美園花恋は、影山の不器用な笑みに違和感を覚えるが素っ気なく返す。
「おはよ。どうしたの?」
「あ、あのう。実は○月×日に付き合ってもらいたい買い物があって……」
○月×日はオフ会がある日だ。
美園花恋は初めてのお誘いに不信感を覚えるが、別に悪い気はしない。何となく様子を探る花恋。
「なんで私? 他を誘えばいいでしょう?」
「か、母さんにプレゼントしたくて……。美園さんはセンスが良さそうだし、女子の意見を聞きたくてさ」
咄嗟にでた言葉。本当はプレゼントなんてする予定はないが、嘘をついてでも聞きだすしかない。
遠慮がちに尋ねる影山を見つめながら言葉を放つ。
「ふーん? 友達いないから私に頼んだのかと思った」
ストレートな言葉に心が若干痛むが、今はコニコニ動画で3万人のファンがいる。影山にとっては友達であり勇気の源だ。しかも最近電話帳に友達が一人増えた。
「……僕だって一人くらい友達はいるさ」
「それって人間?」
あまりにも辛辣な言葉。花恋は笑い声を隠すように口元をモゾモゾとさせる。
ムッとした影山は睨みを効かせれば、美園花恋は声を出して笑った。
「だ、だって! からかうの楽しくてっ」
「……とりあえず予定教えて」
口を尖らせ、不貞腐れたように影山が言う。そんな姿を面白そうに凝視する。
「悪いけど、その日は予定があるの。ま、違う日なら行ってあげてもいいけど?」
「その日じゃないと駄目なんだ」
「そ、そんなこと言われても……」
狼狽える彼女の姿。そして口を滑らせる。
「東京だし、時間を調整するなんて出来ないし……」
東京、その発言を聞いて口元をニヤつかせる影山。
「そっか、ありがとう。無理言ってごめん」
「べ、別に違う日ならの行ってあげてもいいけど?」
少し偉そうに告げる花恋。
乙女心を知らない影山は素っ気なく答える。
「あっ、もう大丈夫だから」
用事が済んだ影山は美園花恋を残して、その場を後にする。
花恋は不満そうに影山の後ろ姿を見つめたのだった。
影山は急いでトイレの個室に入るとシュウにメールをする。
「オフ会参加しないと伝えましたが、やっぱり参加したいです」
簡単なメールを送信する。
シュウはメールを受け取ると小さな笑みを浮かべ、すぐに返事をした。
「ホント? 嬉しいよ。オフ会前日は俺の家に泊まって生配信しよう。後、グッズのイラストは完成させといてね」
影山はメールを受け取るとため息をつく。
ーー悪い人には見えないんだけどなぁ
フレンドリーで優しい男、たまにデリカシーがないところが傷だがそれ以外は至って普通。軽い不信感はあるが、影山にとってシュウはそんなイメージだ。
それに対しシュウは自宅で嬉しそうにニヤついていた。そんな気色悪い笑みにケントは反応する。
「えっ、何? キモ」
「いやさ、太陽くんがオフ会参加したいってメールがきた」
「嬉しいの?」
「勿論嬉しいっしょ! 俺、太陽くんのこと好きだし」
ケントは編集中のパソコンから手を離し、シュウがいる方向に椅子を回す。
「女ウケいいから?」
「うーん、それもあるね。でも一番は従順で汚れを知らない所がいいかな?」
「汚物塗れのお前とは正反対だな」
「あはは。だから惹かれるのかもな? 俺、一人っ子だから弟が出来たみたいで楽しいし」
曇りひとつない爽やかな笑み。
ケントはそんなシュウを嬉しそうに見つめる。
「弟みたいに可愛いなら、ファンに手をだすのやめろよ。いつか俺達もいい人見つけて結婚するんだぜ? 収入がなくなったら大変だろ」
「バーカ。それとこれとは別。それに結婚しても俺は繋がる予定」
「はっ!? バッカじゃねぇの? 不倫すんの!?」
「不倫じゃなくて遊びだよ。妻が妊娠したり子供が出来たら気楽に出来ねぇし、外で繋がるだけ」
平然と告げるシュウにドン引きするケント。
「お前マジで頭逝ってるわ。考えを改めた方がいいぞ?」
「寧ろ俺と関係持てることを光栄に思ってほしい」
「お前、絶対に不幸になる。俺は何度でも言う。絶対不幸な終わりを告げると断言する」
「あはは。神のみぞ知るってか?」




