13.美園花恋の浅はかな思考
美園花恋は太陽のツイツイターを見ていた。異様に増えるリプ欄をみるとオフ会との言葉が並んでいた。
オフ会の意味が理解できない美園花恋はネットで調べる。
「ネットの人と現実で会うこと……」
思わず口ずさむ。
恋に溺れる美園花恋は想像する。コニコニ動画の太陽と生で会える姿、花恋と呼んでくれる優しい声、目と目が合った瞬間恋に落ちる二人だけの甘い世界。
ーー会いたい
恋する乙女は盲目だ。描く未来は全て自分のご都合主義になる。想像する姿はロマンチックなシンデレラ。勿論、虐げられる不幸がない素晴らしい世界観だ。
美園花恋はシュウのツイツイターをフォローする。そして再び太陽のリプ欄を覗くと宿敵であるムーンのコメントを見つける。媚にへつらいた甘い内容とハートマーク。思わず眉間に皺をよせる花恋。学年一の美しい顔が台無しだ。
教室に入ると美園花恋はうなだれる影山に目線が向かう。珍しく顔をうつ伏せにした姿に違和感を覚える。話しかけたい衝動に襲われるが、変に目立っても困るので懸念する。そしてどうこうしているうちに友達から話しかけられる。
「おはよう、花恋」
この子はコニコニ動画の話題をしていた友達の一人だ。
コニコニ動画に興味がないと言った手前、話題には出しにくい。だが、太陽のことは気になる。
「そういえばコニコニ動画を調べたの。太陽って歌ってみたの人?」
思いもよらぬ発言に食いつく友達。友達だって太陽が好きで堪らない。
「あ、見たの? けっこう声がいいよねぇ」
「うん、そうだね。何となくハマる理由がわかるよー」
敢えて淡白に返事を返す。あくまでも話題にされたから調べたを突き通す。本当は、けっこうじゃなくてかなりいいと声を大にして言いたかったがやめる。
「花恋って何事も好奇心があるから話しやすくて助かる」
「本当? ありがとう」
美園花恋が話したいのはこんなチンケな話題ではない。オフ会に参加するか、そんな話だ。もし行くなら熱狂的なファンだとバレてしまう。小さな芽はいち早く摘まないといけない。これは自分の未来のためだ。
美園花恋は言う。
「太陽って子を知りたくて色々調べたんだけど、ツイツイターのコメントにオフ会って言葉があったの。オフ会って何?」
敢えてオフ会を知らないふりをする。
友達は淡々と伝える。
「オフ会? 私、ツイツイターやってないし分からないや。合コンみたいなもんじゃないの?」
ツイツイターをやってない、その発言に口元が緩む。余計な発言だったかも知れないが、想像より熱狂的なファンじゃないと判明して安堵する。
「そっか、ありがとう。気になるから他の子にも聞いてみるね」
美園花恋は意気揚々に次の友達の元に向かう。
太陽の話題をすると、次の友達も簡単に食いついた。
「オフ会? それは現実世界で会うってことだよ」
「そっか、ありがとう。そういえば太陽って人、オフ会に参加するみたい」
さり気なく聞く美園花恋。
友達は楽しそうに伝える。
「大手ゲーム実況者のシュウとオフ会するんでしょう? 太陽くんに会えるなら参加しようか迷ってさ」
照れくさそうに笑う友達。
美園花恋は畳み掛ける。
「やめた方がいい。ネットの人物だし、私達みたいな高校生がオフ会に参加するなんておかしいよ……」
心配だし、危険。そんな言葉で友達の決断を消滅させる。そうすれば安心して自分がオフ会に参加できる。恋する乙女は誰よりも強い。
友達は納得したようで、美園花恋から離れる。
次に説得させるのは両親だ。未成年の美園花恋は親の許可がないと参加出来ない。オフ会参加条件には、未成年は保護者同行と記述されているからだ。
美園花恋は自宅に帰ると親を説得させる。
「ママ、私のお願いを聞いてほしいの」
どこか優しい声に母親は反応する。
「どうしたの、花恋? 言ってごらんなさい」
「私ね、東京のオフ会に参加したい!」
興奮気味に伝える娘の姿に、眉間に皺をよせる母親。戸惑うように口にする。
「お、オフ会? オフ会って何の?」
美園花恋は楽しそうに伝える。コニコニ動画のゲーム実況者が集まるオフ会だと。
そんな姿に困惑する母。
「なにバカなこと言ってるの!? いつから貴女はこんな悪い子になったの?」
少し強めに叱る姿に花恋は反論する。スマホを取り出し、太陽の歌を聴かせる。
「ほら、素敵な歌声でしょ? 歌もうまいし、優しい人なの」
色ボケした娘の姿にショックを隠せない母。恋の魔法は親には通用しない。下手くそな歌声、聞くに堪えない声は母親を決断させることは容易かった。
母親は、娘の瞳を真っ直ぐと見つめながら真剣に問う。
「花恋、ママの職業は知ってるでしょう? 私はね、嘘や不誠実な人間を沢山見てきたわ。オフ会なんて危険なことがいっぱいあるの。ママは花恋が被害にあって悲しむ姿をみたくない」
真っ当な意見だが、盲目状態の美園花恋には届かない。頭のなかは太陽くんを知らないからそう思うだけ、そんな敵対心でいっぱいだった。ちょうど思春期が重なったことも大きいだろう。
ムッとした娘の姿に母親はため息をつく。
「わかったわ。私が申し込むから名前を教えて」
「ツイツイターのシュウって男からーー」
軽く説明すると母親は自室に向かう。
勿論申し込むフリをして、当日になったら仕事が入ったと言い訳するつもりだ。お詫びに娘の好物でご機嫌をとる予定だった。
だが、美園花恋は勘が働く。ろくに18年間生きてる訳ではない。母親の性格をよーく知っている。
美園花恋は成人済みと偽り、申し込みをした。




