11.グッズと金儲け
「そうグッズ。金儲けできるよ」
シュウはペットボトルを2つ持ってくると蓋をあける。勢いよく飲み干すと、影山もペットボトルの蓋をあけた。
「手作りですか?」
グッズの意味が分からない影山は、ひとつひとつ手作りしたグッズ販売を思い描く。そんな姿に大笑いするシュウ。
「あはは。ハンドメイドじゃなくて発注するの。デザインは依頼してもいいし、自分で描いても構わない。いつかお金貯まったら二人で旅行配信とかも楽しいよ?」
シュウは言う。海を楽しむのも良し、中華街で食べ歩き配信も良し、旅館で思い出生配信も盛りあがる。
ーーまるで友達みたいだ
友達がいない影山は、好奇心が溢れだす。だが、ふと思う疑問。
「そんな簡単に売れますか? 夢のまた夢だと思いますけど……」
「いや、ある程度は余裕。太陽くんは勢いあるし、俺はグッズ販売の経験がある。発注数を調整すれば在庫を余らせることは極限減らせる」
シュウは説明する。
原価が300円とし、収益は30%ほしいとする。300÷0.3=1000円が販売価格になる。原価を引くと700円の収益となる。在庫が100個あるとして、完売すれば7万。ネットで販売すれば人件費をある程度減らせるので、小売店で販売するよりコストが抑えられるということだ。
大まかに伝えると影山が捻る。
「在庫余らせたら赤字ですよね?」
「そこが腕の見せ所さ。自慢じゃないけど俺はグッズを300個完売させた過去がある。他にも数種類グッズがあったから、まあまあ儲かったぞ」
シュウはドヤ顔する。ケントとタッグを組み、夢女子と腐女子と信者に売りさばいた。
特に腐女子と夢女子はかなりの数を買ってくれる。数=愛だと錯覚してるからだ。貢げば貢ぐほど推しに愛が伝わり、ツイツイターで数をアピールすれば反応してくれると信じてやまない。実際シュウはツイツイターで反応した過去があるので夢女子は博打感覚で多めに購入する。
影山は苦笑する。
「胡散臭さがありますね。僕のこと騙そうとしてません?」
「はははっ。確かに胡散臭いな。お金は俺が全て払うし、赤字になっても請求しないから安心しろ」
「何でそんなに親切なんですか?」
ふと、影山は生配信を思い出す。
夜は気をつけろ、おホモ達、そしてホモホモしいコメントを喜ぶ姿。
ーーもしかしてシュウは……
身震いする影山。勿論シュウはノンケだ。処女と可愛い子が大好きで、オフ会で言葉巧みに誘惑してはホテルに誘いだす頭がイカれたイケメン野郎だ。今までファンと繋がった人数は両手で収まりきれない。
影山は一歩身を引く。そんな姿に反応するシュウ。
「太陽くん、妙なこと考えてない?」
「い、いえ! 大丈夫です。お構いなく」
思わず影山は露骨に目線を逸し、一定の距離感を保とうする。
シュウは離れる影山に近づき、指をさしながら勢いよく言う。
「何がお構いなくだ。言っとくけど俺は男の方は食ったりしない」
「男の方は……?」
「あ、い、いや。俺はノンケだってこと!」
苦し紛れに誤魔化すシュウ。そんな姿に影山は疑問を感じる。
「じゃあ何で親切にするんですか? 好意があるから優しくしてません?」
初めて会った人物に、こんなに優しくしてくれる人なんて滅多にいない。高い服をくれて、グッズの資金は全て相手持ちだ。詐欺と下心以外に何がある。友達になれると思っていた影山はムッとしていた。
シュウはため息をつく。
「違うって。俺は太陽くんを見込んでるから良くしてるの。太陽くんは金の卵で、それを独占したい下心から俺が全て払うってわけ」
動画投稿でそれなりに収入があるシュウは、もし赤字になっても痛くも痒くもない金額だ。熱があるうちにグッズを販売すれば、購入してくれるファンは必ずいる。単体ではキツくても、ファンが多い大手のシュウが混じれば、それなりに数は売れるはずだ。
オフパコがバレて、ネットから消えてしまったケントの変わりもほしい、そんな考えもあった。
「金の卵ですか……」
散々、女子から陰口を言われてきた影山。ゴキブリの方がマシ、笑い方が溺れたアヒルみたいだと日々馬鹿にされてきたので胸の奥が妙に熱くなる。
ーーこんな僕が必要とされている
影山の心を掻き立てるのは簡単だった。徐々に口元が緩くなる姿に、シュウは内心ほくそ笑む。
ーーこいつチョロいな
思い描く未来は両手に可愛い女性を侍らせて、乳を揉みこむ下心溢れる世界。好感度が下がれば、好感度が高い人物と仲良くすれば勝手にプラスになる。
金の卵、影山はその言葉に笑みを浮かべた。
「お願いできますか?」
希望に満ち溢れ、キラキラ輝く瞳。シュウは小さく笑う。
「交渉成立だな。イラストは依頼する? それともキミが描く?」
影山は唸る。一応、美術の評価は4だが、かなり良いというレベルではない。授業で花のイラストを描けば、同じグループの女子から「アンリ・ルソーかよ」と笑われた。有名画家だと言われたので、意気揚々で調べたら世界一下手な画家だと後々判明したので落ちこんだ記憶がある。
影山はそれとなく伝える。
「美術の授業で絵の具をぶちこぼした方がマシだと言われる実力です……」
「美術って響き懐かしいなぁ。でもクソなイラストでも売れるから安心しな?」
ただ丸書いてグッズにしても夢女子には売れっから。そんな言葉を吐き捨てるシュウ。
影山は聞く。
「イラスト依頼したらいくらします?」
「人にもよるけど、簡易的なら2万くらい? 書き直しとか細かく指示するならもう少しサービスした方がいいかもね」
2万、その言葉に反応する。金銭を負担するシュウに悪いと思った影山は言う。
「僕が描きます。リアル画苦手ですが、頑張ります」
「リ、リアル画!? まさか自画像でも描くの?」
「自画像ですよね?」
「アホなの? ツイツイターアイコンのようにキミをディフォルメにするだけだから」
あまりの勘違いっぷりに困惑するシュウ。
今現在、影山のツイツイターはファンから貰った無駄にイケメンなイラストだった。現実ではあり得ない奇抜な髪色、無駄に尖った顎、格好つけるように人差し指で内緒ポーズした姿。人間という生命体以外、何ひとつ一致していないイラストだが、お花畑の信者には好評だった。
シュウは言う。
「好きな色ってある?」
「赤が好きです」
陰に隠れる影山は、どこにいても目立つ赤色が好きだった。
「じゃあ髪色は赤にするか」
シュウは提案する。
真っ赤な髪の毛、可愛らしい大きな瞳、そしてトレードマークのダサイ英文字帽子を被せたキャラを太陽にしてグッズ化すると言う。単体だけだと数を捌けないので、自分をディフォルメにした青い髪色のキャラも入れるとのことだ。
それを聞いた影山は質問する。
「僕の絵はどうします?」
「描いて。イラストが下手でもファンは買ってくれるし、太陽くん単体でどれくらい売れるか知りたい」
「わかりました。描き終わったらDM送りましょうか?」
「DMよりRAISO交換しない? 電話もできるし」
RAISOとは、メッセージアプリのことだ。無料通話やグループメッセージも出来る便利な機能である。だが影山は、友達がいないのでRAISOというアプリは入れていない。電話帳は両親と110番しか登録していない影響か、RAISOとはリア充がやるものだと勘違いしていた。
友達がいない、その事実がバレるのを懸念した影山は誤魔化す。
「僕はRAISOよりメール派ですね。電話だって音質悪い気がしますし」
咄嗟にでた言葉。そんな姿にシュウは反応する。
「ふーん? まあ、太陽くんがそう言うなら電話番号とアドレス教えるよ」
シュウと影山は赤外線で電話番号とメールアドレスを交換する。そしてお互いに表示された番号とアドレスを見て硬直する。
シュウのアドレスはnaomi_shu.everlastinglove@xxxx.jpというものだ。ナオミとは永遠の愛を誓った元カノだった。メルアドはお揃いにし、その日のうちに専用の携帯を同キャリアで揃えた。寝るまで電話し、朝一でおはようのメールを送り合い、愛の深さを日々確かめ合った。最後は些細なことで喧嘩し、永遠の愛は一ヶ月で儚く散った。
そして影山も自分のメルアドを見て苦笑する。dark-knight.captain-shadow@xxxx.jp、初めて携帯を手に入れたときに登録したメルアドだ。重度の中二病だった影山は、ダークナイトキャプテンシャドーにしたのだ。痛々しい行動と根暗とコミュ障がプラスし、友達がいなかった影山はメルアドの存在を忘れていた。
お互い顔を見合わせ苦笑する。
「暗黒騎士隊長か……」
「ナオミさん、元気ですか?」
何とも言えない空気。
いたたまれないのかシュウは饒舌になる。
「これ、元カノ専用の携帯だったんだよね。普段使いの携帯は色々あって解約しちゃってさ。今はRAISOあるし、メルアドは数年ぶりというか……」
「ナオミさんは……」
「意地悪しないで。俺が悪かったから……」
生配信を根に持つ影山は弄り返す。そんな行為に心底堪えるシュウ。
弱々しくシュウは言う。
「俺、メルアド変えるわ」
「……僕も変更します」




