01 声だけはイケメンの僕
コミュ障と陰キャ、影山純太はそんな言葉がよく似合う男だ。無口で覇気のない瞳、話題を振られても頷くだけ。気付けば友達という友達は存在せず、お昼ご飯はいつも教室で一人ぼっち。
それでも影山は不満がなかった。下手に相手と会話を合わせる必要がない、自由に行動が出来る、寂しい奴に見える以外は満足していた。
ただ影山は、悪目立ちしてるせいか女子グループからの悪口の対象なっていた。影山の教室では、お昼ご飯になると各クラスの女子が机を輪にして食事をする。その教室で男が1人ポツンといる、それが気に食わなかったのだろう。食事の時間になると女子は必ず影山の悪口で盛り上がった。
悪口はいつも同じパターンから始まる。「まーた影山がぼっちだよ」これが合図だ。
「恥ずかしくないのかな?」
「私達のグループに入れてあげる?」
「絶対無理! 気色悪いっ」
辛辣な言葉が並ぶが、孤独を貫く影山は話題になるだけありがたいと思っていた。いつも通り隅っこの席でご飯を黙々と食べ、聞き耳を立てると女子達は色んな話題をする。アイドルの話や気に食わない教師と友達の愚痴、当たり障りのないいつもと同じ会話。
「ねえねえ。影山ってさ、良いところってあるの?」
学年一、可愛いと評判の美園花恋が影山の話題をする。
美園花恋は校長の孫娘でお嬢様だった。所謂、お金持ちで勉強も出来るボンボン娘。父の職業は外交官、母親は弁護士。そのお陰か英語がペラペラで、勉強とお洒落も完璧だ。そして美園花恋は必ず女子の中心にいる。
「花恋、影山に聞こえたらどうするのぉ?」
「別に影山に聞こえたっていいじゃん?」
「影山は頭もそこまで良くないよねぇ」
「でもさぁ、人間一つくらいはいい所あるでしょう?」
「ヤンキーが子犬拾うみたいな?」
あはははは。複数の愉快な笑い声が教室に広がった。
「あっ! でもさ、声よくない?」
ふと、誰かが言った言葉。女子達の笑い声はピークに達した。
「えー? 影山が好きなのぉ?」
「バッカじゃないの? あんなネクラ金貰っても無理」
「確かに声は悪くないかもね?」
「でも声だけじゃねぇ」
普段褒め慣れてない影山は照れくさそうに口元を緩める。
そして帰宅してもその言葉が頭から離れない。顔はイケメンじゃない、勉強が得意なわけでもない。人に誇れるものを何一つない影山は、思わず声がいいとの褒め言葉に胸が熱くなる。
気づけば自室で動画サイトのアカウントを作っていた。ニックネームは自分に似つかない太陽にし、年齢は高校生から大学生へと偽る。
今人気のパコリカの歌をイケメン風に歌い、コニコニ動画にアップする。すると人気の歌のお陰か1万人も閲覧数がついた。
動画に流れるコメントには「声イケボですね!」「耳が妊娠した♡」「こんなクラスメイトがいたら毎日学校楽しいのに!」「本家より好き」「みんな、チャンネル登録忘れてるぞ!!!!」等のコメントが寄せられた。
素人が特別な機材を使わず、いつもより少し真面目にスマホで録音したそれほど上手くない歌声に女子達の絶賛の声が相次ぐ。
影山から涙が零れ落ちる。普段目立たない自分が必要とされている。
これがきっかけで、影山は歌い手として名をあげていくーー