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JOKERMAN  作者: ホーリン・ホーク
9/33

9.camping car

 あれから車は動かなくなった。

 後輪が完全に車体に食い込み、セルも回らない。

 リリィは八つ当たりでオーバーフェンダーをひと蹴り。

 そして通りへ出て救助を求めた。


 電話もない夜の田舎道。人里離れた寂しい山中。

 五台の車が通過したが、止まってはくれなかった。

 痺れを切らしたボビィは立ち上がり、森の奥へ入って行った。

「この先は確か湖だよ。誰かいるかもしれないよ」



 草木を掻き分け掻き分け、ボビィは前へ進んだ。

 蛙やコオロギの鳴き声が喧しく、ヤブ蚊が顔を狙って飛んでくる。立ち止まったかと思うと、ボビィはまた勢いよく前へ進んだ。


「ボビィー、そんなに奥へ行っちゃダメよ! 迷ってしまうわ」

「大丈夫だよママ。……ほら、匂いがするんだ。ねぇ、お魚が焼けるいい匂いがするよ」

「……あ、本当……ま、待って!」

「誰かいるんだ!」

 そう言って笑顔を見せるボビィの後をリリィは追った。



 湖まで辿り着いたボビィ。そこには一台のキャンピングカーが。車の横にはテントが張り出され、そこで魚が炙られていた。

 人影が見える。大きな男の影が吊り下げられたランプの炎に揺れていた。どうやら向こうも気づき、こちらを見ている。

 ボビィは恐る恐る近づき、勇気を出して声をかけてみた。


挿絵(By みてみん)


「こ、こんばんはー!」

 首を傾げ、ボビィは灯りの下、その主の顔を見た。そして目を見開く。

「おじさん!」

 そこにいたのは店で出会った、人形を救い出してくれた()()おじさんだった。

「また会ったね! おじさん!」



 ――な、何だってんだ? ……ジョーは驚き、固まった。手にしていた拳銃を隠し、少年の顔をランプの灯りで確かめた。


「おじさん何してるの? こんな所で。……あ、そっか、お魚焼いてんだね」

「坊やこそ何でここにいるんだ? こんな時間に」

「ふふん……坊やじゃないよボビィだよ。ボ・ビ・ィ。……あのね、車がね、壊れちゃったんだ」

「何だって?」

 ジョーは一時間程前、遠くでクラクションが鳴り響き、大きな音がするのを聞いていた。


「ママが運転してた車……事故しちゃって」

「まさか……リ……マ、ママは、それで、ママはどうした? 何処にいる? 怪我は、おい、まさか」


 (リリィは?!)と名前を呼ぶところだった……ジョーは動揺を隠せない。

「大丈夫。……ほら、今来るよ」

 ごそごそと茂みの中から疲れた顔のリリィが現れる。

「ボビィ! いるの?」

「ママー、こっちこっち。ねぇ! 感動だよ。またあのおじさんがここに!」


 ジョーは平静を装い、ちらりと彼女を見た。リリィは目を丸くした。

「おじさん、お魚焦げちゃうよ!」

 ボビィが気を利かせてそれをひっくり返す。ジョーは嬉しそうなボビィの頭を撫で、優しくいたわって言った。

「怪我がなくてよかった」


 その言葉と眼差しを不思議そうに見つめるリリィ。

 彼女は救われる思いで頬に手を当てた……。



挿絵(By みてみん)

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