32.pray for your...
とある港。
夜の海に呻く風と波。
遠くを見つめながら二人の男が並び立つ。
ライセンスは短くなった煙草をピンと弾いた。
海の闇に消えゆく赤い炎の点。
溜息混じりにライセンスは訊いた。
「……本当にそれで良かったのか?」
「ああ。俺にその資格はない」
「その子もお前を慕っていたというが。そうか」
「ドクによろしく頼んである」
ジョーは俯き、その笑顔を懐かしむ。
渦巻く風。ジョーは分かっていた。
「フットプライドの件。ライセンス、あんただろ?」
「……証拠はないはずだが」
「証拠を残していないのが何よりの証拠だ」
ライセンスは顎を摩りながら頷く。
「お前の苦しみの一つでも、奴は味わうべきだ」
飛び散る波飛沫がハーバーライトに煌めいた。
「ジョー。お前はずっと償っていた。二つの口座に金を振り込んでいた。違うか?」
「……ああ。バイト代をな」
「ん?」
「ビフの所で皿洗いと店内清掃した稼ぎでな。クリーンな金だぜ」
「フハハ。そう。お前の仕事は丁寧だからな」
二人は空を見上げた。
ふと、振り始める雪。ジョーは言う。
「……俺は国家に裏切られたと思い、復讐を謀った時期もあった。敵に捕まり拷問され顔を潰されズタズタにされ、ただ怒りだけが支配したはずだった。だが心の何処かに彼女が居たんだ。いつも彼女がいた。いつかリリィに会いたいと願っていた。最終的に俺を生かしたのは彼女への想いだ。……恋は……人を生かしてくれる」
頬に解けゆく雪。
「サンダースへの恩義。彼を必要悪と見定め、命に従う殺し屋稼業……とはいえ、俺は人を殺め過ぎた。体中、血生臭い。とても誰かを幸せになどできない。俺を待っているのはただ、地獄だけだ」
そう言うジョーを見て、ライセンスはいたわった。
「……心配するな。俺も同じ。共に行こう」
ジョーは彼を見て微笑んだ。
「療養中に看ててくれたあんたのことは忘れない。感謝してる」
「気にするな。同じ臭いがしただけだ」
ジョーは目を閉じ、リリィを思い浮かべる。
――俺は遠くで君とボビィの幸せを祈ってる……。
ライセンスは彼の肩に手をやる。ジョーは
「この雪はやけに塩辛い」そう言って頬を袖口で拭った。
目を閉じれば聞こえてくる彼女の声。
艶やかで、愛らしい響き……
……無事を祈ってるわ……ジョセフ……
……あなたの目は……とても優しい……
……そう、祈ってるわ……無事を……
……あなたの無事を……
END




