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JOKERMAN  作者: ホーリン・ホーク
23/33

23.spirit in the night

 《ようやくドクと直接話ができた。お前たちが来る頃には何とか帰り着くはずだと……》

 カフェレストRamonaのオーナーでありサンダース・ファミリーの相談役ビフはそう言った。

 受話器を置き、ジョーは車に戻った。



 三日目の夜、そこはキャンプ場。

 ボビィはぐっすり夢の中、ずっと手を握っていたリリィもそろそろ目をこすり始めた。そこへジョーが車内に入ってくる。彼はそっと声をかけた。


「寝たら?」

「え、ええ……でも」

「心配で眠れないか?」

「いえ……あなたこそ今夜は中で寝られた方が」

「いいよ。言ったろ? 俺は外が慣れてる」

 そう頷いてジョーはまた降りてゆく。

「鍵。中からちゃんと掛けとくんだぞ」

 シートにもたれ、リリィはジョーのことをしばらく考えた。



 今夜は月明かりが美しい。

 昼のように森を照らす。

 夜の精を感じながら、ジョーは積み置かれた丸太に腰掛け、静かに辺りを見渡した。彼にとって、今は夢のようだった。


 ――リリィ。こんな形だが、一緒に過ごせるなんて……。


 目を閉じると胸が熱くなる。

 あの時の彼女の声、呼吸が今にも聞こえてくる。



 ……それは高校卒業前のダンスパーティーでのことだった。

 有り金はたいて手に入れた白のタキシード。

 ジョー=〝ジョセフ〟はやっとその舞台に立った。鼻をこすり、照れ臭そうにリリィのところへ。


「……あの… …お、踊っていただけませんか?」

 リリィは振り向いた。鮮やかな、桃色のチャイナドレス姿で。


「いいわよ」

 初めて、手を握った。

「隣りのクラスの人よね? お名前は確か」

 彼は顔を赤らめ、声を絞り出した。

「ジョセフ・ハーディング です、よろしく」

「ジョセフ。そう、ジョセフね」


 リリィはこわばった顔のジョセフを優しくリードした。夢のようなひと時。ジョセフは言った。

「俺、グレイヴスへ行くんです」

 そこは戦場。リリィは言葉を詰まらせる。

「……そうなの、あなたも入隊するの……」

 知っていた。彼女の恋人エイブラハムもそこへ行く。


「踊ってくれてありがとう。本当に、いい思い出になった」

 静止する二人。ジョセフはもう一度、心から言った。

「ありがとう」

「無事を祈ってるわ」

「うん。あ、最後に一枚、写真を」

 それも精いっぱいの勇気だった。

「笑って、リリィ」

 彼女は応えた。精いっぱいの笑顔で。

「ありがとう。それじゃあ……」

「じゃあ……」


 二人が離れるのを夜の精が見つめていた。

 月明かりの美しい夜だった。


挿絵(By みてみん)



 ジョーは目を開け、月を見つめた。

 ――俺はエイブラハムを救えなかった。君の愛する男を、救えなかったんだ。すまない。本当にすまない……。


 ジョーはスッと立ち上がり、車の前に立った。

 鍵は掛かっていなかった。二人の寝息が耳に届いた。


 毛布に包まるボビィと横たわっている彼女の寝姿を見つめる。近づくジョーの手がゆっくり伸びる。伸びた手はそっと綿毛布を掴み、優しく彼女の肩まで。


 ――リリィ。君は、俺が守る……。



挿絵(By みてみん)

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