ハッピーエンドを目指して
拙い文章ですが温かい目で読んで頂けると幸いです。
「お願いハヤト私を…殺して」
「なんでだよ……クレア俺はお前のために……」
涙でよく前が見えない。愛しい顔が目の前にあるのによく見ることができない。
「勇者である貴方にしか魔王の私を殺すことはできないわ……お願いよ、貴方との思い出を忘れる前に貴方の手で……」
「クレア…」
「泣かないで……貴方の顔…涙でぐちゃぐちゃ……これをあげるわ……母からもらったお守り……」
クレアがツインテールに結んでいたリボンの片方を渡してくる。
「大丈夫……またきっとどこかで会えるわ……だから……お願い……」
俺は剣をクレアの胸に突き刺す。彼女の服が血に染まっていく。
クレアが俺の頬を撫でてくる。
「ありがとうハヤト……それとごめんなさい」
ーー
「クレア……」
目を開ける。頬が涙で濡れている。彼女を殺して異世界から戻ってきて月日がたった今でもこの夢を見る。
俺は、ある日魔王倒す勇者として異世界に転移した。俺は、それまで何もかもが退屈で無気力に生きてきた。それは、転移してからも変わらなかった。魔王を倒すための訓練や座学色々なものを適当に流していた。
それも彼女と出会う前までは、彼女は城の中庭でいつも本を読んでいた。今思えばあれが初恋だったと思う。彼女は、そのとき勇者が魔王を倒して世界が幸せになるそんなハッピーエンドの本を読んでいた。彼女は、そういう本ばかりを読む。
俺は、訓練以外の時間は、彼女の所へ通いつめた。最初は、ほとんど本から目をあげてくれなかったのに少しずつ目をあげてくれるようになって色々な表情を見せてくれるようになった。街に出ようと誘うと城から出られないと言うから勇者のステータスに物言わせて城壁を飛び越えて連れ出したときの彼女の笑顔は、今でもはっきりと覚えている。
いつからだろうか俺は、魔王を倒して彼女が好きなハッピーエンドのような世界をと思い始めたのは。
それからは、訓練や座学を流さず真面目に受けた。そして魔王を倒す日。俺は、魔王を倒すために聖域に行くとそこには、クレアがいた。
後から知った事だがこの世界の魔王は、魔族から生まれるとかそういう物ではない。100年に一度人間から魔王の力を持った子供が生まれる。成長するにつれ力が強くなり思春期を抜ける頃に成熟し真の魔王となり世界に厄災をもたらす。
そして今力を持っているのがクレアだった。俺は、どこかで気付いていたのかもしれない。王族でもない少女が城で生活していて自由に外に出られない。まるで軟禁してるかのようだ。でも俺は、そんな筈はないと目を背けていた。気づかない振りをしていた。
そして俺は、勇者として彼女を殺した…
現実世界に戻って来た後も俺の心には、ぽっかりと穴が空いている。それでも月日は、流れる。
スマホの着信音が流れる。もう家を出なければ用事の時間に間に合わない。
クレアから貰ったリボンを手首に巻く。このリボンは、鈴が付いていてチリンチリンと音が鳴る。クレアの傍にいる時いつも聞いていたこの音を聞くとクレアが傍にいる気がする。
街を歩く、大量の人が後ろに流れて行く。
チリンチリン… 聞き慣れた鈴の音が後ろに流れて行く。
はっと振り向くと今俺が付けている同じリボンで髪をポニーテールに結っている少女が見える。少女もこちらを振り返る。まるで示し合わせたかのように目が合う。
ハッピーエンドを目指した俺は、最後までハッピーエンドを目指したい