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チョコレート  作者: 森 彗子
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クラスメイト

何食わぬ顔したあいつが私と目が合うと

誰にも見せない不思議な顔をする。



*


普段はあんなに表情豊かで顔に気分丸出しの平蔵が、今日は朝から無表情で座っているなんて、槍でも振ってくるんだろうか。


さっき、教室に入ったときの違和感はあいつのせいで間違いなさそうだ。


奥田平蔵という男は長く伸ばした髪を後ろに束ねて、わざとだらしないようにYシャツを着てボタンを外している。


その下に着ているTシャツが、これがまたとんでもなく派手なデザインのものが多い。

今日は白いTシャツに毒々しい薔薇がびっしりと描かれたプリントシャツだった。

一体、どこでそんなデザインの服を買っているのだろう?


だらしなく着ると言えば、ズボンだ。


時々、ガラパンがはみ出ているけれど、あれも着こなし術なのだと主張しているあたりが、おつむの目出度さを強調しているとしか思えない。


あいつを取り巻く連中もよく似た趣向のお仲間で、俗にいう不良生徒っていうやつなのかもしれない。


そんな彼と私が最初に出会ったのは、幼稚園の時だった。



幼稚園バスの送迎で、バス亭仲間となったのがくされ縁の始まりで、あいつは私を見て開口一番に「おいブス」と言い放ったのだ。


もちろん返事ひとつしてやらないと固く心に決めてから、私は何度話しかけられようとも、ことごとくあいつの存在を無視し続けてやった。


あれが5歳頃なら、かれこれ12年間もの間、私は一度もあいつとは口を効いていない。


だがしかし。

口は効いていないが、不覚にも何度か目は合っている。


あいつはいつも目立つ行動をして、目立つ格好をして、目立つ物言いをして、憎たらしい程周囲を自分に釘づけにする天才なのだ。


あんな俺様な奴でも、あいつを気に入っている輩は多く、常に数人の友人に囲まれてふざけたことばかりやっている。


迷惑な男だと、私は常にあいつの存在を思い知らされることが大変憎々しかった。


でも、考えてみれば妙な話だ。



なぜ、私はあんな奴の一挙手一投足がこんなにも気になっているのだろうか。


気が付けば毎日16時間もあいつの顔色を見て、今日は機嫌が良いだの悪いだのと気にしているなんて、滑稽じゃないか。


学校が終わった後もあいつは私の行動半径に必ずいるのだ。


塾も一緒、バイト先には毎日顔を出すし、それに家が隣で部屋の窓は向かい合わせ。

レースカーテンの向こう側で、真面目な顔をしてテスト勉強している顔を偶然見てしまうことも頻繁に起きてしまう……。



私は奥田平蔵から視線を外すことを決意して、自分の机に腰を据えた。


朝のホームルームが終わり、いつものように手洗いに向かおうとした時だった。平蔵が進行方向をすでに歩き出していることに気付いた。


目もくれてやらないと誓ったそばから、あいつは私の行く手に立ちふさがり続けるのは今に始まったことではない。


私は鼻息を荒くして、足を高速で動かしながら歩いて奴を抜き去ってやった。あいつは私に抜かれても、別に何ともないような無機質な表情をしていた。


抜き去る一瞬、私はまたしても奴をこの目で捉えていたことになる。


なんということだ。


イライラする!


トイレに飛び込んで用を足すと、手を洗ってハンカチを取り出しながら廊下に飛び出すように出た私は、来たときと同じ速さで教室へと戻ろうとした。すると、背後から突然声がかかった。


その声はまさかの、奥田平蔵だ。


「おい」


反射的に立ち止まった私は、振り返るのをやめてまた歩き出した。振り返ったら今までの意地とプライドが無に帰すだろう。


「おい!って言ってるだろ!」と、さらに声がかかった。


私はなぜか、どうしようもなくなって振り返ってしまった。するとあいつは思ったよりも近くで私を見降ろして来た。


この距離だと息がかかってくる。

あいつの吐く息を吸うなんて、そんなのすごく嫌なはずなのに。

逃げ出すこともできるのに、なぜか私はグイと顔を上げて睨み返した。


怪訝そうに眉をひそめ、平蔵は奥歯にものが挟まったような活舌の悪さで言った。


「俺、お前に何かしたのか?」


「はぁぁあ??」


「は?じゃねぇよ。ずっと気になってたんだよ。お前のその態度…」


私はつい窓の外に視線を投げた。真正面から物言いされるだなんて、なんて日だ!と、心の中で悪態をついている。


平蔵は近くから見ると危険なほどイケメンだ。ムカつくほどにモテる男なのだ。そんな奴に見つめられて舌を噛んでしまわない保証はない。


それに、自分でもなぜこんな風なのかわからない!


だから、こいつは私になんていうことを聞いてくるのだ!



 (ばかたれ!!)



「……バカたれってなんだよ」



私は凍り付いた。



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