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第八話「曇り時々爆破」

 翌朝、木々の合間から差し込む朝日が瞼の上から差し込み夜が明けたことを自覚する。

 あくびを一つ噛み締めて寝具から起き上がり、大きく伸びと深呼吸をすると新鮮な森の空気が身体いっぱいに巡り一気に目が覚める。

 これまでの旅路で一番良い目覚めだと思った矢先にあることに気が付いた。


 エイスの姿が見当たらない。


 いつもなら目が覚めると辺り一帯の索敵を行っている彼が視界に入ってくるはずなのに。

 昨夜武器の手入れをしていた焚火後周辺にも、バイクの近くにも居ない。

 一気に背筋がぞっとする。


(まさか、魔王の配下に襲われたとか?)


 いや、それはあり得ない。単身で魔獣と渡り合う上にあれだけ強力な武器を持っている彼が後れを取るとは思えない。

 それに、もし魔王の配下との戦闘になったのなら接近してきた段階で気づいた彼が何かしらの対策を取るだろうし、戦闘になればその音で私が気づいているだろう。


「いやでも、もしかしたら……」


 そう、もしかしたら。もし彼の予想を超えるような事が起こった場合、例えば、彼でさえ気づかないほど気配を殺せるモノが襲ってきた場合など――


「どうかしたか?」


 いきなりエイスが背後に現れた。


「どわあああああああ!?」


 驚きのあまり腰が抜けてしまい、頭から焚火後に突っ込んでしまった。

 これでは昨夜水浴びした意味が完全になくなってしまった。


「ぺっぺ苦っ、ってそうじゃなくて、アンタどこいってたのよ!」

「警戒の為に気配を消してこの辺り一帯を見回っていた」

「なんだ、そうだったの……脅かさないでよ」

「そうか……それはすまなかった。それと、起床して早々だが準備をしろ」

「?」

「移動する」


 その後食事を済ませた私達は森の中を進んでいた。

 彼曰くこの森を見て回った際に北の王国の国境を見つけたそうだ。


「着いたぞ」


 突然歩みを止め、木の陰に身を潜めて指をさした。彼に倣って同じく木にの陰からその先を覗くと森が途絶え、少し離れたところに大きな壁がそびえ立っていた。

 壁は左右に続いており、その上では衛兵が目を光らせている。


「これが国境?」

「そのようだな」


 声を忍ばせながら聞くとそう答えた。


「でもこれって国境って言うよりも……何ていうか砦って感じね」

「それもそうだろう。この国はお前の国とは違って魔物の生息している領域と隣接している。魔物の侵入を防ぐ為に強固な壁を築くのは当たり前だ」


 そう言うと彼は二つの筒が横に繋がったモノを取り出し、その底面を両目に当てた。そしてそのまま砦の上部や左右を見渡し始めた。


「それって何?今までも何回か使ってたけど」

「双眼鏡だ。遠距離にあるものを見ることが出来る」


 持っていた双眼鏡を私に突き出してきた。


「え?」

「覗いてみろ」


 エイスは砦の左端を指さした。

 私は彼に倣い双眼鏡を覗き込んだ。

 すると、今まで開けていた視界が丸く切り取られ、その中に遠くにうっすらとしか確認できなかった門のようなモノが見えていた。


「おー……門みたいなのが見える。ホントに遠くまで見えるのね」

「見えたか。あの門の場所まで行くぞ」


 私たちは森の木や茂みの陰に隠れながら砦に沿って暫く進むと双眼鏡で見えた門の場所までたどり着いた。

 門は大きく、その両側には扉を開閉するための塔が立っている。


「あそこから入るのね」

「そうだ」


 ついに来てしまった。

 恐らくこの旅において大きな障害の一つであるだろう国境越え。

 通常ならば許可証かそれに類するモノを見せれば国と国を行き来できる。私たちの場合は父様――国王の書状を見せれば通ることが可能だ。

 しかし、今はその通常ではない。魔物の領域からやってきた見慣れない格好をした謎の乗り物の男と少女。しかも、その手には王の書状。

 怪しさ100点満点である。

 どう考えても人間に化けて王国に侵入しようとしている魔族か何かの類にしか見えない。


「で、どうやってココ通るの?」

「そこで待っていろ」


 そう言うとエイスはここまで手で引いてきたバイクを止め、バイクの荷物入れから昨夜見せてもらった手榴弾とそれによく似た形状で全体が白色のモノをいくつか取り出す。

 それらを持つと門から横にズレたの茂みに身を隠した。


(なにするんだろ?もしかしてあの手榴弾で砦を壊そうとしてるんじゃ……)


 いや、それは無いか。

 あの砦は凶暴な魔族の侵入を阻む為に建てられたもの。生半可な作りはしていないはず。

 いくらあの手榴弾が強力でも数個で破壊できるほどやわではない。それくらい彼だって理解しているはず。

 ならば一体何をしようというのだろう?


 エイスは白い手榴弾のピンを引き抜いた。

 すると、白い手榴弾から真っ白い煙が勢いよく放出され辺りは真っ白になった。


「うわ!なんだ!?

「なんの煙だ!?」


 突然発生した謎の煙に狼狽える砦の兵士たち。

 更にもう一つ、白い手榴弾のピンを引き抜き砦の中に放り込み更なる混乱を引き起こす。門内外の周辺は煙で一面真っ白になった。

 私もエイスの居場所を見失うまいと目を凝らす。幸いにも風向きは今私たちがいる森側から砦側に吹いているため彼の居場所を見失う事は無かった。


 そうしている間にエイスは次の手に移っていた。

 彼は本物の手榴弾の安全ピンを引くとそれを砦の前で爆発させた。


「今度は何だ!?」

「門の近くで爆発したぞ!」

「敵襲ー!敵襲だー!!」


 砦の中で慌ただしく声が響き渡る。

 今の煙と爆発を魔物の襲撃と勘違いしているのだろう。

 それと同時にエイスが戻ってくるとバイクに跨った。


「乗れ。いつでも出れるようにしろ」

「う、うん」


 その言葉に従いこれまで同様彼の後ろに座ってヘルメットをかぶり、彼の胴に手を回す。

 暫くすると門が開き中から20人程度の兵士たちが出てくると、先ほど手榴弾で爆発した位置に集まっていった。

 そこでようやく彼が何をしようとしているのか理解した。

 煙と爆発を使って魔獣が攻めてきたと錯覚させ、兵士たちを砦から外に出す。その際絶対に門を開けなければならない為、それに合わせて門を突破する。

 つまり、陽動というやつだ。

 しかし、


「……?」


 兵士たちが門から十分離れたにもかかわらずバイクは動き出そうとしない。

 顔を上げれば何故かエイスが後方の森の中を見ていた。


「どうしたの?」

「いや……何でもない。行くぞ、つかまっていろ」


 エイスが後ろに向けていた視線を前方に戻す。

 私は言われた通りに彼の背中にしがみついた。


 ブォン!!


 お腹の底に響くような重い音と共バイクが急発進し、森の茂みを抜け煙まみれな門を一直線に目指す。

 しかし、


「!?」


 門の中と外には何人か兵士がいたのだ。恐らく魔獣の侵入を警戒しているのだろう。

 兵士たちは私たちの進路を封鎖するように立ちふさがっており、このまま接近すれば視界が悪いとはいえ間違いなく発見され戦闘になるだろう。

 そうなれば人数の多い兵士たちの方が圧倒的に有利。


「人いるわよ!どうするの!?」

「黙っていろ」


 未だに前方を見据え視線を外さない。

 バイクは更に加速し門に接近すると、



 思いっきり兵士達を引いたのだった。



「えええええええええええええ!?」


 てっきりまた何か策があると思っていた私はまたもや素っ頓狂な叫びをあげてしまった。

 まさか無策で突っ込むとは。

 そのまま煙に紛れて門を突っ切る。


「ちょ、ちょっと!あれ大丈夫なの!?」

「さあな」

「さあなって……」

「俺の任務はお前を王都に連れ帰ることだ。それ以外のことなど気にしている余裕はない」

「そりゃそうだけど……」


 後ろを振り返れば引かれた兵士たちが他の兵士に助けを求めている。

 どうやら意識はあるようだ。


(うう……本当にごめんなさい……)


 私は心の中で精一杯の謝罪をするのだった。

入国(不法)

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