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第四話「さすがにそろそろ寒くなってきたわね……」

なんだかんだでこの小説を書き始めて一か月経ちました。

完結に向けて頑張って書くので、これからも読んでいただけると嬉しいです。

 魔物図鑑。

 文字通り魔物の習性や生息地等の情報を絵や図と共にまとめた図鑑。

 小さい頃城中の物語の本を読破した私が最初に手にした本がそれだ。

 ドキドキしながら城の書庫番に頼んで持ってきてもらった。

 大切に読んではいたが何度も読み返した為擦り切れてしまい暫く本の貸し出しを禁止されてしまったこともあった。

 だから分かる。ページも、内容も鮮明に覚えてる。

 魔物図鑑の15ページ。三体目


 ロックグリズリー。

 その名が示す通り、全身が岩石のような硬質な皮膚で覆われた熊の魔獣であり極めて獰猛。

 生息地は岩山かもしくは水のきれいな所。

 危険度としてはグランドスコーピオンより劣るがそれでも騎士数人がかりでようやく倒せる程強力で厄介な魔獣だ。


「なんでロックグリズリーが?」

「お前の声に反応して出てきたのかもしれん」

「悪かっ、……たわね」


 思わず大声を出しかけたがギリギリのところで小声に直す。

 ロックグリズリーは鼻を鳴らしながら辺りを嗅ぎ回っている。きっと岩陰に隠れた私達を探しているのだろう。

 すると傭兵が顔を近づけ小声でこう言ってきた。


「お前はもう一度水に浸かっていろ。出来るだけ音を立てずに」

「何でよ?」

「水の中にいれば少なくも匂いを消せる。俺がヤツを始末するまで大人しくしていろ」

「あ、ちょっと!?」


 そう言うと彼は岩陰を飛び出し、近くの木の影に隠れた。

 懐から直角に折れ曲がったような銀色の物体を取り出す。それは以前、グランドスコーピオンと戦った際に最初に使った武器だ。


 バン!バン!バン!


 あの時と同じ破裂音と共に魔獣に向かって発射された何かは堅牢な皮膚に阻まれ、少し傷をつけるだけに終わる。

 しかし、その音と、自身に襲い掛かった衝撃によって傭兵の位置はロックグリズリーに完全にバレてしまった。


「グゥウオオオオオオオオ!!」


 ようやく見つけた、と吠えながら獲物が隠れている木の陰に向かい突進する。

 かなりの速度で迫ってくるソレを傭兵はそれを激突する寸前まで引きつけてから横に飛び、回避した。

 ロックグリズリーは突進の勢いのまま傭兵の背後にあった木をなぎ倒して停止する。

 彼は素早くグリズリーの後ろに回り込み再び武器を放つが、またしても、岩の肌に防がれダメージを与えられない。

 そのまま後ろに下がりながら武器を放ち続ける。


「あいつ……一体何を……?」


 戦闘音に紛れながらなるべく音をたてないように静かに湖に肩まで浸かりつつ覗いているとその姿に違和感を感じた。

 短い付き合いだが、彼はとても合理的な性格だ。

 魔王の城から退避する時も武器が効かないとわかったらすぐ別の武器に切り替え、王国への帰り道もリスクから敢えて遠回りの道を選ぶ。

 常に最善を取る、それがアイツの筈だ。にもかかわらず効果の無い武器を使い続けている。

 もっと効果がありそうな武器を彼は持っているはずなのに。


「……まさか!」


 その時私は一つのことに気が付いた。

 傭兵がどんどん私のいる位置から遠ざかっていることに。


(あいつ……ロックグリズリーを私から遠ざけようとしてる)


 それなら合点がいく。今まで見てきた彼の武器武装はどれも強力だが一定の範囲を吹き飛ばしてしまう物ばかりだ。一歩間違えれば使った本人や周りの関係ない者たちまで巻き込まれかねない。

 傭兵はグリズリーの注意を引き、私が武器の影響範囲外に出てから仕留めるつもりなのだろう。

 その証拠にグリズリーは傭兵しか眼中に無いように唸り声をあげながら再び突進を行うもさっきと同じように躱された。

 そんな攻防を何回かやっているうちに徐々にだが私と彼らとの距離は離れていく。

 攻撃は通じていないが戦いの流れは完全に傭兵が握っていた。


(いける!)


 このまま上手くいけば距離を開けるだけではなく湖畔で突進を躱すことで湖に突き落とすことができる。

 ロックグリズリーは岩のごとき重量のせいで泳げないため、そうなればこっちの勝ちだ。

 すると、急にグリズリーが後ろ脚だけで立ち上がり、前脚を頭上へと掲げた。


(まずい!)


 私は知っている。なぜ魔物は魔物と呼ばれるのか。動物とどこが違うのか。それは魔物図鑑本編の1ページ目に書いてある。

 魔物が魔物である所以は単なる身体の大きさや見た目の違いだけでは無い。


 グリズリーは掲げた前脚を重力に任せ地面へと叩きつけた。


「避けて!!」


 叫ぶ私の声は轟音に掻き消された。

 瞬間グリズリーが叩きつけた地面から棘の様に尖った人間大サイズの無数の岩が突き出た。


 魔物は動物等の獣と違い魔法を使うことができる。

 遠くの敵を捉えたり。自らの気配を感じさせずに接近したり。体格の違う相手を打倒したり。その種類は千差万別。

 ロックグリズリーはその名の通り、岩石を操る魔法が使える。


 突き出た岩は一直線に目の前の獲物(傭兵)に向かう。

 傭兵は横に移動して避けようとするが、それを追うように岩々も横に曲がる。

 なおも棘岩から逃れようと傭兵が走力を上げようとした瞬間、彼の少し身体がブレたように見えた。


(え!?)


 一瞬のことでよく見えなかったが足を捻ったのだろうか。

 しかし、追尾する棘岩はその瞬間を見逃さない。

 そして、


 ドガッ!


 一際大きい岩が傭兵を捉え鈍い音と共に彼の身体が宙を舞う。

 そのまま地面に叩きつけられると傭兵はピクリとも動かなくなった。

 目の前で起こった事に再び叫びそうになるが、わずかに残った私の理性が口に手を当てさせることでそれを封じた。

 気を失っているのだろうか、頭からは真っ赤な血が流れ続ける。

 ロックグリズリーが勝利を噛み締めるかのようにゆっくり動かない獲物に近づいていく。

 

(どうしよう!?どうしよう!?このままじゃアイツが食べられちゃう!でも……)


 今、私が出ていったところで何ができることは、無い。

 彼以上に魔物相手に立ち回れる自信なんてない。こっちは今まで城下街より外にでた事なんて無い、護身術をちょっと齧ったくらいのただの小娘だ。

 だが、このままでは傭兵が食い殺されるのを黙って見ているしかなくなる。


(どうしよう!?どうしよう!?どうしよう!?どうしよう!?どうしよう!?)


 私の頭の中は完全にパニック状態だった。どうにもならない状況の板挟みに身体が硬直して動かない。

 しかし、そんな私に時は待ってくれない。グリズリーは傭兵の下にたどり着き、その鋭い牙のついている口を開く。

 思わず目を背けた。これから起こるの凄惨な光景を見たくはなかった。



「グガッ!!?」


 

 謎の悲鳴に視線を戻すと、そこには大きく開いたグリズリーの口内に右腕を突っ込む傭兵の姿があった。


 ピン!


 右腕と共に何かを口の中から引き抜くと同時に後ろへ飛ぶ。

 瞬間、


 ドドォン!!


 爆風、轟音と共に魔獣の口内が頭ごと吹き飛んだのだった。

今更ですがサブタイトルはその回の話に関係あるような無いような姫と傭兵の心情だったりします。

順番としては傭兵→姫→傭兵…の順となっております。

かなりどうでもいいですね

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