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第一話「ヘルメットの予備を用意しておくべきだった」

 私は本が大好きだ。

 物語が大好きだ。

 幼い頃、夜なかなか寝付けなかった私のために母様が読んでくれたのがその始まりで、内容は恐ろしい怪物に攫われたお姫様を白馬に乗った王子様が助け出すという至極普通のどこにでもある物語だった。

 でも、私はそのお話にとても惹かれてしまった。

 大好きになってしまった。

 いつか自分も囚われのお姫様になって素敵な殿方に助け出されたい、そう思うようになった。

 そして、念願かなって魔王とかいうやつに攫われて、晴れて囚われの姫になることが出来た。

 あとは王子様が助けに来るのを待つだけ。

 一体どんな方が来るのだろう?

 オーソドックスにカッコよくて優しい王子様かな?

 それとも力強く頼もしい騎士様?

 はたまた、伝承に聞く無双の力を持つ異世界の勇者様かしら?


 しかし、そんな甘い妄想は砂糖菓子の様に簡単にぶち壊された。


「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!?」


 魔王のお城の牢屋で壁と一緒にぶっ飛ばされ気を失った私を迎え入れたのは王子様の熱い抱擁ではなく冷たい突風の洗礼だった。

 どうやら私は騎馬の何倍もの速さあるの乗り物に乗せられ闇夜の荒野を疾走しているらしい。そのせいで顔面には高速で空気の壁が連打に身体は仰け反り、息をするのもやっとだ。

 目の前にはその乗り物を操る黒ずくめの人物がおり、私はその人物と紐のようなもので胴を縛られ離れられないようになっている。

 ちなみにそいつは姿勢を低くしているために後ろにいる私の顔に風が直撃しまくっている。


「ちょ、ちょまっばばばばばばああば!!いい息が!いきがでぎばばばば!!」


 濁流のような空気の流れにのまれそうになりながらも必死で黒ずくめの背中を何度も叩くとようやく乗り物を止め、久方ぶりに呼吸をすることが許された。


(し、死ぬかと思った……空気が美味しい……)


 ここまで空気が美味しく感じたのは生まれて初めてだろうか。

 黒ずくめは肩越しにこちらを振り向いたが、その頭には同じく漆黒を固めた様な武骨な兜の様な被り物をしており、その表情を確認することができない。

 底が見えない視線にお腹の奥が冷えたような感覚がする。

 もしかして怒らせてしまったのだろうか?

 そんなことを思っていると不意に黒ずくめが被り物を外した。


 まず最初に現れたのは夜の闇に溶け込む様な黒の髪。

 その下には刃物の様に鋭く相手を射殺さんとする三白眼。

 そして、私より数歳年上と思われるスッキリと整った顔立ち。

 それらが月明かりに照らされより幻想的な雰囲気を醸し出している。

 意外だ。

 私を牢屋の壁ごと吹き飛ばし、窒息寸前まで追い込んだ奴がこんなに――――


(カッ……カッコイイ!)


 思い描いていた王子様像に勝るとも劣らない男性だった。

 正直気がすむまでぶん殴ってやろうかと思ったけど、これかなら小一時間文句言うくらいで許しても――――


「被れ」

「へ?」


 男は抑揚のない声で、先ほどまで自分がつけていた被り物を私に押し付けてきた。


「早くしろ。でないと奴らに追いつかれる」

「え?」


 そう言って男が私の背後を指差す。

 その先にはもうもうと土煙を上げながら何かが迫ってきていた。


「え!な、何アレ!?」

「魔王の手下の魔物どもだ。お前がいなくなったのに気づいたな。取り戻そうと追いかけて来ている」


 魔王の手下達は目算で7000近くはいるだろうか。このまま追いつかれたら間違いなくタダでは済まないのは明らかだ。


「早くしろ」

「で、でも、これどうやって……」

「貸せ」

「ふぎゃ!!」


 男は無理やり私に被り物を被せた。兜の中は息苦しいものかと思ったが意外にも呼吸は楽で視界も良好だった。


「掴まれ」

「え、ええ!?ちょっとま……」


 そして、男は蔓の代わりに(バンド)の付いた眼鏡の様な物をかけると前を向き、乗り物の先端についている棒状の突起を両手で掴み、右手の突起を捻って再び走らせ始めた。

 被り物を付けた事と男に抱きつく形で掴まったことによって前傾姿勢になり空気の壁によって仰け反ることはなくなった。

 だが、それよりも……


(ふおおおおおおおおおお!!男の人の背中ああああああ!!)


 広い!!おっきい!!

 父様以外の男性に触れるのは初めてな上にそれがあんなイケメンとくればテンションが上がるのも必然だった。

 だか、その感覚もゆっくり味わっている暇はなかった。

 背後から聞こえてくる地鳴りが大きくなってくる。

 後ろを振り向けば、すぐそこまで魔王の手下達が迫ってきていた。


「うぇえええ!?は、速く速く!!追いつかれるわよ!!」

「いや、ここまでだ」


 その瞬間、手下達の足元が紅蓮の光と共に、爆ぜた。


 ドグォォオオオオオオン!!!


「のわああああああああああ!?」


 背後から襲いかかる爆風に私達は飛ばされかけたが男が巧みに体勢を整えてなんとか堪えると、一拍遅れて上空から爆散された手下達の手やら足やらの肉塊が降り注いでくる。

 男は乗り物を止め、背後を振り返る。私もそれに習って後ろを向くとそこにはまるで地割れの様な大地の裂け目と気色悪い色の液体、無残に散らばった魔王の手下達"だった"ものが散らばっており息のある者は一体もいなかった。


「すごい……全部やっつけちゃった……」

 

 私の国には屈強な騎士達が多くいるがあれだけの魔物達を一瞬で、しかも、1人で全滅させる力を持った者は聞いたことがない。

 もしや、これが伝説に聞く無双の力を持った異世界の勇者……?


「いや、まだだ」


 男はそう言うと突然乗り物急発進させた。


「ちょちょ!一体どうしたのよ!?」

「黙って掴まっていろ」


 次の瞬間、今度は私達の足元が爆発した。


「のええええええええ!?」


 一瞬、乗り物ごと浮きかけたけたが、男はなんとか着地し体勢を立て直した。


「い、一体何が――――」


 肩越しに背後を確認するとそこにはさっきまで存在しなかった巨大な穴と立ち上る土埃の中に巨大な影が見えた。


「あ、あれは!!」


 巨大な二振りのハサミと先端が槍の様になっている長大な尻尾。そして、その身体を覆う灰色の甲殻と多くの足。地中を自在にに動き回るモノ、その名は――――


「グランドスコーピオン!!!」


 乾燥した地域に生息するサソリのような魔物。

 先ほどまで追いかけてきた魔物達とは比較にならない身体――――成人男性のおよそ3倍ほどもある巨体をほこるソレは熟練の騎士が30人以上投入して漸く討伐できると言われるほど。

 以前魔物の図鑑を読んだ事があったため知識としては知っていたが初めて見る実物は想像を遥かに超えた威圧感と恐怖を感じさせた。

 グランドスコーピオンは勢いはすさまじく私達の乗り物との距離を徐々に詰めつつあった。


「逃げて!もっと速く!!」

「言われずともわかっている」


 更に速度を上げようとしたがそれと同時にスコーピオンの尖った尻尾が私達の眼前に飛んできた。

 男は乗り物のを器用に操作し間一髪で躱すが、その直後私達の両側にハサミの連撃が降ってくる。


「ちょ、ちょええええ!!」

「少し黙っていろ」


 男はハサミに加え尻尾の攻撃をまるで後ろに目が付いているかのように躱していく。

 そして、懐から何か取り出すとそれを背後にいるグランドスコーピオンに向けた。


 バン!バン!バン!


 3度の破裂音とともに何かが発射されたが甲殻に弾かれて傷一つつけることが出来なかった。


「これではダメか」


 そう呟き再び懐に武器を戻すと今度は拳大の金属の塊のを取り出し、その上部から出ているピンを引き抜いて投げつけた。


 ドォン!

 

 「キシャアアアアアアアア!?」


 身体の芯に響くような爆発音とスコーピオンの悲鳴が響く。

 爆発を受けた魔物の甲殻は一部がひしゃげているがそれでも速度を緩めない。

 どうやらこれも決定打になりそうになかった。


「倒せない!?そうだ!さっきの手下達を倒した爆発!あれ、もう一度使えないの!?」

「無理だ。あれは仕込みに時間がかかる」

「そんな!それじゃもう打つ手なしなの!?」

「そうでもない」

 

 そういうと、男は今さっき投げた金属の塊を3つほど懐から取り出すとそれをグランドスコーピオンの足元に投げ込んだ。


 ドドドォン!


「ジュギャアアアアアア!!」


 足元で三つの爆発を受けたスコーピオンは体勢を崩した。

 その瞬間、男は乗り物を反転させ魔物に向き合い、乗り物の側面に備え付けられていた筒状の物体を担ぎ上げる。

 奇しくもそれは魔王の牢屋で気を失う寸前に見たモノと酷似していた。

 男は筒の先をグランドスコーピオンに向ける。


「耳を塞いで、頭を下げろ」


 抑揚の無い男の言葉に途轍もない何かが来る事を予感し、両手で耳を塞ぎ限界まで身体を屈めると、破裂音と共に先端からまた黒い円筒状の物体が飛び出してきた。

 そして、それはスコーピオンに向かって直進すると――――


 ドグォオオオオオオオン!!


 直撃と同時に金属塊とは比較にならないほどの音、風、熱がサソリの化け物を中心に吹き荒れる

 そして、大量の砂礫を巻きあげたその爆発の中からは立ち上がってくるものはいなかった。

一話目になります。最長でも週に一話のペースで投稿していきたいと思います。

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