表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/21

第十話「これが深夜のテンションってやつなのね」

「んー、んーー!」


 路地裏に引き込んだのはいかにもガラの悪そうな二人の男だった。

 彼らは私の口を封じると羽交い締めにする。


「よし、うまくいった!!さすがアニキだぜ!」

「へへ、こいつは中々の上玉だ!娼館に売ったら暫くは遊んで暮らせそうだな!」


 耳元で響く下品な笑い声が耳朶に響く。話し声の内容からして恐らく人攫いの類いだろう。 なんとか拘束を脱しようと抵抗するが大人の男二人と15の女の子では腕力の差は歴然だ。

 ならば魔法を、と思ったが口が塞がれているせいで使えない。魔法を使うには詠唱を声に出さなければならないからだ。

 そうこうしている内に更に路地裏の奥に引きずり込まれていく。


「んーー!!」


 ならばと通りにいるエイスに伝えようと必死に暴れる。周りの状況に敏感なエイスならきっと気づいてくれるはず。しかし、どれだけ抵抗しようとエイスは現れず拘束を強めるだけだった。


「大人しくしてやがれ!どうせ何やったって無駄だ」

「そうだ!この裏路地にゃ人の気配を無効化する魔法がかけてあんだ。どんだけ叫ぼうが誰もこの路地にゃ気づかねえし来やしねえよ!」

(気配無効化の魔法!?)


 エイスが気づかないのはそのせいか!

 いかにエイスが強くとも魔法を使われては気づくのは至難の業だろう。この世界に来て日が浅いならなおのことだ。


「へへへ、なあアニキ。こんな上玉そうそういねえからよ……」

「ケ、つまみぐいかよ。まあ、お前の気持ちは分からんでもねえ。その代わり、俺が先だからな!」


 背筋がゾッとした。

 子分の方が私を羽交い締めにすると、アニキと呼ばれた方が私のスカートの端を掴む。


「んーーー!!んんーー!!」

「暴れるんじゃねえっつてんだろうがよ!」


 唯一自由な両足をばたつかせて何度目かの抵抗をする。

 すると、後ろの子分が首筋にナイフを突きつけてきた。


「おい、これ次騒いだら……分かってんだろうな」

「これ以上アニキのお楽しみの邪魔すんじゃねえよ!」


 もう動けなかった。恐怖でいっぱいになった頭はまともな判断をくれなかった。

 スカートが徐々に捲られていくのと一緒に目に溜まった涙で視界がぼやけていく。

 そして、スカートが最後まで捲られた瞬間、



 鈍い音と共に男の頭が路地の壁に叩き付けられた。


(え……)


 捲られたスカートが落ちる。そこには涙でぼやけた視界に月のない夜を切り取ったかのような真っ黒い人影がーーエイスが立っていた。


「だ、誰ーー」


 私を拘束していた子分はその言葉を言い終える前に路地奥に吹っ飛んでいった。

 早すぎて何も見えなかったが子分の顔面に拳の痕がくっきりのこっていたことから殴られたのだろう。

 私はその光景を呆然と眺めているだけだった。


「……大丈夫か」

「え、あ、うん」


 彼に声をかけられてようやく正気に戻る。

 それと同時に今さっきのことが思い出され、身体の芯が思わず寒くなる。

 

(ダメかと思った)


 エイスが来てくれなければどうなっていたか。想像するだけで身体の奥から震えてくる。


「本当に大丈夫か」

「え」


 いつの間にか俯いていた顔を上げると、そこにはで目線を合わせるようにしゃがんだエイスの顔があった。

 それと同時にエイスが助けに来てくれた時の事ーー絶望で心が埋まった瞬間に助けに入ってくれた彼の姿が頭をよぎる。

 その瞬間、身体が一気に沸騰したように身体が熱くなった。

 心臓が冷え切っていた身体の芯を一瞬で溶かすようにバクバクと早鐘を打つ。

 顔に手を当てればこれまでに無いほどに熱かった。

 きっと今私の顔は見事に真っ赤なのだろう。


「どうした。震えたかと思えば顔を赤くして」

「え、あ!なんでもない!何だでもないの!だ、だいじょうびゅ!そそそう、ちょっと驚いてね!!」


 噛みまくりながら後ろを向いてごまかしてしまった。

 だが、しょうがないのだ今彼の顔を見てしまうと今度は顔から火が出てしまうだろう。そのくらい今私の顔は熱いのだ。

 心臓の早鐘と顔の火照りを抑えようと必死になっていると路地の左右の通路から幾人かの人の気配を感じた。

 

「おいおい何やってんだよテメーら」

「人の仲間に随分なことしてくれたじゃねーか」


 顔を上げるとそこには明らかにガラの悪そうな男が何人も立っていた。

 彼らの言ったことからしてどうやら人攫いの仲間なのだろう。

 後ろを振り向けばエイスの背後にも同じような男達が退路を塞ぐように立っていた。


(しまった!)


 囲まれてしまった。

 男達は下卑た笑みを浮かべながら徐々に近づいてくる。

 この狭い路地裏でこれだけの人数を相手に立ち回るのは難しいだろう。

 すると、突然視界がブレると同時に持ち上がった。

 横を見ればそこにはエイスの顔がある。


「行くぞ」 

「うえ!?」


 エイスは助走を付けると地面を蹴り上げ飛び上がる。そして、そのまま真正面にいる男の顔面を踏みつけ囲いを突破したのだった。


「て、てめえ!」

「待ちやがれ!」


 後方から男達が怒気を散らしながら追いかけてくる。


「掴まっていろ」

「え、ちょちょっと」


 言葉短く言うと彼は路地裏を走り出した。

 左腕は両膝下に。

 右腕は背中に。

 両腕で抱えられたこの状況は、そう、


(お姫様だっこ!!)


 そう、それは今まで私が夢にまで見てきたシチュエーションの一つだった。

 おまけに再びエイスの顔が急接近することで収まりかけてた心臓の鼓動がより激しくなっていく。

 息がかかる距離にエイスの顔がある。そう自覚しただけで猛烈に顔が熱くなり、自然と息を止めてしまう。

 きっと第三者が知ったら随分と暢気な事を考えているものだと思うだろうがこっちはそれどころじゃないのだ。

 バクバクバクバク

 まるで火山の噴火のように高鳴る胸の鼓動を抑えようと必死になっているとある事に気がついた。

 トクトクトクトク

 私の左腕伝いに彼の胸から同じ早さの鼓動が感じられた。

 彼は私を抱えて走っているのだから必然的に体力を多く消耗し、息が切れを起こし鼓動が早くなってもおかしくない。

 しかし、視線を上げた先のエイスの顔には一切の息切れは見られなかった。

 

(なら、この鼓動の早さは一体……?)


 その疑問が頭の中を支配しようとした瞬間、


「そこまでだ!」


 路地の前方から多くの人攫いの集団が押し寄せてきた。恐らく回り込まれたのだろう。

 エイスが急停止し後方を見ると同じように別の集団が追ってきた。

 今私たちのいる道は前後にしか伸びていない。前方にも後方にも多くの人攫い達が押し寄せておりさっきと同じように飛び越えることはできそうになかった。

 そんなとき視線を前に向けたままエイスが口を開く。


「両腕を首にまわせ」

「え?」

「両腕を俺の首にまわしてしっかり掴まれ」

「えええ!?」


 そんなことすれば更にエイスと密着してしまう。

 今この状態(お姫様だっこ)ですら張り裂けそうなほど高鳴っている心臓は今度こそ爆発してしまうだろう。

 そうこうしている内に男達はじりじりと距離を詰めてくる。


「早くしろ」

「ううぅ……わかったわよ!」


 意を決して彼の首に抱きつく形で腕をまわす。それと同時に一気に彼の顔が近づいた。

 整った鼻筋に切れ長の目、黒鳥の濡れ羽根のように綺麗な髪が嘗てないほどドアップで視界に入ってくる。


(もう……ダメ!)


 これ以上直視していたら気を失ってしまう。そう思い目を閉じようとした瞬間、視界の右端ーー私が抱きついたことで空いたエイスの右腕ーーから何か細長いものが発射されるのが見えた。

 それは私たちが今いる場所から少し離れたところにある建物の壁に突き刺さる。


「行くぞ」


 抑揚のない声のまま彼は走り出す。


「同じのが二度も通じるかよお!」


 先頭の男数人が手に持った角材を振り下ろす。

 しかし、それはエイスによって軽々躱され空を切った。

 エイスはそのうち地面に振り下ろされた角材を足場に駆け上がるとまたしても男達の顔面を踏み台に跳躍する。

 だがそれでも飛距離が足りない。このままでは奴らの群れのど真ん中に墜落してしまう。

 もうダメだと、今度こそ目をつぶった瞬間、急速に巻き取る音とともに急速に上空へ引っ張り上げられる。


「う、うぇあああああ!?」


 そのまま屋根の上まで飛び上がる。

 一瞬、浮遊感を感じたが直後エイスが私を抱えたまま屋根の上に着地した。

 屋根の下では男達が喚いでいるが何とか私達は包囲網を突破したのだった。

 安堵して首から手を離そうとするとエイスはそのまま私を抱えて屋根の上を移動し始めた。


「え、ちょちょっと」

「少し移動する」


 私たちがいる場所はお祭りの中心地から離れており、人通りの少ない路地ばかりで人目は少ない。

 だが、屋根の上はなだらかな傾斜になっているものもあれば、急な角度をしているものもあったがエイスは平坦な道を歩くのと変わらずに歩いて行く。

 私が降りて歩いてもこうは行かないだろう。

 だがそれでも高い視線と不安定な足場のせいで怖い事には変わりない。

 思わず彼のコートの襟を掴むと、少しだけ歩くスピードが速くなった気がした。



 その後、いくつかの家の屋根を渡り平らな家の屋根にたどり着く。そこでようやく彼は私を下ろしてくれた。


「ふぇ……」


 気の抜けた声と共に彼の腕から降りる。

 相変わらず胸はこれまで感じたことないような鼓動をあげている。

 初めは恐怖からくるものだとばかり思っていたがそれとも違う。それならばここまで顔が熱くなるわけがない。

 ちらりと、横目を向ければ辺りを見渡しているエイスが視界に入ると途端に心臓が爆音をかき鳴らした。


(無理、なんか無理!)


 自分は一体どうしてしまったんだろう。

 昨日まで、いや、男達に路地裏に引きずり込まれた時まではなんともなかったはずなのに……。


「おい」

「ひゃい!」

「さっきの男達は何だ」

「え……ああ、アレのこと。多分人攫いね。こういうお祭りとかの盛り上がりに紛れて人を攫っては売り捌いてるって前に聞いたことがあるわ」


 まさかその被害に遭うとは夢にも思わなかったが。


「そうか。それともう一度聞くが、本当に大丈夫か?」

「だ、大丈夫よ。あんたが助けてくれたから怪我もないし。それより、あんたの方こそ良く私があそこにいるって分かったわね」


 男達が言うにはあの路地には路地自体の気配を消す魔法がかかっていたはずだ。

 おまけにあれだけの仲間が活動していて、未だに街の憲兵達に捕まってないということはあの路地にかけられていた魔法は相当強力なもののはず。

 実際に私だって奴らに腕を掴まれるまで路地の存在に気づかなかったくらいだ。


「……お前の声が聞こえた。その方向に行ったらお前がいた。それだけだ」

「そ、そうなんだ。ありがとう……」


 彼に背を向けたままお礼を言う。

 特に意味は無いはずなのに何故だかそれがとても嬉しく感じてしまう。

 もしや、これが噂に聞く……、

 とそこまで考えたところで頭を振った。


(いやいやいや、それは無い。無いって!まあ顔は良いけど、あんな無愛想で無神経でなヤツ……でも、もし……)

 

 自分の中にある理性がそう決めつける。そう、これはきっと風邪のようなものだと。

 だが、それでも心の底から溢れてくるこの感情に合う単語は一つしか無かった。

 それきり何を言ったらいいか分からず黙り込んでしまった。

 彼もそれっきり何も言い出さずしばしの沈黙が流れる。

 このままではいけないと思って振り返り、会話の糸口として先ほどから気になっていた事を聞いてみることにした。

  

「あのさ、さっき路地から抜け出すとき何を使ったの?」


 路地で囲まれた際彼の右手から紐のような物が発射されたかと思ったら急に上に引っ張りあげられた。

 アレも異世界の武装なのだろうか。


「これを使った」


 エイスは自分のコートの右手首を捲ってみせる。そこにはなにやら金属質のものが黒く細長い紐と共に装備されていた。


「これはフックショットという武装だ。ワイヤー……この細長い紐を打ち出し、壁や木などに突き立て高速で巻き取ることで素早く空中を移動できる。魔王の城でお前が捕まっていた部屋まで行くのにも使った」


 なるほどと心の中で呟く。

 魔王の城で私は最上階付近の牢屋に囚われていた。かなりの高さがあったにも関わらずどうやって私の牢屋にたどり着いたのか疑問に思っていたがこれでスッキリした。

 

「すまない……」


 すると突然彼が謝罪の言葉を口にした。


「え、何が?」

「いや……俺はお前の護衛の任を受けていた。それにもかかわらず一時とはいえお前を見失ってしまい……その、嫌な思いをさせてしまった……と思ってな」


 意外だった。気遣いという言葉からほど遠いと思っていた彼の口からそんな言葉が出てきたことに。

 その言葉に胸の鼓動がまた熱を持ち始める。


「だ、大丈夫よ。確かにあのときは怖かったけどちゃんとアンタが助けてくれたし。それに、元はといえばお祭り行きたいとか本買ってくれとかワガママ言った私が悪いわけだから、謝んなきゃいけないのはむしろ私の方だし……」


 再び変な沈黙が流れる。

 だが、これだけは言わなくてはいけない。


「えーっと、つまり私は気にしてないから!あんたも気にしなくていいから!」

「だが……」

「いいの!私も悪いんだから、お相子って事でいいの!」

「……わかった」


 若干無理矢理臭いが彼も了承してくれたみたいだしまあいいだろう。


「俺もお前に聞きたいことがある」


 今度はエイスの方から質問が飛んできた。

 彼の方から何か尋ねてくるのは思えば結構珍しいことだ。


「何?」

「……お前は本当に王族なのかと思ってな」

「なによそれ。私そんなにお姫様に見えないの?」


 心外だ。

 私は国王である父様と王妃の母様から生まれた由緒正しいお姫様(プリンセス)だ。しっかり王族としての教養は一通り済ませてもいる。


「そういうわけではない。ただ……俺の知っている王族という連中は……お前ほど世俗に詳しくはなかったからな」

「ああ、そういうこと」


 確かに私のように変装まがいなことまでして一般人に混ざってお祭りに参加しようなんてことする王族はきっと珍しいのだろう。

 だがそれにはウチの一族独自の教育方針のようなものがあったからでもある。


私の一族(ウチ)には代々『民あってこその国であり王である』っていう家訓みたいな決まりがあるの。臣民の生活無くして王も国もない、みたいな考え方があって市井の暮らしを知るために王族は小さい頃から王都の城下町に出て民との交流をするように言われてるの」


 私の場合は本屋巡りので城下に行きすぎた為に母様から何度も怒られたけど。

 しかしそんな私にも城下町の皆は良くしてくれたし、同年代の子供達とは小さい頃から良く遊んだりもした。そんなこともあって私自身はその家訓は好きだった。だが、あまり物怖じしない性格になったとも言われるようになったが。


「なるほど、そういうことか。……もう一つお前に聞きたいことがある」

「いいわよ、私に答えられることならなんでも聞いて!」


 向こうからこんなに尋ねられる事は初めてだ。

 これまでいっぱい助けられたのだからせめて答えられることは答えてあげたい。


「……『恋』とは、どういうものだ」

「ふぇ?……え、えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!?」


 完全に気が抜けていた。全くのノーガードだった。正面から絶対に攻撃が来ると聞いて盾を構えていたら真横から石をぶつけられた様なそんな気分だった。

 だからこんな気の抜けた声の後に今日一番の叫びが出たのだろう。


「どうした」

「い、いやなんでもないなんでもないの!ただなんでそんなこと聞きたいのかな~って思ってさ」

「先ほど露店で買った小説をその場で読んでみたのだが、どうにもその単語だけが理解できなくてな」


 そういえば本を買い取った際にパラパラ捲っていた気がする。まさか、あれだけで読み終わってしまったのだろうか。何という速読力。


「そうだったんだ」

「それで、恋とはどんなものなのだ」


 その単語は今の自分にはあまりにもタイムリーすぎた。

 だが、あんなこと言っ手前答えない訳にはいかない。

 私は一回深呼吸をしてから口を開いた。


「そ、そうね……え~っとまあまず……そうね、こう、特定の人のことが気になってしょうがなくなったり、その人の……ことを大切にしたいと思ったり……一緒にいたりすると……その……ドキドキしたり……する気持ちの事を……………恋……………っとか言ったりする……感じねたぶん」


 随分途切れ途切れだったがなんとか言い切った。今日の自分に喝采を送りたい。

 こんなに恥ずかしい思いしたのは生まれて初めてだ。

 思わず両手で顔を覆う。自分の顔が見られるのならきっと頭から湯気が出ているに違いない。そう思うぐらいに熱かった。

 正直恋なんてこれまでの人生で一度もしたことが無かったせいで完全に恋愛小説の受け売りでしかないがこんなところだろうか。

 彼はどんな表情をしているのだろう。そう思っていると、


「……そうか」


 消え入りそうなほどの小声が風に乗って聞こえてきた。

 少しうつむいているのと辺りが暗くなりだしている為に彼がどんな表情をしているのかはわからないがその声音が少しいつもの違う様な気がしたのは気のせいなのだろうか。

 ん?暗くなってる?

 視線を上げて見るとついさっきまで空で空で輝いていた太陽は街の西にある山に沈みかけていた。


「え!もう夕方なの!?」

「気づかなかったのか」


 この街の西方には山がありこの今はその山の方角に太陽が沈む。そのせいでこの時期のこの街は昼の時間が少なく、夜の時間が長いのである。

 着替えをしてお祭りに繰り出してからそんなに時間が立ってないと思っていたが屋台をまわったり、人攫いに追っかけられたりしてそのことをすっかり忘れていた。


「まだ行きたかったところ……いっぱいあったのに……」


 ほぼ暮れかけの夕日に彩られた屋根の上で絶望する一国の姫。なんともシュールである。


「あ、蝋燭と紙袋!」


 このお祭りの最大の目玉にして最後を飾る「星送り」。それに必要な蝋燭と紙袋を買うのすら忘れていたことに今更気づいた。

 今から買いに行ったところでもうどこも売り切れだろう。

 自分の迂闊さに徹底的に打ちのめされていたところ、


「それなら買ったぞ」

「マジで!?」


 振り返るとエイスは先ほど買った「アルケイム」と一緒に紙袋と蝋燭を取り出した。どうやら屋台で一緒に買っていたようだ。

 

「お~!ありがとエイス!」


 私がそれらを受け取りながらお礼を言うと今度はエイスが明後日の方を向いた。

 何だか今日一日禄に彼と顔を合わせていない気がする。

 そんなやりとりをしている内にすっかり日が暮れてしまった。祭りは既に終盤にさしかかっており、街中の広場や大通りなど至る所で蝋燭の火が灯されているのが見える。


「さ、私たちもやるわよ!」


 このままボーッとしていたら星送りに間に合わなくなってしまう。私はエイスに声をかけ準備に取りかかった。といってもやる事なんてせいぜい紙袋に紐で蝋燭を吊すくらいだからすぐ終わるのだが。

 魔法で蝋燭に火をつける。紙袋の中で淡い光が灯るとそのままゆっくり空に浮かび上がっていった。

 その光から視線を戻すとそこには、



 まるで澄んだ日の夜の星空のような灯火が街中から上がっていた。


「うわぁ……」


 思わず感嘆の声を漏らし、鳥肌が立ってしまう。それほどにこの光景は綺麗だった。

 私たちがいる建物は他の建物より背が高いため視界を遮るものは何も無くまさに絶好のポイントだった。

 しかし、何故だかこの景色には見覚えがあった。


「もしかして、ここって!」

「お前の城にあったこの祭りの絵画、それを描いた場所……正確にはそれと思しき場所だ」


 そうだ。どこかで見たことがある光景だと思ったらソレだ。


「でも、アンタこの祭りのこと知らないって」

「あの絵は王城で一度見たことがあったがこの祭りを描いた物だとは思わなかった。それと任務遂行に関係の無い事柄とだと思っていた為にあまり気にとめていなかった」

「そうなんだ……でもどうやってこの場所がわかったの?」

「服屋の店主や祭りの露天商に聞き、露店を周りながら街の形を見て大まかな当たりを付け、ここまで来た」


 私がお祭りにはしゃいでた時にそんなことまでしていたとは思わなかった。

 それと同時に一つの疑問が思い浮かぶ。


「ねえ……なんでそこまでしてくれるの?」


 エイスは私が頭の怪我を治したそのお礼だと言った。だからこの街のお祭りに立ち寄ることを許してくれた。

 だがしかし、ここまでしてくれるとは思わなかった。それが嬉しくもあり、同時に謎でもある。

 彼は任務に忠実で合理的な人間だと思っていた。それ故に何故これほど私の都合に付き合ってくれるのかその理由が知りたい。


「……」


 しばしの沈黙の後彼はその鉄仮面の口を開いた。


「刺激……」

「え?」

「お前は『生きるには刺激が必要』と言った。俺は今までそういう物とは無縁で生きてきたから、俺もお前の言う刺激というのを経験してみようと思った……からだ」

「そうだったんだ」


 北の森でそうは言ったがまさか実践してくるとは思わなかった。


「それでどうだった?良い刺激になった?」

「……まだわからん」

「そっか……」

(さすがにすぐにはわからないか)


 彼がそう言った事柄に縁遠い生活をしてきただろう事は傭兵という職業と北の森での出来事以降なんとなく想像がついた。

 そうすぐ理解できる物でも無いと思いつつ、それでもいつかそれを理解できる日が来てほしいと心の中で思った。


「もう一つ……聞きたいことがあった」

「ん?なに?」

「お前の読んでいるその小説、それはお前の王国で生まれた物なのか」


 そう言って私が持っている『アルケイム』を指さしてくる。


「そうだけど、それがどうかしたの?」

「いや、少し気になっただけだ」


 しかしそれでも彼の視線はアルケイムに向いたままだった。

 そのわずかな仕草から私はあることに気づいた。


「ははーん、エイス。アンタもしかしてアルケイム(これ)が気になるんでしょ!」

「いや、そういう訳では……」

「いいのよいいのよ!気になったんなら私が教えてあげるから!この話は大昔にウチの王国に伝わる伝説がが元になってできた話でね、それによると主人公の青年はこの世界に初めて召喚された異世界人って言われててね!それでね!……しかも最近の調査でその伝説は……」


 その後、私の話は周りの灯火が消え、空が明るくなっても続いたのだった。

本文長くなってしまいすいません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ