第九話「味は濃いが、不思議と止まらない」
北の国に侵入してから数日が経過した。
国境を越える際に使った煙幕に紛れて突破したおかげで私達を追跡する者はおらず、現在王国に帰還するための道を順調に辿っている最中だった。
そんなある夜、エイスから現在地を教えてもらおうと地図を見せてもらっていた時のことだった。
「ん?……あーー!!」
「どうした」
焚火の明かりに照らされた地図の中。今の位置からすぐ近くにあるソレを見つけてしまった。
「ここ『星送りの里』じゃない!」
「何だそれは」
「知らないの!?」
「知るわけないだろう」
「あ、そうだった。ごめん……」
そういえば彼はつい最近この世界に来たばかりの異世界人だった。
「えっとね、この村は立地の関係で年に一度夜がとっても長い日があるの。その長い夜を不安なく過ごすために、紙袋に蝋燭を吊り下げて夜空に飛ばして村全体を明るくしようっていうお祭りをすることになったの。その様子が空に星を送っているように見えるから『星送り』って呼ばれるようになってそのまま村の名前になったそうよ」
「ほう」
「それでね!星送りの光景はすっごいのよ!いろんな色んな絵画や物語に出てくるぐらい綺麗で有名なんだから!!ウチの城にも一つ『星送り』の絵が飾られててね、それが本当に素敵でね!」
王国の城にはとある有名な画家が描いた星送りの絵が飾られている。それだけでなくこれまで読んできた物語の中に何度も登場し、その度に私の心を魅了してきた特別な存在だ。
その村がすぐ近くにある。しかも、時期的にそろそろ星送りの季節のはず。
こんなチャンス逃す手はない!
物は試し、と彼に頼んでみようとしたところ、
「なら、寄ってみるか」
「え!?いいの!!?」
まさかのまさかだった。
先を急ぐ旅だからてっきりダメだと思っていたから意外だった。
「お前には頭の傷を治してもらたったからな……」
「ホント!?ありがとう!!」
思わず身を乗り出してしまい、エイスと顔が近くなってしまった。
一気に近づいたことによる恥ずかしさから顔を逸らしてしまう。
「あ、ご、ごめん」
「……いや」
見ると彼も顔を逸らしていた。
翌日、私たちは早速星降りの村に向けて出発した。
といっても、現在地からそれ程離れていないためすぐ到着したのだが。
恐らく、帰還のルートからもあまり離れていないから彼もこの寄り道を了承してくれたのだろう。
「ここが、あの『星送りの里』なのね!」
バイクから降りて見渡す先には村というには大きすぎる集落だった。
住居はほとんどが石造りの二階建てであり、その間を行き来する人々は多い。今が祭りの最盛期だということを差し引いたとしても『村』というよりも『街』といった方がしっくりくるほどの発展具合だ。
バイクを村の外れの茂みに止めて村に入ろうとしたときあることに気がついた。
「ねえ、バイクこんなところに止めておいて盗まれたりしないかな?」
「問題ない。このバイクは俺の生体認証ーー指紋等の身体情報を感知することで動くようになっている。それでも無理矢理動かそうとすれば、電流が流れる仕組みなっている」
思いの外防犯面はしっかりしているらしい。
それにしても電流まで流すとは……
(迂闊に触らないでよかった)
前々から少し触ってみようかと思っていたので少し肝が冷えた。
村に入ってみるとその活気がさらによくわかった。
大きな通りにそって様々な露店が建ち並び、その中では雑貨や食べ物等の様々なものが売られており、その間を多くの人々が行き来している。
村の中央からは飛び出るように大きな櫓が組まれておりそのてっぺんではまだ暗くなっていないのに煌々と輝く炎が掲げられていた。
早速露店や名所を見て回ろうーーと思ったがその前にやらなければならないことがある。
最初に訪れたのは服飾店だった。
私たちーーむしろ私がしなければならない事。
それは着替えだ。
私は魔王に攫われた時から今日までずっとお城で着ているようなドレス姿だった。
エイスの着ている黒いロングコートは、見ようによってはローブにも見えるのでフードを被ればごまかせるが私はそうはいかない。
このままの姿で村をうろつけば間違いなく目立ってしまう。目立ってしまえば面倒ごとに巻き込まれ、王都に帰還することが難しくなってしまう。それに先日国境を無理矢理突破したこともある。まだこの辺りに伝わっていないだろうが万が一ということもある。
兎にも角にも目立ってしまう格好は避けるべきだった。
「いらっしゃい」
お店に入ると出迎えてくれたのは人の良さそうな初老の女性だった。
「あら、どこかの貴族様かしら?男前な護衛つれて!」
「いや、貴族って訳じゃ……」
「余計な詮索は止めてもらおう。こいつに服を見繕ってくれ」
「はいはい。それじゃお嬢ちゃん、こっちいらっしゃい」
エイスの物言いを軽く受け流したおばあさんに私はいくつか服を見せてもらい、その中の一つを買うことにした。
私が選んだのはゆったりとした白いバンダナとブラウス、真っ青な胴衣とスカート、腰には左前に結び目のついた少し淡い色のエプロンを腰に巻いた服であった。
先ほど街中を覗いたときこの服と似たような格好をした女性たちが多くいた。それ故この服ならば人混みでも目立たずにすむと思い選んだのだ。
それと結構かわいいし。
店の奥にある試着室を借りて着替えを済ませ取り付けてある姿見を見る。
自分で言うのも何だが中々似合っていた。
(ついでに髪も頭の右側に一つにまとめれば完璧ね)
髪を結って試着室を出ると、エイスが会計をしていた。
私の方に視線を向けてきた彼に全身を見せるために一回まわってみる。
「ど、どう?」
するといきなりこちらに背を向けた。
「……悪くない」
「ちょっとちょっと、せっかくこの子が選んだのに他に言うことないのかい!?」
「あー、大丈夫大丈夫なんとなく予想はついてたから……」
「……」
エイスはおばあさんの言うことには答えずに淡々と会計を済した。
ちなみにこれまで私が着ていたドレスは服飾屋に買い取ってもらった。エイスは王であるお父様からそれなりの路銀を貰っているので金銭面では特に問題はないのだが持っていても荷物になるので私の身分を証明するための装飾品を残してお金にしてもらったのだ。
買い取りも済み、念の為おばあさんに口止め料として幾らか握らせた後店を出た私たちはようやくお祭りへ繰り出した。
「わあ、すっごい賑わってるわね!」
焼き串や砂糖菓子、果汁を搾った飲み物、アクセサリーといった出店から大道芸や踊りで人々を楽しませる芸能の一座、それを楽しむ人々で街中はあふれていた。
「ねえ、あのお店行ってみましょう!」
香ばしいにおいに誘われて訪れたのは芋を細長く切ったのものを油で揚げ、塩をまぶしたものを売っている店だった。
「すいませーん。これ二つください」
「はいよ!」
元気よく返事した店員はすぐに紙袋に揚げた芋を詰めて渡してきたのでこちらも代金を渡す。
早速一本口に入れてみると、最初に感じたのはサクサクとしたの食感。この軽い食感はクセになってしまいそうだ。次に感じたのは、濃い塩の味。これほどの濃い味ものは今まで食べたこがない。しかし、それも不快ではない。むしろ先の食感と併せてやみつきになってしまうほどだ。
隣ではコートのフードを被ったエイスが渡された袋を眺めていた。
「どうしたのよ、食べないの?」
「俺には必要ない」
「何言ってんのよ、こう言う美味しいものは一人で食べたってしょうがないの」
「どういうことだ」
「どうもこうも、美味しいもの一人で食べたって寂しいだけよ。皆で食べればその分だけ幸せな気持ちを共有できるじゃない」
私がそう言うとエイスは少し揚げ芋を眺めてから一本口に放り込んだ。それを見てから私も何本か口にする。
王国のお城でもこんなに濃い味のものは食べたことはなかった。その新鮮な刺激に突き動かされ次から次に口に運んだせいか私達の揚げ芋はあっという間になくなってしまった。
揚げ芋が無くなると目に入るお店を次々と巡っていった。
そんな中、ある露店が目に入る。
そのお店では珍しく本を売っていたのだ。
私の王国は安定した国内情勢だったことと、数年前から識字率が高まったことで小説等の読み物が普及しだしたのだが、本好きの私としてはこれは見逃せないと思い立ち寄るとーー、
「こ、これアルケイムの最新刊じゃない!」
なんと、私が待ち望んで止まなかった小説の最新刊が置いてあったのだ!
「お、おじさん!コ、コレどうしたの!?」
「おう、それな。この間隣の王国いった時に商人仲間から人気だと言われて、1冊仕入れてみたのよ。もしかしてお嬢ちゃん知ってんのかい?」
「知ってるも何もコレすっごい好きなやつよ!」
「そうかい、そうかい。北の国じゃこの手の品物は需要が無かったせいで売れ残っちまってよ、良けりゃ買ってくれえねえかい?」
「買う!絶対買う!!ねえ、エイスいいでーーえ、エイス!?」
許可をもらおうと振り返るとそこには顔を伏せうずくまるエイスがいた。
「エイス!ど、どうしたよ!?」
「……なんでもない、少し足を踏まれただけだ。その本、買えばいいのだな」
「ええ、そうだけど、本当に大丈夫なの?」
「問題ない」
エイスはそうとだけ言うと立ち上がり本の支払を行う。その姿には特に異常は見受けられない。だが私にはどうにもそれが解せなかった。
人混みの中だからといって彼が他人の歩行を躱せないとは思えない。
(どこか具合が悪いのかも)
支払いを終え、本をパラパラとめくる彼に聞いてみようとした瞬間、
「ーー!?」
私の身体は近くの路地裏に引きずり込まれた。
これから投稿するスピードがまた遅くなりそうですがなんとか完結まで頑張って書きます




