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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
最終章 決戦大女王編
96/101

96:鉄仮面が割れる時

 なぜ返事をしない。なぜ動かない。

 赤い陽が差す中でも、倒れたルピアの下の床に更に赤いものがじわりと広がるのが見えた。血?

「ルピアっ‼」

 駆け寄ろうとした私の目の前にまたふわりと扇が翻った。

「余所見をしている場合では無いと思いますわよ?」

 先程私とリシュルの攻撃を受けた足首や二の腕を確かめるように軽く動かし、少し乱れた髪を整えたサイネイア。人に余所見をするなと言ったわりに、彼女は倒れたルピアを見下ろして冷たく言った。

「小賢しい魔法など使うからですわ。でもまだトドメは刺してあげません。愛する人の死を目の前で見届けさせてあげる。きっと貴方にはその方がお仕置きになると思いますの。大人しくしてらっしゃい、絶望を味わってから後を追わせてさしげますわね」

 なんて事を……‼

 ぴくりとルピアの手が動いた。サイネイアもトドメは刺さないと言ったが、生きてる。それだけでも良かった。しかし、確かにルピアの性格だったら自分が殺されるより周りの者が傷つくほうが精神的に効くだろう。

「そん、なの……見たくな……」

 ルピアが起きようとしてる。頼む、今はもう起き上がるな!

 こちらから打って出る。先に攻撃を仕掛けたのはリシュルだった。

「母上の姿で……その口で酷いことを言うな!」

 かなりのスピードで繰り出された三節棍の一撃。だがその攻撃はするりと躱され、諦めずに蹴りに言ったリシュルの足は虚しく空を切った。

 躱した先を読んで私も突きに行くものの、やはりこれも空振りだ。くそっ、本当に速い。さっきはルピアが一瞬でも押さえてくれたから攻撃が当たったけど……

 そんな私の考えを読んだのか、また光図形が今度はサイネイアだけを取り巻くように現れた。弱ってるのに無理するなルピア! だが無駄にはしない!

 リシュルと一気に攻めに行くが、こちらの攻撃が当たったのは数回だけで、ぞっとするような気配に思わず手が止まった。

「大人しくしていなさいと言ったはずですわよ?」

 人形のような顔から笑みが消え、また図形がはじけ飛んだ。

「私に魔法は効きませんわ」

 再び目の前からサイネイアが消え、弾かれたようにルピアが飛んで壁に強く打ち付けられるのが見えた。

「ルピア! ルピア‼」

 もう構わずルピアの元に走った。

 サイネイアは追って来なかった。リシュルがまだいる。

 ぐったりと壁に寄りかかった形で、俯いたルピアを揺すると、薄く目を開けた。額を切ったのか白い顔に赤い筋が見える。口からも結構な量の血を吐いた。腹を押さえているのは内蔵までやられてるかもしれない。

 彼はそれでも微笑んだ。

「僕は……だい……じょ、ぶ、だから。泣か……ないで、マユカ」

 私は頬に熱いものが流れるのを感じた。

 そして、心の何処かで何にヒビが入る音が聞こえた気がする。

 私の猫ちゃんを……ルピアを。

 よくも、よくも、よくも! こんなに酷く傷めつけてくれたな!!

 私を怒らせたな。私は今、これ以上ないくらい、心の底から相手を憎いと思う。

「待ってろ、もう魔法は使うな」

 ルピアに背を向け、向き直るとサイネイアは笑みを浮かべた。足元に倒れてるリシュルを踏みつけながら。その宿主の実の息子だぞ!

 更に怒りが増した。熱い。腹の中にマグマでも流れてるみたいに熱く感じる。だが心の何処かで冷たいものが目覚めていくのもまた。

 ……これは殺意。

「あら怖いお顔。少しは本気になりましたの?」

 ああ、本気になった。いや、いつだって本気だった。表情に出ていないだけで私はいつだって真剣だし本気だ。

 だが今は……相手から見てもわかるほどなのか。

 さっき何かがひび割れたと思ったのは、きっと私の鉄の仮面。

 無意識に押さえつけていた感情が形作った、無表情と言う名の枷。

「許さん‼」

 そして今、全てが弾け飛んだ。

「うおおっ!」

 私は思い切り棒を振る。その手が、突っ張り棒が、金色の光を放つかに見えた。自分でも驚くほどのスピードでそれはサイネイアにヒットし、華奢な体を横薙ぎにふっ飛ばした。

 サイネイアは倒れず身軽に着地したものの、ふらふらとよろめいている。かなりのダメージは与えられたようだ。ってかなぜ躱さなかった?

「何ですの?!」

 サイネイアが慌てている。そんなの私のほうが聞きたいわっ!

 私、光ってるじゃんか! なんかいつもの戦士の鎧って茶色い皮の鎧だったはず。なのに金属っぽく光ってるんですけど? スチールとプラスチックで出来てたはずのメイドインジャパンの突っ張り棒が、金ピカの固そうな棒になってるんだけどっ!

「何だ……これは」

『マユカの表情に出るほどの感情の動きに、戦士の鎧が反応して進化したんだ。伝説の戦士の最強の鎧の、それが本当の姿』

 頭の中にルピアの声が聞こえた。

 進化って……なんかよくわからんが、それどころじゃない。

 殺す気で行く、それだけだ。

 続けざまに打ち込むと、簡単に躱されていたところが掠る程度には当たるようになった。こちらのスピードも上がっているのか。それでもまだ決定打は与えられない。

「姿が変わったところで!」

 ふわりとまた扇が目の前で翻る。

 それと同時に腹部に衝撃があったが、今までの鎧の比じゃないくらいにダメージは無い。すごいぞ、防御力も半端無く上がってる!

 いや、だがこちらの攻撃がまともに当たらねば意味が無い。

 確かにサイネイアは素早いなんてもんじゃない。だがわかった。

 あの扇は武器ではない。目の前で揺らされる瞬間、意識はどうしてもそちらに向く。本体の動きに追いつけないのは、視覚に頼るからだ。コンマ数秒の世界だが、意識をそちらに持って行かれていると脳の情報伝達が遅れる。そこからまた体に動きを伝えるのにも時間がかかる。言ってみれば超高速の猫騙しみたいなものだ。実際に攻撃してくるのは生身の拳と足。居合のように瞬時に繰り出される一撃。

 何故先程居合が浮かんだのか分かった気がする。

 居合の刀は鞘に納められている間は隙が無い。だが抜かれてしまえばただの刀。攻撃を仕掛けて来た直後、誰しも最も無防備になる。そこを狙えば。

 目で見ていては追いつけない。ならば目を閉じ、気配と空気の流れで感じれば。今なら出来そうな気がする。

 そして最高のダメージを与えるために、棒を投げ捨てこちらも素手だ。私の一番得意なのは組技だからな。

「来い」

「何のおつもり?」

 目を閉じて手招きした私に、サイネイアが焦ったように声をあげた。摺足のような微かな足音。気配。後ろから拳で来る!

 打ち込んできた腕を半身返して掴んだ。細いが固いしっかりした腕。

 よし、組んだ!

 そのままがっしりと掴み、身を低くして渾身の背負投げ!

 思い切り床に叩きつけ、そのまま腕挫固めに入る。思い切りやれば結構危険な技でも今は容赦しない。

「放しなさい!」

 抵抗するサイネイア。力は強くとも、体格差もあって私の締技からは逃れられないでいる。

「嫌だな。宿主は仲間の母親、この国の王妃様だから本当は手荒な真似はしたくなかった。だが、今お前だけは許す気になれない」

 このまま窒息するまで締めるかとも思ったが、そこではっと我に返った。

 息子の目の前だ。私には流石にそれは出来ない。危うく目の前で両親を刺した犯人と同じになってしまうところだった。

 リシュルも相当酷くやられたのか、三節棍を支えに何とか立ち上がろうとしているが、父の時のようにその手でとどめを刺させてやるのは無理みたいだ。

 必死で藻掻いているサイネイアを逃さないように、少し体位を変え、頸動脈を圧迫して落とす。かなりの危険は伴うが、殺すよりかはマシだろう。

 かくりと頭を落としたサイネイア。よし、一人倒した!


 こちらが必死で目を遣る隙も無かった間、もう一組のキドネイアと戦っていたグイル・ゾンゲも大変な事になっていた。

 もう声も上がらないほどボロボロになっている三人。ハアハアと荒い息だけが響いている。静かに、だが壮絶に戦っていた。

 遠目に見てもゾンゲの片腕は折れている。高速で振り回されるヌンチャクに打たれて倒れ、それでもすぐに立ち上がり、果敢にかかって行く。

 グイルもゾンゲと入れ替わり立ち代わり、蹴りに、拳にと絶え間なく攻撃をしかけている。片目を塞いだままのグイルは目に攻撃を受けたのだろうか。あちこち傷だらけの大きな体で、全身を使って相手を止めようと必死になってる。とはいえ既に足元もおぼつかない感じだ。

 そして対するキドネイアも、既にバーサーカーモードのゾンゲの爪にやられたのか衣服もボロボロで、あちこち傷が見える。疲れているのだろう、最初ほどの素早さはもう無い。それでも急所以外への攻撃はほぼ効かないと弟子のスイが言っていたように、致命的なダメージは受けていないのだろう。

 すぐに加勢してやりたい。だがこっちのルピアとリシュルの二人もボロボロだし、サイネイアの本体の虫を取り出すのが遅れると……そう思っていた時、天使の声が聞こえた。

「ああっ! 酷い……!」

 声の主は、元第二階級最強の女幹部リリクレアに憑かれていた蛇族の少女ニルアだった。ゲン達と共に置いてあったのだ、他の者が来ているのだから彼女もいて当然か。そういえばリシュルといつの間にやらいい感じになっていたのだった。心配で上がって来たのだろう。

「九階はもういいのか?」

「ええ、ほぼ片付きました。でもこれは……」

「大女王の前の最強の第一階級二人だ。私以外、皆もう限界だ」

「マユカさん、私が王妃様の虫を取り出している間に早くもう一人を!」

「すまん。ニルア。頼んだ」

 進化したという鎧のせいか、自分でも驚くほど速く動ける。それにダメージを受けないのも先程のサイネイアで立証済みだ。

 今まさにグイルにヌンチャクで攻撃を仕掛けようとしていたキドネイアとの間に割って入り、わざと私が攻撃を受ける。もはやその動きは、私にはスローモーションにすら思えた。

 ヌンチャクの先を掴んでやると、キドネイアは少し焦った表情を見せた。そこでにっこり笑みを見せつけておいてやった。グイルとゾンゲをよくここまで傷めつけてくれたなという、恨みをこめて。

 失礼にも怯えるキドネイアのヌンチャクをぐいんと引っぱり、首元を押さえつけるように拘束し、そのままバンザイの姿勢で後ろから固める。

「今だ、グイル、ゾンゲ!」

 やられた分、思い切ってやり返してやれ!

 最後の力を振り絞って、二方向から綺麗に渾身の飛び蹴りを脇に食らわせた二人。

「うがっ!」

 一声上げてキドネイアがゆっくりと倒れた。肋の一・二本折れたかもしれないが、死んではいないだろう。

 そして力尽きたようにグイルとゾンゲもその場に倒れる。

「すまない、ちょっと……これ以上は無理っぽい」

「マユカ……助かった」

 少し持ち直したのか、ルピアもふらふらと歩いてきて、やはり私の目の前で気を失って倒れた。

 ルピアを抱き起こして辺りを見渡すと、ここはあまりに酷い有様だった。ニルアを除いてまともに動ける人間は私一人。

 こんなので大女王の元に行って戦えるのだろうか?

 第一階級の虫達は取りだされても声を上げず、大人しくニルアの瓶に捕獲されたので、大女王の怒りは買わなかったのだけが幸いか……。

 もうゾンゲ、グイル、リシュルは戦えないだろう。ここまで本当によく頑張った。

 ルピアも置いて行きたいが、それは駄目なのだろうな。

「行く……よ、僕が行かないと……」

 私の腕を振りきって立とうとしているものの、とてもじゃないが無理みたいだ。猫にもなれないくらい弱ってる。これは魔力の補給云々のレベルじゃないからな。

「下の階の魔導師達も、もうすぐ来てくれます。ここは私達に任せて、マユカさんは早く大女王の元へ……あ、でも猫王様が一番大変そうなので、とりあえず私でよければ少しでも治癒魔法で癒しを」

 そう言ってニルアが手を翳して近づくと、ルピアは地味にビクリと身を竦めた。

 ああ、そういえば肉体強化・防御系魔法は得意でも治癒魔法は苦手だと言っていなかったっけ、この娘。

「大丈夫ですよ、半分くらいは成功するんです」

 ニルアちゃん、それはますます不安になると思うんだが。まあそんな事を言っていられる余裕はないので任せるしか無い。

「この際お願いしようか、ルピア」

「う、うん……」

 ごにょごにょとニルアが呪文らしきものを唱え、ルピアの腹に当てた手が微かに輝いたように見えた。

 ルピアの目も少し輝きが戻った気がする。

「少し痛いのが治ったよ。ありがとう」

 どうやら半分の確率は今回は当たりだったらしい。良かったな、ルピア。

「ニルア、下の仲間が来るまでリシュル達を頼む」

「はい。マユカさん、猫王様、どうかご無事で」



 大女王の部屋を目前に、ついに二人きりになってしまった。

 でもなぜか怖くない。腕の中にルピアがいるから。

 只今、私は猫王様をお姫様抱っこして階段を上がっているところ。

「ちょっと僕、カッコ悪いよな、これ、普通、逆……」

「黙ってろ、まだ治りきってないんだろ?」

「で、でも……女性に抱っこされてる男ってのもなぁ」

「いつも猫で抱っこされてるくせに。それに……もう離したくない」

 我ながら大胆な事を言ったと思う。

 そう明るくない階段だが、その薄暗い中でもルピアが照れているのがわかった。散々大胆なことを言ったりしたりして来たくせに、今は照れるのか? そう思うとなんだかおかしくて思わず笑えた。

「マユカ、普通に笑ってる」

「おかしいか?」

「嬉いけど……あ、でも抱っこは重いからせめて猫に……」

「いいじゃないか、このままでも。鎧のせいかな? そう重く感じない」

 別に男女逆でもいいと思うんだ。男が女を守らねばならないなんて誰が決めた? この猫ちゃんでキラキラのか弱い、だが誰より優しくて勇気のある王様は私が守る。

 私はお前に呼ばれた戦士なのだろう? 

 鉄仮面を脱いだ今、もう怖いものなど無いと思えた。


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