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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
最終章 決戦大女王編
92/101

92:大女王の怒り

「ありがとう。生き返る」

 一旦戻った九階。スイ少年がお茶を淹れてくれて簡単な食べ物も口に出来たので体力が一気に戻った気がする。

 十階の棒使いの男女がすぐに目を覚まさなかったので、力持ちのグイルとゾンゲが背負って連れてきたが大丈夫だったみたいだ。魔導師達の治癒魔法もあって元気になった彼等は、犬族の双子の大道芸人だそうだ。ムキムキマッチョだが実際は人当たりのよい姉弟だった。棒術の演技を観せていたという彼等はプロだ。素でも強いだろうし、この後一緒に戦うと名乗りでてくれたが、それは断っておいた。

「折角ヴァファムの寄生から開放されたのだ。スイもいるが、ここでセープ王や魔導師達を守ってくれるだろうか? 言っておくがここも決して安全ではない」

「「勿論です! 何かあったら全力で戦います!」」

 同時に返事する白と黒。うーん、そういや鳥の双子もステレオで喋っていたが、まだそんなに時間が経ってないのになんか懐かしい。一緒に残してきたゲンやニルア達は上手くやってるだろうか。

 体力も回復し、もう少し休んだら体勢を立てなおして今度は十一階に……そう思った時だった。

 隣の部屋でセープ王と話をしていたルピアの方が俄に賑やかになった。

「待てっ!」

 何事だろう。すごい勢いで走ってきた魔導師の一人。それを追いかけるようにルピアとセープ王が走ってくる。

「マユカ、そいつを止めて! 役付きを入れてた瓶を盗られた!」

「何っ?」

 魔導師中でも比較的若い男は逃げ続けて大きな廊下に出た。結構足が速い。だが私達も全員掛かりで追いかける。

 あと一息で囲める、その時。

「来るな!」

 叫んだ若い魔導師が図形を描くように手を動かしたかと思うと、床から電撃を食らったような衝撃が来て思わず全員で飛び上がった。イーアの電撃ほどでは無いが驚いたのだ。

「攻撃魔術が得意なのか」

 ルピアは比較的衝撃を受けなかったようだが、じりじりと後ずさる男に手を出しあぐねている。

 皆に見えるように頭上に翳された瓶。その中にはこの城に来てから捕らえた、王様に憑いていたメキナレア、美女に憑いていたミミラルンカス、そして先程の双子のヒオキレア、ミオキレアが入っているのが見える。

「なんでこんな奴らを生かしたままにしておくんだ?」

「だって……彼等はちゃんと意思を持ってて……」

 そーっと手を伸ばしたルピアが、見えない何かに弾かれたよう後ろに飛び退いた隙に、魔導師はその目の前で瓶を床に叩きつけた。私も受け止めに走ったが間に合わなかった。

 ガシャンと音を立てて割れた瓶。

「何て事を!」

 赤と黄色の虫達はこそこそと動いているものの、飛んで逃げはしなかった。私ではないが表情がわからない虫達は怯えているようだ。

「大丈夫だよ、大丈夫。すぐに仲間の所に送ってあげるから怖がらないで」

 慌てて役付きの虫をかき集めるルピア。割れた瓶で手を切ろうがお構いなしのようだ。寄生していない状態だと早く瓶に収容しないと弱ってしまう。私も手伝おう思った時、魔導師の男はルピアの手を踏みつけた。

「貴様! 何をするっ!」

 思わす魔導師に飛び蹴りをかましてしまった。壁の方まで飛んでいったみたいだがまあいい。

 割れたガラスの上にあった手を踏まれた白いルピアの手から赤い血が床に蜘蛛の巣のように広がっていく。

「ルピア!」

「……僕は……大丈夫、だけど……」

 今まで見たことも無い、笑うでもなく怒るでもない、全ての表情を失ってしまったような顔で、ルピアが細く声を絞り出した。震えるその声は痛みからじゃない、もっと大変な何かを物語っていた。

 がくがくと震えている血に塗れた手をそっと持ち上げる。

 ルピアの血の水溜りの中に黄色い羽根が浮いていた。そして半分潰れかけた二匹の虫の姿が。

 誰も声を上げられなかった。ミーアも横で口に手を当てて息を殺している。王様もリシュルも、ゾンゲもグイルも、誰も何も言わない。

 まだぴくぴくと虫は動いているけれど、もう虫の息……冗談を言うつもりはないが、まさに取り返しの付かない瀕死の状態であることは私にだってわかった。どの役付きなのかはわからないが、第二階級のうちの二匹。

 ふら、とルピアが傾いた。

 慌てて抱きしめたが、茫とした表情は変わらない。辛いな、悲しいな。自分の手の中で命が死んでいくなんて!

 ゴメン、私はまた間に合わなかった人になってしまった。

「はは、ざまぁねえな」

 壁際まで飛んでしばらく気を失っていたらしい魔導師の男が、笑い声を上げた。蔑むような目で私達を見ながら。

「ヴァファム達がした事を考えてみろ。生かしておくなどぬるいのだ。なぜ庇う? 数百年前、ヴァファムが現れた時に根絶やしにし、この世から完全に消してしまえば今のような危機は再び訪れることが無かったのだ。それを阻止したのは猫族だ。そして今回の大女王はあんたの……」

 魔導師の男は最後まで言わせてもらえなかった。セープ王のパンチが飛んで再び飛んでいったからだ。

「馬鹿者! 何という事を! これでは今までのこの方達の苦労が水の泡ではないか!」

 がっくりと膝をついたセープ王。

「……小女王の産んだ下っ端達と違い、役付き達は大女王が直に産んだ子だ。もしこのまま死なれたら……」

 とりあえず無事だった二匹は新しい瓶に入れられ、グイルが大事そうに抱えている。それでもルピアの手の下で潰れてしまった二匹は……。

「キュ……」

 床の上でぴくぴくと触覚を震わせていた二匹の虫が、小さく鳴いたのを最後についに動かなくなった。

「ああ……!」

 ルピアが頭を抱えて絶望の声を上げたその直後。

 ビーンと石造りの壁が振動するほどの鋭い音がして、思わず耳を塞いだ。

『キャアアア――――!!』

 悲鳴? 

『メキナレア、ミオキレア……我の可愛い子供達……』

 低い女性の声。それは城全体から発せられているような不思議な響きだった。なんとも悲しい、聞くだけで涙が出そうになるような悲痛な声。

 この声は……大女王なのか?

『子を殺したな? 許さぬ……絶対に許さぬ……我等は誰の命も奪わなかった。勝手に殺し合い、血を流したのはお前達だけだった。なのに、なのに!!』

 大女王が泣いている。怒っている。

 こんな声を、悲しみから呪詛へと変わる声を、仕事の現場で聞いたことがある。悪質な交通違反の末に横断中の子供を轢いた車の運転手に発せられた母親の声。あれと同じ。

 子供を殺された母の血の滲むような叫び。

 そうだ、下っ端を除いて幹部達は個性もあり、皆ちゃんと名をつけてもらっているくらいだ。そこには虫であろうと親子の愛情があるに決まっている。その子供を殺されたら……。

『野蛮な獣の種族など滅びてしまえばよい。血も流さず、清潔で秩序ある世界に導こうという我の愛を受け入れぬ者達など……!』


 オオオオオオオオオオオ――――――――!


 ビリビリと大気を震わせ、キーンというあのヴァファムの発する音を何百倍にもしたような音が響く。大女王の咆哮。それは何十秒も続き、小刻みに揺れる振動に、窓のガラスは弾け飛び、石の壁や天井からはボロボロと砂埃が降ってきた。

『ゆ る さ ぬ !!』

 城が地震並に大きく揺れた。立っていた者も壁や家具に掴まり、私はルピアを抱きしめたまま更に床に低くうずくまった。

 数十秒の揺れの後、シーンと静まり返った城。

「僕が……僕がヴァファムを殺してしまったから……」

 ルピアが泣きそうな声で呟いた。

「お前じゃない。お前は守ろうとしたんだ。だから気をしっかり持て!」

「マユカ、マユカ……!」

 小さな子供のように何度も私の名を呼びながら縋り付いてくるルピアが痛々しくて愛しかった。私の猫ちゃんをこんなに悲しませて、取り返しの付かない事をした魔導師は許せないが、既にボコボコにゾンゲやグイルに殴られている。

 無言で他の魔導師がルピアの手の傷を癒してくれ、セープ王がすまなさそうに頭を下げた。

「本当にすまぬ。魔導師がデザールの王をよしとしないのは中途半端に歴史を知っているからだ。だが今回の大女王の怒りでデザールの王家がかつてヴァファムを殺さずに、異界より素手で戦える戦士を召喚した方法が間違いでなかったとわかった」

 少し落ち着いたのか、ルピアがふらりと立ち上がった。

「でも元はといえばデザールの王家が巻いてしまった種。憎まれるのは仕方がない。だから責任を持って僕が刈り取る」

「……辛いでしょうがお願いする」

 まだ私には細かいことまでは分からないが、それは大女王のもとに辿り着ければわかるだろう。だから今は口を挟まない。

 城を大きく揺らすほどの大女王の怒りは、それ以後感じられる形では現れなかった。だが沈黙こそが一層恐ろしく感じるのは気のせいでは無いと思う。

 ルピアが落ち着くのを待って、二匹の虫の亡骸を綺麗な箱に入れ、王様達に丁重に葬ってやってほしいと話し合っていた時だった。

「そんな事より来たぞ。ものすごい数のヴァファムがこの階に向かって来る!」

 グイルが鼻と耳をぴくぴくしてる。飛ばしてきた下の階の幹部たちも来るのだろうか。

 もうこうなったら率先して仕切らせてもらうしかない。

「王様、スイ、それと双子。作戦変更だ、魔導師達と例の秘密通路で外に逃げろ。一階のキリムの秘書官も連れて逃げてやってくれ」

「だが……!」

「大丈夫だ、私達は負けん。隙をついて上の階の大女王の元に一刻も早く行く」

 この階に全て集まってくるならば逆に他所は安全になる。

「ミーア、イーア、ゾンゲ、グイル、リシュル。もう休む間もない戦いになるが覚悟はいいか?」

「あったりまえじゃない!」

「覚悟なんてとっくに出来てるよ」

「勿論だ」

「任せろ」

「当然だ」

 笑顔で返事をした五人の戦士たち。

「ルピア、行けるか?」

「当たり前だろ。僕がいないと始まらない」

 少し無理矢理な感じだが、ふんぞり返って返事をするルピア。

「では、行くぞ! 絶対命令だ。誰も死ぬな!」

 一刻も早く大女王の元に辿り着くために。


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