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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
最終章 決戦大女王編
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91:筋肉と脂肪

 相手二人対こっちは六人。一人に対して三人の割合だから、数としてはこちらが圧倒的に有利なはず。しかしながら第二階級ともなるとそう悠長な事も言っていられない。今までも上級幹部相手にはとてもじゃないが一人だけでは無理だった上、二人と同時はルミナ・コモナの連戦もそうだったし、温泉病院での双子の鳥には非常に苦戦して大怪我までした。

 この先まだ十一階、十二階へと行かねばならないし、更に強い事がわかっているのだ。ここで第二階級ごときに負けてはいられない。なるようになる。もうそう思うしか無い。

 くるくるとバトンのように回した後、片脇に棒を挟み片手をこちらに突き出して片方の足を上げるという予備動作で構えた白黒の二人は、やはりぴたりと動きが合っている。気持ち悪いな……。

 その構えは来いという合図か。

 まずは無言で皆を下がらせ、様子見にこちらもほぼ同じ武器である棒を持っている私が一歩出た。

 隙があるかに見せるよう、両手で首の後に棒を担ぐような構えで待つ。傘の下というやつだ。

 思った通り、二人が同時に動いた。

 構えもそうだったように、ぶん、と派手に回される棒の動きは私が知っている日本の古武術の丈術、棒術や薙刀術とは違い、中国武術やインドの棒術に近い、全身を使った派手でアクロバティックな動き。弾みをつけて袈裟掛けに振り下ろしてきた所を、こちらは水平にくるりと回して防御する。二方向から同時に来る棒を身を低くして頭上で止めたが、相手は丈夫そうな角棒、こちらはスチール製の突っ張り棒だ。ビリビリと手が痺れるほどの衝撃だった。

 止めてすぐに中段を横薙ぎに行くと、二人同時に飛び退く。ほう、なかなか身も軽いな。筋肉ムキムキ系は動きが重いかと思ったのに、そうでもないようだ。といっても、第一階級ともやって来たから目が慣れているのか、そう驚くほどのスピードではない。まだ本気を出していないだけかもしれないが。

 私は攻撃の手を止めずそのまま動き続けるものの、標的が二人となると突きにも行けない。片方に気をとられてはその隙にもう一人が来そうだ。こいつはこの二人を分ける必要があるな。

 突っ張り棒を振り回しながら牽制しつつ一旦引く。ヒオキだかミオキだかは深追いはして来なかった。長い獲物を持っているだけあって余裕の様だ。

「二手に別れて総力戦だ。ゾンゲ、リシュル、イーアは男の方を。ミーア、グイルは私と共に女の方を」

「オッケー!」

「おう!」

 バランスを考えて振り分けてみた。細かいところまで言わなくても皆わかってくれる。やはり彼等は信頼できる。

 ルピアは少し離れたところで人型に戻っている。いい子だ、危ないから離れてるんだぞ。

 ピタリと互いの邪魔にならない距離で構える男女。うーん、これは早々に引き離さないといけない。単体なら何とかなりそうでも、こうセットで動かれるとキツイな。性別は違うが宿主は双子なんだろうか? 温泉街で双子の鳥とやりあった時も苦戦した。まだあの時は各々が別の動きを見せていたが、この二人は丁度右利きと左利きのように全てが反対で、息が合い過ぎていて気持ちが悪い。

 二手に分かれようとしても、結局二人を全員で囲む形にしかなっていない。

 私とほぼ同時にグイル、ゾンゲ、リシュル、ミーアが突っ込んだ。グイルは刺又を、リシュルは三節棍を持っている。左右対称の動きで防御に徹する白黒男女。棒がリシュルの三節棍を弾き、それを躱そうとしたグイルの刺又がミーアの方に向く。

「おっと!」

 ミーアも上手く逃げたが、私も隙を突いて打ち込めないし、折角のイーアの飛び道具流星錘も使えない。

「くそっ……素手では厳しいがこちらまで長い武器を振り回せば相打ちになる」

 グイルが呟いた。確かにそうだ。ここはそこそこ広いが密集し過ぎると自滅する。とにかくこいつらを二手に分けないと!

「一度にかかるのは無理だ。波状攻撃で行こう」

 冷静にグイルが言って、皆で頷いた時向こうが攻めてきた。やはり二人同時に。ぶん、と上段から斜めに打ち込んでくる棒、そして鋭い突き。

 私は躱しながら女の方に足払いに行ったが、床に棒を立ててそれを支えに飛び退かれた。同じく男の方の足を払いに行っていたリシュルの三節棍が私の突っ張り棒に当たる。

 ちっ、やはりこれはマズイ。引き離して上手く懐に入れれば、長物はそう怖い武器ではないのに……

「マユカ、みんな。下がって。ここはアタシに任せて!」

 一旦また距離をおこうとした時、ミーアがそう言って飛び出した。

 一人飛び込んだ彼女を勿論第二階級の二人も黙って見ていない。すぐにまた息のあった攻撃を仕掛けてくる。

 棒で双方から攻められながらも、メンバーで一番身が軽く目のいいミーアだ。鞭で棒を叩きながら上手く躱している。ひらひらと極彩色の羽根を翻して棒をかわす様は舞っているように美しい。時折ぴし、ぴしと鞭が音を立てるのすら音楽のようだ。ミーア、すごいな!

 だがこのままでは攻撃までは出来ない。どうするつもりだミーア。

「ちょこまかと!」

「うっとおしいですわ!」

 少し焦ったように両方から同時に突きに来たヒオキとミオキ。危ない! そう思った瞬間、ミーアの姿が消えた。

 ミーアはその羽根で天井近くまで飛び上がったのだ。

「っつ!」

 標的を失って勢い余った二人の六尺棒は仲間を傷つける寸前で止まった。

「ちぇっ、残念」

 少しふくれっ面でふわりと着地したミーアは、今度は女の方にのみ鞭で打ち込んでいった。これはひょっとして向こうの同士討ちを誘う作戦なのか? いい感じだぞミーア。 だが危険すぎる。

「ミーア!」

 声を掛けてその役を交代しようとした時。

「お姉さんさぁ、胸、ちっちゃいねー」

 背後からのもう一人の攻撃をかわしながら、すこし長閑な声でミーアが言い放った。

「なっ!」

 あ、女の方……ミオキレアの動きが一瞬止まった。

「あー、そうよねぇ、おっぱいは脂肪だもの、筋肉鍛えちゃうとどうしても硬くて大きくならないのよねぇ。どう、殿方はやっぱり柔らかい胸はあったほうがいいわよねぇ?」

 ミ、ミーア……。

 いきなり尋ねられて、男達がうんうん頷いた。おい、グイル、ゾンゲ、リシュル! って、なぜお子様イーアまで。

「貴様ら……っ!」

 うわ、元々眉間にしわ寄せて怖い顔をしていた仁王像の白いほうが、更に険しい顔になって、しかもちょっと赤くなってるぞ。効いたのか、効いたみたいだな。女にしかわからない精神攻撃! なるほど、これが狙いだったのか。仲間も即座にそれは理解できたようだ。

 だがなぁ、ミーア。ミオキレアにも効いてるかもしれんが、地味に私にも刺さったぞソレ。多分顔には出てないだろうが、非常にぐさーっと来てるぞ。そうか、私の胸が貧相なのはそういう事なのか……。

「マユカ、僕は胸なんか気にしてないって言っただろ」

 ルピア、今はそんな残念なフォローは必要ないぞ!

 ミオキのみ頭に血がのぼったのか、やや二人の完璧にシンクロした動きが乱れた。誘うようにひょいひょいと紙一重で棒をかわすミーアを追いかけてくる。

「みんな退けてっ!」

 二人に間が開いた隙を見計らったようにひゅん、と音がして銀色の光が空を切った。イーアの流星錘。

 黒い男の方を狙った攻撃は、棒ではたき落とされるかに見えたが、細い紐特有の柔らかい動きで叩きに行った棒に巻き付いた。アレだ、私が王様の九節鞭に使ったのと同じ。

「よしっ!」

 そう暗い室内ではないが、バチっと一瞬ヒオキレアの周辺だけが明るくなった気がした。床を伝ってきた電流に私達も飛び上がるほどに出力最大だったようだ。

「うあああぁ!!」

 ヒオキレアは棒を離すことも出来ずに、悲鳴を上げながら体を強ばらせた。うむぅ、宿主には気の毒だがやはり最強の必殺技だな、イーアの電撃。

 からん、と音を立てて棒を床に落とし、がっくりと膝をついたヒオキレア。

「よくも!」

 ミオキレアの方も黙ってはいない。こちらに向かって下段に構え突っ込んでくる。それでも向こうの陣形が崩れた今、勝機は見えた!

 形は違えど、こちらも同じ棒術。しばらく受けては攻撃という立合いに持ち込む。まだ冷静さを欠いているのか、ミオキの攻撃が荒っぽい。足技や肘打ちも合わせてこちらが攻めると、何度かヒット出来るようになってきた。私が棒を絡めるように動きを止めた隙に、ゾンゲの回し蹴りを食らって白い筋肉質の体がよろめいた。そこですかさずミーアの鞭が飛び、巻き付くように棒を取り上げることに成功した。

 これで二人とも素手だ。組みに行ける!

「ミオキ……」

 ちら、と見ると金属製ではなく木製の棒だったからそう酷いダメージを受けなかったのか、ヒオキレアがふらふらと動き出した。

 だが向こうにはグイル、リシュルがいる。ふらふらの相手には負けないだろう。

 女のミオキレアは私の背負投げ後のゾンゲのみぞおちへの一撃で、男のヒオキレアはグイルの肘での攻撃でとどめを刺す。

 ……何とか勝った! しかも味方側に怪我もなく。

「むう、僕の活躍が無かった……」

 不服そうなルピア。いやいや、大事なお役目があるじゃないか。耳掃除。

 というわけで、恒例正座のデザール王直々の耳掃除タイム。

「いい子達は仲間を呼ぶ声を上げませんよー。でも上に近いしね、すぐに他の仲間に会わせてあげるからねー。まあもし鳴いても一応この階にも魔法防御張り巡らせたから他の階には聞こえないけど」

「……地味にすごい事やってるじゃないか」

「地味だけどね……」

 ルピアが小さい子供に語りかけるように諭しながら赤い虫を取り出していく。

「別に胸が小さくてもいいと思おうんだけどなぁ。大体、気にしなきゃいけないのは宿主のこの人であって、君じゃないでしょ」

 女の方の虫を取り出すときに、ちらっと筋肉質の胸を見て掌に乗せたヴァファムに語りかけるルピア。

 そうだがな……ヴァファムだってやっぱり女は気にするんじゃないか? ってかあまり胸の話はしないでおこうか。

 ミーアの機転で思ったより早く片付いた十階の幹部。

 残すは十一階、そして大女王のいる十二階。

 だが、事件は気を失ったままのヒオキとミオキの宿主を運ぶのと、一旦休息をとって体勢を立て直すために戻った九階で起きた。



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