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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
最終章 決戦大女王編
90/101

90:十階へ

 短い筒状の縦穴を通り抜けると、下は暗い浄化槽……ではなく、薄暗い通路。

 先に降りた魔導師達が、手にカンテラのような物を持って、それで照らしてくれているのでなんとか見える。

 入り口を通った感想は、下品だが、いつもトイレでさようならしている食べ物達の成れの果てにでもなった気分だ。そう思っても私は口に出さなかったのに。

「マユカ、僕も立派な○○こになった気分だよ!」

 私とミーアの後に、なぜか猫の姿になって降りてきたルピア。下で受け止めてやると笑うように目を細めて誇らしげに言った。

 お前というやつは……やっぱり残念だな。だが、難しい顔をしていた魔導師達も思わずクスッと笑ったので、場を和ませる事にかけてはコイツは天才的だ。そのあたりが猫ちゃんというところだろう。

 ルピアを抱いたままセープ王達に続く。天井が低く、二メートルにも満たないほどの幅の通路は狭いとはいえ、そう不快でもなく、蛇足だが別に臭くはない。

 一向に人の姿に戻らないルピア。

「歩かないのか? ルピア」

「多分この先いっぱい魔法を使わないといけないだろうから……今だけこうしてくっついてていいかな?」

「……いいけど」

 こうやって猫ちゃんを抱っこしてると、私も嬉しい。温かくて柔らかい体。ふわふわの毛。薄暗がりで瞳孔の大きくなったクリクリの夜の猫特有の目で見上げるのがたまらなく可愛い。

 ルピアも一応考えてはいるみたいだな、猫の姿だったら私も恥ずかしげも無く魔力補給もしてやれるし抱きしめていられる。

 それでも……ほんの少し不安もある。この先ルピアが魔法を使わないといけない場面が多いと予感していると言う事は、間違いなく厳しい状況になるという事だ。

 ルピアを顔の前に抱き上げて口付けた。短い毛とヒゲに覆われた口は少しチクチクするが構うものか。誰も気づいていないか、それとも見ていても何も言わないのか。いつものようにツッコミも入らないので少し長めにキスする。

 人間の男前の姿の時はタコチュー顔で迫って来るクセに、照れたように目を伏せるルピアにゃんこ。

「えへへへ、元気百倍」

「それは良かった」

 私はぎゅっと猫を抱きしめて先を急いだ。


 少し行くと急勾配の階段になっている。階段というより木製の梯子に近い。流石に一階から九階までノンストップで行けるだけあって、長い長い上りだ。ルピアニャンコはいつの間にかゾンゲやグイルの肩に乗っかって移動している。身軽な猫なんだから自分で歩けよと思ったものの、さっきの話ではないが少しでも体力を温存しておいて欲しいとも思う。魔力は強いが、か弱い猫の王様はすぐにバテるからな。

 階段の終わりは一見行き止まりの天井に見えた。先頭のセープ王が横の壁を何やらごそごそやると、がたんという音がした。鍵が掛かっていたようだ。

「この上は少々狭くなっておるので一人ずつ出る。上が低いので頭を打たないよう。また、見つからぬ場所ではあるが、念のため不意打ちに注意されよ」

 セープ王が皆を振り返って言う。九階の役付き本人はここにいるからいきなり大物は出ないだろうが、下っ端や見張りクラスはいるかもしれない。

「では魔導師の方々より先に私達が行こう」

 格闘家の王様は強いが魔導師達は戦闘向きではないだろう。細い階段で何とか順番を入れ替わり、セープ王、リシュル、私、ゾンゲ、グイル、ミーア、イーア、スイの順で出ることにした。ルピアは猫のままゾンゲに乗っかっている。

 セープ王がそっと天井……恐らく出口から見たら床であろう……を押し上げると、明るいかと思ったらやはり暗かった。灯りを持っているこちらよりも暗いくらいだ。

 すっと王様が頭から闇に飲まれたように見えた。続いてリシュルも。そして私も続く。

 頭を出した途端に少しカビ臭かった。どこかの部屋にでも出るのかと思っていたのにまだだった。まさに秘密の通路という風情の場所。天井裏? 頭上は非常に低く、注意されていたのに私は少し頭をぶつけた。暗がりに少しづつ目が慣れてくると、微かに前に這うように進むリシュルの後ろ姿が見えた。流石は蛇だ、こういう狭いところはお得意らしいな。昔、祖父母の家の押入れの天井を外して、こっそり屋根裏に上って秘密基地ごっこをして遊んだのを思い出す。

 うーん、だがこの体勢って後ろから見たら尻が丸見えだろうな。そして後ろを着いて来てるのはよりによって闇でも普通に見える猫族の野郎共だ。なんか嫌。

 王様とリシュルが目の前から消えた。今度は縦穴を降りたみたいだ。逸れないように続こうとしたが、少し待てと言われたので待つ。狭いって言ってたもんな。

「いいぞ、マユカ」

 リシュルに呼ばれて下に飛び降りる。確かに狭いけど、触れるのは柔らかい感触。布?  沢山の布のある場所。先に行った王様が扉を開けたのだろう、少し明るくなってその正体がわかった。ああ、ここは……クローゼットなのか。

 クローゼットらしき所から出ると、そこはこじんまりとした普通の部屋だった。一階でトイレに飛び込み始まった秘密通路はここで終わりのようだ。

「侍女の支度部屋だ。まさかこんなところに通路があったなんて」

 リシュルが驚いている。まあそうだな、万が一敵襲に遭って逃げるにしても王様の部屋からの通路があったら敵にだってバレるだろう。それが侍女のクローゼットの天井とは誰も思うまい。そして出口がトイレとは。コレを作った人は天才かよほどの変わり者だと思う。ただ、反対から来たから良いものの、セープ王はメキナレアに寄生された状態でここを逆に通って来たと言っていた。トイレから出る時は更にシュールな眺めだったろうな……美貌の王様が便器からにょっきり顔を出す所を想像して、可笑しいよりちょっと怖かった。

 次々に出てくる一行。なんかゾンゲが照れてるみたいに目を合わせないのは、絶対に私の尻を間近で見てたに違いない。わかっていても何も言わずにおこうと思っていたのに。

「実にいい眺めだったなぁ、ゾンゲ」

「しっ。ルピア様、内緒です」

 ……こそこそと話してるのが聞こえてるんだよ、ニャンコ二匹! くそーっ、なんでこんなに露出度が高いんだ戦士の鎧……そして猫だから一撃も食らわせられないじゃないか。覚えてろ、後で尻尾の根元まで撫で回してやるわ!

 そんなことはさておき、この部屋のドアを開けたらどうなるかはわからない。

 王様、魔導師達はこの階を確認するまでここで待機していてもらい、五種族の戦士と私、ルピア、スイで部屋を出た。

 間取りはリシュルもいるので問題ない。ここは九階の北の一番外れ、大きな廊下に出ると、突き当りはこの階の三分の一ほどを占める王の謁見の間。あとは控えのいくつかの部屋があるだけだそうだ。王の寝室などは十階に、リシュル達王子の部屋はこの下の八階、七階なのだそうだ。

 廊下で二・三人の下っ端に会ったが、声を上げられる前にのした。他は見て回った結果、もういる気配がないのでセープ王達に出てきてもらい、私達は早々に十階に上がる事にした。

「私達が城の門を潜った事はもう知られているだろうから、あまり時間をかけると下の階の役付きも気がつくかもしれない。この隙をついて一刻も早く女王の元に行く」

「もし癒やしや休息が必要になったらこの階に戻ってきてください」

「守りの結界を張り、僅かなりとも見つからぬようにしておきます」

 魔導師達が言ってくれたので思いきれた。万が一に備え、王様の護衛も兼ねてスイ少年を置いて行く。本人は最後まで一緒に行きたがったし、この前に師匠がいるかもと思うと貴重な戦力だが、もしここに下の階の役付きが上がってきた時のことを考えたら、いくら強くとも王様一人では不安があるし、上で誰かが傷ついた時の交代もありうると説得すると、白蛇少年は納得した。

「頼んだぞ、スイ」

「はい。マユカさん、気をつけて。師匠に会ったら、弱点は脇の下です」


 一人減り、また私達はデザールからの最初のメンバーに戻った。

 リシュルに案内され、十階への階段を行く足取りはやや重い。

 階段を上がり切る前から感じるこの気配。寒々しいほどの殺気。この先に強い役付きがいるのがわかるから。

 上に行くほど、大女王に近づくほど強い敵がいることは承知している。しかも各階に一人づつとは限らない。そして確実にその一人ひとりが強力だろう事も。そう、わかっていたのに。

「マユカ、来る……!」

 まだ猫のままのルピアが、背中の毛を逆立ててふーっと威嚇の声を上げた。ゾンゲもだ。グイルも低く唸っている。

 十階の踊り場に足を踏み入れた途端、ひゅん、ひゅん、と音をたてて何かが目の前を過った。

 察知していたので誰も当たらなかったが、その正体は私が持っている突っ張り棒を伸ばした時と同じくらいの棒だった。しかも左右から二本。

「待っていたぞ!」

「待ってましたよ!」

 いきなりか。すごくいきなりだな!

 待ち構えてましたって感じで登場したのは、男女の二人。

 刑事スキャン瞬間起動。

 二人共二十代前半、身長はおよそ百七十センチほど、驚くほど大きくはない。一人は黒髪の男、肌も黒い。もう一人は白といっていいほどのプラチナブロンド、肌も異様なほど白い女。共に長い髪を頭の上に高く結い上げた変わったヘアスタイルに、つり目気味の顔つき。性別と色は違うが双子と言っていいほど似ている。そして男女の違いはあるとはいえ、これまた共にボディビルダー並みのムキムキ筋肉質。一応女の方は小さな三角のブラで胸は隠しているが、男の方は上半身裸。共に下半身のみサルエルパンツのようなゆったりしたズボン着用。裸足。そして手には六尺ほどの八角棒。

 左右で対照的に棒を構える二人は、眉間にしわを寄せて怒りの形相だ。こういうの、どこかで見たことあるぞ。

 あー、アレだ。お寺の門に立ってる仁王像二体。阿吽だったっけ?

 こちらも一斉に展開してそれぞれ構える。 

「僕はヒオキレア」

「わたしはミオキレア」

 寸分たがわぬ鏡に写したような動きで、ぐるん、と棒を回して中段に構えた二人。

 レア。いきなり第二階級が二人か……コイツは手強そうだ。


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