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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
最終章 決戦大女王編
88/101

88:女の武器

 ではセープの王宮に入ろう。

 一階のみ何とかしてくれればと、リシュルの父ちゃん……王様は言った。勿論一階にも一人第三階級がいるとの事なので、戦闘は必至だろう。

 入口の扉を守っていた見張りは警戒音を上げられる前に瞬殺で伸した。

 グイルとゾンゲが大きな観音開きの扉の両側に立ち、私達の顔を見る。開けた瞬間に一気に襲ってくるかもしれない。私達もやや緊張しつつ身構えた。

 ぎいいいぃ……と音をたてて扉が開く。予想外に静かだった。

 まず目の前に現れたのは、とてつもなく広いホール。外側は一見和風の城にも似ていたが、こうして中に入るとやはりどこか洋風の佇まいだ。高い天井にピカピカに磨き上げられた大理石のような石の床は寒々しくすらあった。

「気配があまり感じられないが?」

 リシュルが構えていた三節棍をやや緊張が解けたように降ろした。鞭を構えていたミーアもだ。だが鼻のいいグイルは何か感じているようだ。

「ヴァファムのニオイはするし、つい先程まで大勢の人がいた感じはある」

「奥にいるのだろう。気は抜かない方がいい」

 ピラミッド型とまではいかないが、上に行く程小さくなっていく城の造り上、この一階部分の広さは半端ではない。部屋も沢山あるだろう。

「とりあえず魔導師達を開放に行こう」

「こちらの一番奥だ。着いて来てくれ」

 この国の王様自ら道案内をしてくれるのは大変有難いものの、恐れ多いような気もしなくもない。先頭を行ってもらうのも待ち伏せを受けた時に気の毒なので、リシュルに代わってもらった。

 城に入る前から一言も喋らないルピアが気になる。顔を覗くと、私と目が合った瞬間にルピアはにこりと笑った。

「なになに? 今のうちに魔力の補給してくれるの?」

 だからその折角の綺麗な顔をタコチューにするな。残念な。だが良かった、いつものルピアだ。元気が無いわけでは無いのだな……そうは思ったが、どことなく寂しげな目をしている気がする。

「もう少し後でな」

「ちぇっ、ケチンボだなぁ、マユカは」

 セープ王との会話は気になったし、深刻そうなものだった。それでも私はルピア本人が話してくれるまで、こちらからは訊かないでおこうと思う。私には聞かせたくない事の様だし、どのみち女王のところに辿り着ければわかる事だ。

 正直なところ聞くのが怖いのだ、私は。酷く恐ろしい、悲しい現実が待っていそうで。私もそこまで馬鹿じゃないと自分では思っている。少し聞こえた内容だけでも容易に推測することが出来た。

 ルピアの先代と言う事は、ひょっとしなくても大女王はデザールの先の王。ということはルピアの実の親ではないのだろうか。魚族の診療所でヒミナ先生に軽部を召喚した術者について相談した時、

『ただ一つ言えるのは、その術者も猫族、しかも王家の関係者って事だけね』

 先生はそう言ったはずだ。猫族、しかも直系の王族にのみ伝わる異界からの召喚の術を知っている者……それが大女王そのものに寄生されているというのなら、私とルピアのように魔力補給のために離れられない縛りもなく、その意識はともかく体は生きていられるだろう。事故で意識のない体を、ヴァファムが寄生することで維持していたノムザの例もある。これで全て辻褄が合う。

 一向に誰も襲ってくることもなく、静まり返った城内の広い廊下を奥に進みながら私が考えを巡らせていた時、急に先頭を行っていたリシュル親子の足が止まった。

 カツカツ……固い足音と共に、誰かが歩いてくる。

「困りますわ、メキナレア様。勝手に九階から降りていらしては」

 落ち着いた女の声がして、声の主が姿を表した。

 刑事スキャン始動。身長およそ百六十五センチ、体重は四十五から五十。上から九十、六十、八十五というところか。足も長く非常にスタイルがいい。ストレートの髪の色は黒っぽい茶、目は黒、銀縁の眼鏡。薄めの化粧と胸元の開いた白いシャツとグレーのタイトなスーツは教師か秘書でもやってそうだ。ウロコもみえないし、少しだけ尖った耳は犬族っぽい。手には武器がない。素手か、それともコモナの時のように隠しているか? 

 うむ、何でこの世界でスーツにハイヒールなんだ。それに眼鏡も。知的なデキる才女を意識してみました的な。それにしても何だその谷間は。なんかなぁ、軽部がどんな物を見せてたのか考えるのが怖い。ってか、お城にスーツ。うーん、なんかシュール。そのタイトスカートで戦う気か?

「あら、メキナレア様がおいでになりませんわね。もう倒されておしまいになりましたの? 第二階級が情けないこと……あまつさえ、お客様を勝手に神聖な城内に引き入れるのを許すなどあってはならぬことですわ」

「メキナレアは捕獲した。お前も抵抗しないのなら快適な瓶の中に入れてやるが?」

 一応言ってみる。まあそうは上手くいかないだろうことはわかっているけどな。

「ご冗談を。ああ、わたくしは女王様よりこの一階を任せられましたミミラルンカスと申します」

 優雅な仕草で、女はお辞儀をした後、手刀の形にした手を前に突き出して、足を肩幅に開いた。ほう、言葉遣いは丁寧というより回りくどいのに、いきなりやる気か。空手のような構えだ。こう見えて武闘派か。

 面白い、やろうではないか。こういうのは好きだ。

「ここは俺達にやらせてくれ」

 出かけた私をゾンゲとグイルの二人が止めて前に出た。始めは仲の悪い犬と猫……もとい豹と狼だったが、今では息がぴったりだ。

 このミミラとやらが素手の格闘タイプならば、彼等とは多分相性が良いだろう。私はついさっき表でも戦ってきたし、この先を考えたら誰かに任せたい。いや、先を考えたら一度にゾンゲとグイルの二人とも出してしまうのは得策でない気がする。タイプの近い彼等はこのメンバーの中では双璧だ。安心して任せられるリーダー的なところがあるから、ひょっとしたらこの先別れて戦うかもしれない時にそれぞれ残っていて欲しいのだ。特にグイルは纏めるのが上手い。

「よし、じゃあゾンゲ、私と一緒に。グイルは待機」

 豹男は頷いたが、グイルは不服そうだ。わかってほしい、決して役に立たないなどとは思っていないことを。

「グイル、第三階級程度で君を疲れさせるのは勿体無いってマユカは思ってるんだよ。リーダー格はどんと構えて仲間に任せないと」

 ルピアが上手いことを言って言葉の足りなかった私の代わりに説明してくれたので、なんとかグイルは納得してくれたのか下がった。

 そうだ、所詮と侮ってはいけないが、相手は第三階級。ここまで第二階級、第一階級ですら倒してきたではないか。早めにこの一階を片付けてこの城で動きやすくしたい。

「第三階級程度……まあ、酷いことをおっしゃいますのね!」

 かつ、とヒールの音を響かせ、スーツの女が蹴りを入れてきた。

 戦闘開始!

 なかなかいい動きだがかわせないスピードではないし、タイトなスカートで上げられる足の高さなどしれている。軽くかわし、私も蹴りに行ったがこれもするりとかわされた。眼鏡のくせに動体視力はかなりのものとみた。

 様子見で正拳突きに行くと、上半身を反らせてかわす。体も柔らかいな。やはり犬族のようだ。ゲンを筆頭に今までの相手でも犬族は体技に優れていた。しなやかで柔らかいが力強い動きが最初にやりあったフレイルンカスに似ているが、この女もダンサー系なのかもしれない。

 すかさず爪をうんと伸ばしたゾンゲが襲い掛かる。うーん、女性の宿主にあまり傷をつけては気の毒だが、遠慮していては先に進めないな。

 ゾンゲの爪をかわしながら回し蹴りに来た女だが、おいおい、そこまで足をあげたら中身が……!

 腕で蹴りを受け止めたゾンゲには丸見えな角度だったらしい。何も反撃せずにゾンゲは一旦飛んで後ろに下がった。微妙に照れた顔をしているように見えるのは気のせいではないと思う。

「ゾンゲ、何色だった?」

 おい、ルピア、何を訊いてる。

「……ピ、ピンク……」

 そして答えてるんじゃない、ゾンゲ。思い切り見てるじゃん!

「まあ、エッチ」

 ミミラは自分も離れて、くねっと谷間を強調しつつスカートを押さえる仕草も色っぽい。知的な顔をしているだけに余計に破壊力がある。

 そうか……わかった。この一見素手に見えるミミラの武器。それはこのお色気! 女の武器!

「ゾンゲ、女だからと手を抜くなよ」

 一応釘を刺しておく。

「勿論だ!」

 気を取り直したように構え直すゾンゲ。私も休んではいられない。残念ながら女なんでお色気は通用しないぞ。

 こうなったら組みに行って早々に……蹴りと拳で牽制しつつ、組むタイミングを図っても、くるりくるりと舞うようにかわされる。コイツ、攻撃はあまり仕掛けてこないものの、防御は今までのどの相手より優れているのではないだろうか。

 キレもしていないのに、ゾンゲも本気モードになってきたようだ。がっ、と微かに聞こえたかと思うと、すごい勢いで相手を引っ掻きに入ったので、邪魔になってはいけないと私は下がる。

 これも紙一重でかわしつつ、ミミラも何とか耐えていたが……。

「きゃあ!」

 ゾンゲの乱れ引っ掻きでスーツのジャケットのボタンが飛び、続いて下の白いシャツのボタンも……。

 おおぉ! ぷるんって出たっ! 巨大なおっぱいがこんにちはしたっ! 半分でいいから分けて欲しいような乳がっ!

「ぶはっ」

 今の声はルピアだろうか、リシュルだろうか。鼻血吹いてるんじゃないだろうな。ちらと見ると、何故か男達は後ろを向いていた。ミーアはイーアの目を押さえて隠している。

「イヤァン」

 ミミラが何とも言いようのない色っぽい声を上げる。両胸を隠す仕草が凶悪だ。

 ゾンゲっ! 手を止めるな!

 一瞬止まったゾンゲに、ヒールのキックが飛んで、豹男がよろけた。ハイヒールの蹴りは効くよな。

「いやらしい男は嫌いですわ」

 ほう、言うなぁ。なんかちょっとムカっと来た。お前のほうが余程いやらしいわ! くそっ、こういう事ならミーアを出しておけばよかった。女には女のお色気は効かないからな。しかも初心なゾンゲには刺激が強すぎたか。いや、ゾンゲでなく真面目なグイルだったら、もっとダメージが大きかったかもしれないな。

「ゾンゲ、ミーアと交代するか?」

 そう言いつつも、私が出かけた時、後ろでぐるるる……と唸り声が聞こえた。

「冗談言うんじゃねぇ。俺がトドメを刺すんだよ」

 あ、この喋り方は……ゾンゲが本当にキレた。


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