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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
最終章 決戦大女王編
87/101

87:セープ王解放

 私は最大に伸ばした突っ張り棒を上段に構え、目立つように動く。

 棒術、薙刀において脇ががら空きになる上段の構えは、捨て身の攻撃の型であり、最も防御には向かない。防御の型は下段だが、攻防を兼ね、いつでも持ち手を切り返して防御にも攻撃に出られる型が八相である。私は努めて八相の構えに徹するが、今回は違う。目立たなければ意味が無い。

「来い」

 手負いのリシュルの方に向いているメキナレアの意識をこっちに向けさせ、攻撃を仕掛けてきてもらわないと困るのだ。

「リシュル、手を出すなよ」

「あ、ああ」

 先走って痛い目にあって、リシュルも少しは冷静さを取り戻してくれたようだ。

 まだメキナレアの表情は若干混乱しているように見える。だが、ぴし、ぴしと乾いた金属音を立てて地面を叩く九節鞭の先が予備動作を始めた。

 王様、頑張れ。表はこちらで何とか止める。内側で抵抗するんだ、自分の意思を持って、全ての意識を乗っ取られないように。いいのか? 息子にあれだけ好き勝手言われて。尻に敷かれてるとか、情ないとか言われてさ。

 メキナレアの金色の目が私の方を向いた。そして足音も立てずに軽い動きで跳躍。ひゅん、と音を立てて振りかぶられた銀色の帯。

 私は神経を集中して軌道を読む。空中で撓るように回された鞭は私の上段の構えに反応してか、隙を見せた脇を狙って来る。よし、狙い通り。しかもややスピードが遅い。

 すかさず突っ張り棒を片手に持ち替え、自分は下がりながら思いきり棒を突き出す。そう、まるでフェンシングのように。そして先をくるくるくる回す。

 イメージとしてはあれだ。魔法少女のステッキ。なんちゃらかんちゃら~と謎の呪文を唱えつつ、回りに花を振りまくみたいな?

 じゃら、と鞭の先が回した棒に絡まった。

「なっ!?」

 そのまま前に出て更に突っ張り棒をくるくるっと。みるみる短くなっていく九節鞭。相手も放さないので距離は縮まり、最後は自分もターンを決めつつ回し蹴り。ガードに来た手首に当り、武器はやっとメキナレアの手から離れた。

 もう一撃私が蹴りを入れようとしたのは流石に身軽に躱された。だが武器を回収することに成功したぞ。

「おお、すごい!」

「でも魔法少女ってのはちょっと……」

勝手に頭の中を読んだルピアの声も聞こえたが。うん、気にしてはいけないな。

 ぽい、と遠巻きに見ているルピア達の方に自分の得物ごと巻きつけた九節鞭を放り投げる。すかさずグイルが刺叉で回収してくれたのが視界の端に見えた。

 武器は取り上げてもまだ気を抜いてはいけない。一応第二階級という上位幹部に選ばれたのだ。王様とは思えないほどの身の軽さだし、体術もかなりのものだろう。

 九節鞭を取り上げられて少し焦ったのか、メキナレアは一旦飛んで下がり、間合いを取り直したみたいだ。リシュルも立ち上って構え直している。まだ血は出ているものの、そう深い傷では無いようで安心した。

「なあリシュル、父ちゃん素手でも強い?」

「まあ、母が異常なのであって、父も普通の者に比べれば相当強い。一応母と結婚する前はずっと武術大会の優勝者だったくらいだし。マユカの方が強いだろうけど」

「へぇ……」

 王様がずっと武術大会の覇者だったという事実よりも、それよりまだ強いという王妃様の方が気になった。女性ということで相手の遠慮はあったかもしれないが、それでも相当なもんだろう。というかなぁ、この先いるであろうそのお母さんに会うのが怖くなって来たんだけど……

 まあいい。ここからは素手で勝負だ。向こうも覚悟を決めたようだし。

 リシュルと同じような拳法に似た動き。ふわりと地面を蹴って舞う様に蹴りが来る。私が躱すとまたすかさず拳。無駄の無い早くて美しい動きだ。とはいえ実戦で鍛えられて来たリシュルの方が上な気もする。

 身軽に動く相手は足を攻めるのが鉄則。足払いに行くと見せかけ、躱すためにメキナレアが飛ぶ動きを予測した所に正拳突きが脇腹に決まった。

「むっ!」

 メキナレアがバランスを崩したのを逃さず、すかざず組みにいく。逃げられるかとも思ったが、ふいに頭を押さえてメキナレアが動きを止めた。

 よしよし、王様も内側から頑張ってるんだな。もう少しだ、もうすぐ楽にしてあげるからがんばれ、父ちゃん!

「リシュル、とどめを」

「任せろ!」

 びゅん、と風を切るほどの結構な勢いでリシュルが飛び込んで来た。

「ぐはっ!」

 おおーいリシュル! 鳩尾に一撃食らわすぐらいでいいのにっ! そんなに思いきり飛び蹴りかまさなくても! 王様飛んでったし。身内だからって容赦無さ過ぎだろう。

 中からの宿主の頑張りもあり、素手にしてからは早いものだった。一人目撃破!


 もうメキナレアは起き上がって来なかった。すかさず門のところで見守っていたルピア達が駆け寄ってきた。耳かき部隊のいない今、虫も自分達で取り出さねばならない。

「いい子だ、きーんは無しだよ? わかるね? 音を立てたら握りつぶすよ」

 ルピアが取り出したメキナレア本体の虫を脅すように言い聞かせている。勿論ルピアはそんな事はしないが、役付きの虫はあの仲間への連絡の音を立てることもなく、瓶に収容された。

 思いきり息子にとどめを刺された王様は、虫を取り出したのになかなか目を覚まさない。私は少し心配になってきた。

 王様というよりちょっとしたイケメン俳優のようだな。うーん、綺麗な顔。

「お父さんえらく若いけど何歳?」

「確かもう五十代も後半だったと思う」

 私の刑事スキャン初の大きな誤差だ。うむ、蛇族は年齢のわかりにくい種族であるようだな。リシュルやニルアは逆に大人っぽいし、スイ君は幼く見えるし。この王様も見た目は四十代前半かと思っていたが、冷静に考えたらこんな大きな息子がいて、しかも上にまだ五人もいるのだから当然か。

 その息子は更に酷い事を言う。

「考えてみたら幾ら寄生されてたとはいえ、年寄りにちょっとやりすぎたな」

「年寄りってお前……」

 十代の子からみたら五十代は年寄りなのか……日本じゃまだまだ働き盛りの年頃だし、このお父さん見た目メッチャ若いのに。

「ん……」

 カッコいい王様がやっと目を覚ましたようだ。

「父上、気がつかれましたか」

「リシュル?」

 目を開けてまず見えたのが息子の顔でほっとしたのか、王様は微かに微笑んだ。リシュルに身を起されると、先程目いっぱい蹴飛ばされた腹が痛いのか、少し眉を寄せたもののなんとか無事のようだ。

「すみませんでした。操られていたとはいえ一国の王に手を出すなど」

 リシュルと共に私は頭を下げながら言う。こういう時は先に謝ったが勝ちだ。王様は穏やかに微笑んで返してくれた。

「いや、ヴァファムから解放してくれた事に感謝する。だが何故だろうか、よく覚えておらんのだが、リシュルに酷い事を言われた気がするのだが……駄目親父だとか嫁の尻に敷かれているとか、軽く扱われて情け無いとか……まあ、否定はせんが」

「気のせいです父上」

 ……リシュル、真顔でしれっと誤魔化すとはなかなかのものだな。思いっきりそのまんま言ってたじゃないか。しかも年寄りだとかまで。

「そうだな。兄弟で一番賢くて性格の良いお前がそんな事を言うわけが無いな」

「ええ。この国の王に向ってその様な事を言うものですか」

 笑っていいだろうか? リシュル、微妙に眉がピクピクしているぞ?


 王様やリシュルの回復を待つ間、私達がここに来た経緯を話した。そしてこれから中に乗り込むつもりだと言う事も。

 セープ王は城の中を説明してくれる。

「城のそれぞれの階には第三階級・第二階級の役付きがいる。いちいち相手をしていては身がもたぬぞ。大女王は最上の天守閣にいる。そこまでざっと十二階ある」

「……キツイな、それは」

 まだ門をくぐるろうという最初でこれだ。この調子で毎回戦っていては確かに身が持たない。入ってしまえば後戻りは出来無いのに……

 憂鬱になったところで、王様がよい話を持ち出してくれた。

「私が案内しよう。一階のみ突破してくれれば、そこから王族しか知らぬ通路がある。本来私に付いていた役付きが任されていたのは謁見の間がある九階。そなたらの姿が見えたので先にそこを通り降りて来たのだ。九階までは直通で行けるし、一階には王室の専属魔導師も何人か捕らえられている。治癒魔法を使う彼等を解放して九階まで連れて行ければ、後々やりやすいのではないだろうか。もう怪我をしても城の外には出られぬし、日を越せば休むところも必要になろう」

 おおっ! 王様~! リシュル、父ちゃんすごいじゃんか!

 門番扱いだとか散々な事を言われていた王様だが、ある意味城の内部構造を知り尽くしている城主を最初に味方につけたのは幸いだった。

 流石に最上階の大女王のところに直通とは行かないが、一回でも戦闘の回数を減らせるというのはラッキーだ。それに休憩や回復のできる場所も確保出来るというのは非常に有難い。滅茶苦茶いい話ではないか!

「リシュル、父ちゃんはちっとも情けなくないじゃないか」

「……マユカ……」

 あ、ごめん。気のせいで済ましていたのにバラしてしまったな。でもそんなに睨まなくてもいいじゃないか。親にウソはいけないぞ。

 そろーっと王様の顔を窺うと、聞いていなかった様なので安心した。なぜか王様がじーっと見ていたのはルピアだった。

「そちらは……デザールの?」

「ご挨拶が遅れました。はじめまして、セープ王。ルピア・ヒャルト・デザール・コモイオ七世です」

 ルピアが王様の前に出て優雅にお辞儀をする。その姿を見て、王様の表情が変わった。

「そうか……やはり先代によく似ておいでだ。立派になられて」

 え? 違う大陸の国なのに先代王は知ってるんだ。でも、なんだろう。セープの王様のあの悲しそうな表情。どうしてそんなに痛ましそうな目でルピアを見るんだろう。

 なぜか王様二人、少し私達から離れて話し始めた。聞えるけど。

「遅くなってしまいました。大女王は既に最終形態に?」

「うむ……力及ばず、申し訳ない」

「やはりそうですか。ではもう助けられませんね。殺すしか……」

「……本当に辛いと思うが……まだ若い貴方にこの様な残酷な事を頼まねばならないのは心苦しい。だが大女王を何とか出来るのは貴方しかいないのだ」

「わかっています。もう三年前に王位を継承した時から覚悟は決めてるから。それより……マユカ達もいるのでこれ以上は……」

 ん? 何だろう、今の会話。私に聞かれてはマズイ事でもあるのかな。

 最終形態? 助けられない? 殺すしかない?

 私の方を向かないルピア。横顔が酷く青ざめて見えるのは気のせいだろうか。それにセープの王様も泣きそうっていうより涙ぐんでるように見える。

 だが、訊いてはいけない気がして私からは声を掛けなかった。

 今はまだ訊く時では無い。いずれはわかる、そんな気がしたから。


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