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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第二章 新大陸編
84/101

84:最終出陣前夜

「協力させていただきたい」

「謹んで遠慮する」

「そう言わず。お願いする!」

 押し問答の相手は、つい先程まで第一階級スレカイアに寄生されていた先祖返りの蛇族、本名シュレさんである。

 今までの例でもそうだが、役付きに宿主として選ばれる者は、素でも戦闘力も身体能力も優れているのはわかっている。特に第一階級ともなれば、ゲンがそうであるようにかなりの即戦力になるだろう。

 だがしかし―――

「操られていたとはいえ、沢山の無辜の市民を傷つけ、酷いことをして来ました。かくなる上は大女王を倒して世界を元に戻すために、伝説の戦士殿のお役に立ちとうございます!」

「気持ちは有難いが……」

 ううむ。個人的に蛇顔が苦手だから近くにいてもらっては困るなどとは言えない。どうするべきだろうか、これ。時代劇に出てきそうなスレカを取り出しても、やっぱりお侍みたいな男だし、とても真面目そうで性格良さそうなだけになぁ……

「魔法耐性があるというのはすごいよ? 双子の鳥よりは役に立ちそうだ」

 おいルピア。

「「酷いです! 自分達も役に立てます!」」

 相変わらずステレオの鳥男×2。

「これから城にいる上位の役付きと連戦になる。一人でも強い味方は欲しい」

「相当の戦力になると思うが」

 リシュルにグイルも推している。ああ私もわかっているんだ。だがなぁ、私の戦意まで消失しそうなんだけど。

 そんなやりとりをしていると、横から震える声が聞こえた。

「そいつ……許すのか?」

 声の方を見ると、同じ先祖返りのシン青年が立っていた。気を利かせたのか頭から布を被っているが、僅かに震える手にはまだ鉄の棒を持ったままだ。

「役付きに憑かれていたとわかっていても……目の前でそいつに全ての仲間を奪われたオレ達の気持ちは……」

 そうか。そうだな。

 罪を憎んで人を憎まずと警察でも言ったが、被害者の心中はそんなもので割り切れるものではなかった。愛する人を傷付けられた人、家族の命を奪われた人。たとえそれが不慮の事故であっても、簡単に許せるものでは無い。

 私にもその気持ちは痛いほどわかる。そしてここでは私達は『間に合わなかった人』なのだ。

 それでもやり返すのは許さない。

「シン、気持ちはわからなくもない。だがもし、もう役付きに寄生されていないこの男を討ったとしても何の復讐にもならん。お前が罪を背負うだけだ」

「……」

 いかにもおまわりさんの決め台詞のような安っぽい事しか言えなくてすまん。私は刑事なのだ。

「詫びて済む話で無いのは重々承知しているが……本当にすまん」

 蛇男が蛇男に跪いて頭を下げている。納得してくれたのかどうかはわからないが、シン青年は持っていた鉄の棒を落とした。からん、という音が耳につく。

「あんたのせいじゃないのもわかってるんだ……こんなのは大女王を倒して全てを元に戻さないといけないって事も……」

 うむ。これ以上の悲劇を避けるためにも、早々に大女王の元に行かねばならない。

 しばらく誰も何も言わなかったので、思い切って私が口を開いた。

「そうだな、今後の事もあるし、いっそ私が皆に指示を出させてもらってよいか? それともルピアから皆に命令を出すか?」

「いや、マユカに従う。指示を待っている」

 ルピアが返したのに、皆が頷いた。

 かなり気が重いが、密かに考えていた事を全て皆に伝える事にした。

「やはりシュレさんはここに残ってくれ。ニルア、サキ、リキ、ゲン、そして耳かき部隊、医療班もここでお別れだ」

「マユカ?」

 ざわっと声が上がった。しかし私は決めたのだ。そして、皆も指示に従うと言ったな?

「私とルピア、デザールから最初に一緒だった五種族代表の面々だけで、セープの王城へ大女王を倒しに行く。スイ君は師匠が上位幹部に憑かれていると言っていたので、内情に詳しい事から少しの間協力願いたい」

 本拠地王城は絶対に危険だ。非戦闘員である耳かき部隊やニルアを連れてはいけない。それだけでは無いのだ。

「ちょっとぉ、アタシも戦力外通知なわけ?」

 真っ先に抗議の声を上げたのはゲンだった。言いたい事はわかっている。その豊富な実戦経験と異常な身体能力は正直惜しい。だからこそなのだ。

「「そうです! 納得できません!」」

 鳥の双子もだ。

「ゲン、戦力外というより、非常に厄介な仕事を任せたいからなんだ。信頼しているからこそお前にしか頼めない。シュレさんもだ。サキとリキも同じ」

 私がそう言うと、ゲンは珍しく真面目な顔で私を見据えた。

「……厄介な仕事?」

「ああ。私達が発った後、残ったメンバーで下っ端に寄生されている近隣の村の人達を地道に解放して行って欲しい。万が一私達が城のほうで全滅する事があっても、お前達が正気のまま残っていれば向こうの大陸に残っているコモナやルミナ達に憑かれていた元幹部の強い面々と合流して第二陣として城に行ける。隠しておく切り札のようなものだ。また解放した人達や、ローアの部下、シン達のようなレジスタンスを纏めるには、素手で戦える強さが求められる。ゲンやシュレさんのように第一階級に選ばれたほどの男になら安心してそれを任せられる」

 一気に説明した私の顔を見て、ごついオネェと蛇顔の紳士は頷いた。

「そして、サキ、リキ。お前達は強さだけでなく獣化という特殊な力がある。その羽根で飛んで連絡を広範囲に伝達する事が出来る。ぜひ私達と残った者達との橋渡し役として活躍して欲しいのだ」

「「は、はいっ!」」

 双子ちゃんも納得してくれたようだ。

 ニルアをリシュルと引き離すのは正直気が重いが……頭がよくてしっかりしている娘に、ともすればカッとなりがちな男達を抑える役目をしてもらいたい。無事に終われば普通の学生として家に戻れる。そして向こうの大陸に残してきたマナやリール、軽部との電話での連絡係も頼みたいとの旨を伝えると、元第二階級最強のリリクレア様だった少女は可愛らしく微笑んで頷いた。

「はい。そういうことなら! 私もお役に立てるのですね!」

 さて、蛇青年はどうかな?

「そんな感じだが、シンもいいな。この仇の蛇さんを人一倍こき使ってやれ。自分の手でもう一度仲間を元に戻してもらうのを手伝ってやってくれ」

「はい!」

 よしよし。これで大体皆に納得してもらえたようだ。後は……。

「ゾンゲ、グイル、リシュル、ミーア、イーア。最初と同じ私達だけになる。命の危険すらある。もし抜けたいならここで正直に言ってくれ。責めはしない」

 この世界に来てすぐから、ずっと一緒に戦ってきた五人。本当に信頼しているし、ミーアやイーアが言ったように、もはや家族のような存在だと私は思っている。それ故に誰が傷ついても嫌だが、やはり背中を任せられるのは彼等しかいない。

「イーアは残ってローアの手伝いに行ってもいいんだぞ?」

「やだよ。ボクも最後までマユカと一緒に行くって言ったじゃないか。何て言ったって僕が魚族最強なんだからね」

「ミーアは?」

「今更抜けるもんですか。足手纏いにはならないから、一緒に連れてって」

 足手纏いなものか。他の男達も誰一人声を上げない。

「では、明日の朝一番に出発する」



 月の綺麗な夜だ。

 本当ならこの世界の人間ですら無い私が、偉そうに皆に命令を出し、その命運を決めてしまった事に強い罪悪感がある。なのに誰一人異議は唱えなかった。

 明日の朝早くに発とうと、皆夕食のあと準備を済ませて早々に寝てしまった。言いだしっぺの私は、やはり責任が酷く重く圧し掛かっていて眠れないので、そっとシンの小屋を抜け出して来たのだ。

 見張り櫓に登ると、濃紺の空に山の真っ黒なシルエット、月明りだけにうっすらと青く照らされた畑や家の屋根などの景色が遠くまで見えた。この村にはガス灯も無いが、彼方にぽつりぽつりと見える灯りは家の灯だろうか。どこか懐かしく、昔の日本を思わせる風景。

 しかし、似ていてもここは私の生まれたところでは無いのだ。

『ここは嫌いではない。この世界は嫌いじゃない。それでも……帰りたい』

 軽部の言葉が思い出された。

 私も帰りたい。あの代わり映えの無い世界に。

 そこに心から信頼できる仲間がいなくても、愛する人がいなくても?

「マユカ」

 ふいに声をかけられて横を見ると、いつの間にかルピアが座っていた。全然気がつかなかった。やっぱりこういうところが猫なんだな。

「寝てなかったのか。今日はルピアも頑張ったんだから疲れただろう?」

「それはこっちの台詞。マユカこそ疲れてるだろ?」

「……なんだか眠れなくてな」

 ふわっと温かい感触が頬に触れた。優しく、とても優しく。ルピアの手が今日ぶたれた所を撫でている。

「マユカ、顔の腫れ引いたね」

「ああ。たぶんお前のおまじないのおかげだな」

 こうして並んでるとやっぱり大きいな、ルピア。

 そっと肩を抱かれたのでそのまま頭を預けると、私の頭はルピアの顎の高さになる。柔らかい、金の猫毛が額に触れてくすぐったい。

「マユカは前に僕を守るって言ったけど、僕がマユカを守ってあげる。だから安心して。僕を信じて」

 ……うん。信じている。綺麗なだけで弱そうで残念で、だけど本当は誰よりも強い心の持ち主ですごい奴なんだって知っているから。

 ルピアは一番いい猫だから。

 結局、私が一存で決めた事に関してルピアは何も言わなかった。ただ二人でずっと身を寄せ合って座っていただけだった。

 触れ合った部分がほんのり温かい。もしも帰る時はこの温かさとも離れ離れになってしまうのだろうか。

 今はこれから戦う事よりも、その事の方が怖いように思えた。


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