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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
8/101

8:特殊処理部隊結成

 どか、ばき、ごき。


 戦闘……といって良かったのだろうか。

「弱い。弱すぎるぞ、コイツ等……」

 あまりの手応えの無さに、私は思わず溢す。

 相手は十一人いた。こっちの約倍のちょっとした団体さんだ。しかも各々が剣を持って武装しているにもかかわらず……からっきし弱い。瞬殺とまではいかなくても、せいぜい数分で片付き、立っている相手はいなくなってしまった。

「ぶう、僕の出番が無かったよぅ」

「アタシもぉ」

 暴れたかったらしいイーアやミーアまで回らなくて、ほぼ私一人でやってしまってすまん。出来れば私ももう少し手応えのある相手とやりたかったぞ。まだ日本の傷害事件の犯人の方が強い。

「コイツ等が弱いというより、マユカが強すぎるんだと思うぞ」

 一応一人づつは倒したグイルとゾンゲが怯えてる様に見えるのは気のせいだな。

「逃げられないよう縛っておきましょう」

 蛇男のリシュルが、気を失った男達に器用に縄を掛ける。その横で怖々の手つきで武器を集める鳥女と魚少年。

 昏倒したまま縄を掛けられた男達の中で、一人早く目を開けた奴がいたので近づいてみる。我ながら偉そうに顎で合図すると、ゾンゲがそいつを抱えて座らせた。

 三十代半ばくらいか。男。座っていても私の刑事スキャン……相手の特徴を瞬時に判断するちょっとしたスキル……で、大体の身長はわかる。百七十五という所だな。何となく犬っぽい顔をしているところから、犬族の人間だろう。ぼうっとした目つきは、気を失っていたからというだけでは無いとわかる。特徴だとイーアが言っていたように、額にうっすらと図形の様なものが浮かんでいた。痣というよりは軽い鬱血のような薄いものだ。

「おい、喋れるか?」

 一応尋問してみよう。これこそ私の本職だしな。

「オマエ、ナニモノダ」

 操られている男が虚ろな目で私を見て先に口を開いた。何だか機械音声のような不愉快な声というより音だ。

「こっちが訊きたい。お前達がヴァファムというもので間違いないな?」

「意志ハナ。体ハ違ウ」

 やはり寄生しているというので間違いないか。

「武器など持って、物騒な事だな。この寄生した体を使って村を襲う気だったのか?」

「ソウダ。ナカマヲ増ヤスタメ」

「増やす……」

 うう、生理的に絶対に受け付けない、虫が増える図を想像してしまった。卵産み付けてとか……だ、駄目だ想像するな私っ!

 気をとりなおして尋問の続きだ。

「村を襲ってどうする気だったのだ?」

「仲間ガ使ウタメノカラダ選ブ。弱イモノイラナイ」

「なっ!」

 思わず他の皆の顔を見てしまった。私は非常に驚きと困惑を浮かべていたつもりだったが、多分無表情のままだったろう。

 仲間が使う体を選ぶ? まるで人を乗り物のようにでも思っているのか? それよりもだ。弱いものは要らないだと? それは……つまり、殺すという事か?

『我々の世界では戦争でも武器で殺しあう事は無いのだ』

 ルピアはそう言っていた。だが、このヴァファムという奴らはもしかしてそれに躊躇が無いというのか? 身体的に弱い者といえば、女、子供、老人、病人……最も守るべき者達ではないか!

 この世界の危機……成程、コイツは確かにヤバイ奴等かもしれない。

「マユカ、少しはわかってもらえたか? ヴァファムがこの世界にいかに相容れない存在なのか」

 いつの間にか側に来ていたルピアの手が、私の肩に乗った。でも私はその手を振り払う事はしなかった。それどころかとても助かった。勢いに任せて、男にもう一度蹴りを入れそうになっていたのを堪えることが出来たから。相手は自分の意思で喋っているのでは無い、操られている一市民だというのに。そもそも警察官が尋問の相手に暴行を加えるなどあってはならない。

 とりあえず数が少なかったのもあるが、ヴァファムに寄生されて武器をもっている者も、倒せなく無い相手だとわかったのでよしとしておこう。

「それよりルピア。一つ訊いていいか?」

「何だ?」

「このように寄生されている人間は元に戻せるのか?」

 ルピアは誰も殺さないと言っていた。私だって嫌だ。皆、元は善良なはずの一般市民だからな。家族もいよう。しかし、もしも戻せないのならこの後どうすれば良いのかわからない。

 そんな心配は直後に答えたルピアの言葉で解消した。

「戻せるよ。寄生してるヴァファムの本体を体から取り出せばいい。だから宿主をあまり傷つけない素手で戦える君を召還したんだ」

「取り出す? 出来るのか?」

 うん、と小さく頷いて、ルピアが人差し指を顔の前で伸ばした。その爪がしゅっと細く伸びて、猫の爪どころでない長さになる。ほんの少し先端が曲がった形状。へえ、すごいな猫族。爪は伸縮自在なのか。それともルピアにしか出来ないのかな?

 にっこりと笑って寄生された男に近づくルピア。

「ヤメロ!」

 暴れるのでゾンゲとグイルのマッチョ組が押さえつけた男の耳に、ルピアは長くした爪を差し込んでむにゅむにゅやりはじめた。見ていて気持ちのよいものでは無いな。

「あ、ごめん。ちょっとひっ掻いちゃったけど……あ、いたいた」

 数秒後。ルピアが爪を戻すと何か小さな黒いものがころりと出て来た。掌にそれを載せて、私に見せてくれる。正直見たくは無かったんだが。

 それは丸い黒い虫だった。一見地味なてんとう虫の様に見える。足があるからまだなんとか見るのに許容範囲だけど……やっぱりキモっ。鳥肌が立ったっ!

「こいつは下っ端だな」

「うん、役つきじゃないね。だから弱かったんだ」

 覗きこんだ他の面々が口々に言う。何だ、その下っ端とか役付きって……と、その場はわからなかったのだが、後で聞いた所によると、ヴァファムは虫だけあって、頂点の女王の下にピラミッドの様に、キッチリした秩序の上下関係が築かれているのだそうだ。末広がりの最下層に位置するこの下っ端は、軍隊で言う最前線の一般兵だ。役つきと呼ばれる強い個体は、その寄生主を自分で選べ、その分身体的に優れた人間になる。そもそも寄生されている体が元々強いので、こんなに簡単に倒せる相手では無いという事だ。

 上位のヴァファムなのか下位なのかは、その虫の見た目でわかるらしい。そして、ほとんどの場合は耳穴に寄生しているため、このように簡単に取り出す事が出来るのだそうだ。

 虫を耳から取り出された男を見ると、ぐったりとしているが額の印も消え、顔色も悪くない。おお、目つきも正常になったぞ。

「気分はどうだ? 聞えるか?」

「は、はい! ありがとうございました!」

 声を掛けると、男は何度もペコペコと頭を下げる。ちょっと耳が痛そうだし、きっと血が出てるだろうな、可哀想に。しかし、これで希望は見えた。

「残りも何とかしないと」

「結構大変なんだよ。わりと繊細な作業だから。何かこう、道具でもあれば寄生主に痛い思いをさせず、虫も殺さずに取り出せるのだが……」

 どこから出したのか、ビンを手にルピアが肩をコキコキしている。虫はそこに入れておくのか。

 だが困ったな。仮にも王様のルピア一人にやらせるのもどうかと思うし、この先数が多くなったら……。

「ちょっと見せろ」

 他のまだ気を失ってる男の耳を覗いてみる。うっ。見たくない虫が見える以前に、耳掃除してやりたくなる汚れっぷりではないか。あーっ、掃除したいっ!

 私は耳かきで人の耳をこちょこちょ掃除するのが好きだ。これで結構上手だと評判よいのだぞ。上杉などは私の目が怖いといって断固拒否しやがるが、藤堂さんなどマイ耳かきを暇な時に差し出してくる。

 マテ。耳かき……?

 ぴきーん。閃いた。今、何か某アニメみたいに頭の中に白い閃光が走った気がする。

「ルピア、デザールに帰ろう。帰ったら数十人手先の器用そうな者を集めてくれ。医療関係者、理髪関係の者でもいい。あと、細かい木工細工の出来る職人もだ。特殊部隊を編成する」


 そして初の遠征からデザールに帰った翌日。私の元に注文の品が届いた。

「なかなか良い出来だ。さすが国一番の職人」

 これから来るべき大人数との戦場で役に立つアイテムを早速作ってもらったのだ。ルピアが手配してくれたのは王室ご用達の装飾品の木工職人。

「こんなものをどうなさるのですか?」

 職人が私に尋ねる。彼は注文通り作ってくれたがその用途はわかっていない。

「ん、この世界には耳かきという物は無いのだな。耳掃除は綿棒だけなのか……勿体無い。これはこうやって使うのだ」

 私が床に正座して、とんとんと膝に手をやって合図すると、藤堂警部似の猫族の木工職人……男、推定五十歳、尻尾がアメショ風……は恐る恐る私の近くに来た。

「寝転んでここに頭を乗せてみろ」

「え、ええ? いいんですか?」

「ああ。別に疚しい事をするわけでは無いから安心しろ」

 ビクビクしながらも、言われるままに私の腿に頭を乗せた職人。

 簡単に図に描いた通りに作ってくれた美しい耳かき。膝枕している職人の耳にいざ、イン。

 かりかり、こちょこちょ。うん、これはよく出来ている。使い勝手がとてもいい。ただ一つ残念なのは見慣れた後ろのホワホワのあれ……梵天が無いことだが、そこまで求めてはいけないな。

「はあああっ……なんて気持ちがいいのでしょう!」

「そうだろう。結構綺麗に掃除はされているが、これはハマるぞ」

 グレーのシマシマ猫尻尾がぱたぱたと床を叩いている。

 こちょこちょ。ゴロゴロ。うにゃん。へへへ、猫ちゃんは気持ちいいのに弱いな。後でメイドちゃん達にもやってやろう。猫耳をこちょこちょするのも良いかも! 尻尾も触らせてもらえるかもっ。そうだ、ゾンゲ氏の顔は全体に毛が生えてるから、たまらんいい眺めと触り心地かもっ!

 ……いやいや、萌えてる場合じゃなくて。

「これを他の種族の職人と共に大量に作って欲しいのだ。ここまで見た目にはこだわらなくていい。戦場で特殊部隊に持たせる。耳穴に寄生したヴァファムを殺さず、寄生された人を痛がらせずに効果的に取り出すために」

「それは……大変よい考えです、マユカ様……」

 終わって離れてからも、もっとやって欲しかったという目でうっとりして、ゴロゴロ喉を鳴らしているおっさんにゃんこがなんか可愛い。

「オホン」

 思いきり咳払いが聞え、振り返るとルピアが難しい顔で立っていた。

 他の男を膝枕していたのが気に入らなかったのか、それとも自分もやって欲しかったのか……王様はご機嫌斜めのご様子。

「お前もやってやろうか?」

「わーい!」

 ……ルピア・ヒャルト・デザール・コモイオ七世は非常に単純な男だった。


 私付きのメイドちゃん達を含め、二十数名に実地講習を施し、ここに以後戦場で大活躍する事となる、寄生から人々を解放する特殊処理部隊……『耳かき部隊』が結成されたのである。


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