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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第二章 新大陸編
75/101

75:猫の気持ち

 温かで心地よい日差し。時々吹く風は優しくて。

 ふわふわとろとろ、眠るでもなく起きるでもなく。

 おばあちゃんの匂いのする座布団の上で、縁側で日向ぼっこ。

 さわさわと背中を撫でる手。気持ちいい。もっと撫でて欲しい。なのに離れていく。

「にゃー」

 もっと撫でてと言ったつもりだったのに、私の口から出たのはにゃーという声。

 ……ん? 待て。私はなぜ猫になってるんだろう?

「お昼寝、起してゴメン」

 聞えたのは女の子の声だ。

 違う、完全に昼寝してなかった。もっと撫でて欲しかっただけなのに。

「にゃおん」

 頭を摺り寄せてみる。ぐりぐり。

 小さな手が頭を撫でてくれた。眠い目をあけてその子を見る。

 あ……。

 六~七歳かな、小学校一年生くらいだろうか。黒い真っ直ぐの毛を二つに縛り、あまり女の子らしくない水色のシャツにジーンズという恰好。ニコリともしないその顔は口をぎゅっと結んで、年寄りみたいな悟りきったような目で。子供なのにちっとも可愛くない。なのに放っておけない感じで。

 それは昔の自分だった。

 ああ、そうだ。学校が終わっても友達と遊ぶでもなく、剣道や柔道の練習に行くとき以外は、引き取られた叔母夫婦の家の縁側で、よくこうやっておばあちゃんの座布団で勝手に寝てる野良猫と過ごした。何を話すでも無く、気が向いたらすり寄ってくる猫を撫でて、ただ黙ってずっと。それだけで何か癒される気がしたのだ。

 撫でても迷惑そうにしているように見えた猫だったけど、そうか。こうやって撫でられると猫も気持ちが良かったんだな。

 変な夢……。


「マユカ」

 自分を呼ぶ声がして、緩やかに意識が浮上してきた。

 まだ先程の日向のまどろみの名残の中にいるようにふわふわしているし温かい。まだ目が覚めてないのかな。

 そっと目を開けるとすぐ近くで覗き込んでる目と視線が合った。エメラルドみたいな綺麗な緑。

「ルピア……」

 このふわふわした温かさはルピアの膝の上に身を預けて眠っていたからだとわかって、ようやく自分の状況を思い出した。そうだ結構酷くやられて……。

 身を起そうとすると、鈍い痛みが走った。太股が痛い。

「まだ、無理……しない、で」

 ルピアがまだたどたどしいが人間の言葉で喋ってる。

「ルピア、言葉」

「うん。戻れ、そう」

「良かった……」

 思わずその首に抱きついた。すごく嬉しい。

 そうだ、私は長い事気を失っていたのだろうか。まだ辺りは暗いが外なのか? コシノ達は? 小女王は?

「コシノとトミノは捕まえたわよ」

 ミーアがルピアの肩越しに覗き込んでいた。

「小女王はどうした?」

「まだ。マユカの目が覚めてからと思って」

「気を失うほどでは無いと思ってたんだが。結構時間が経ったんだろうか?」

「ううん、そんなには。猫王様と医師が痛みを和らげるために眠らせたのよ。もうかなり治ってるけど、まだ無理はしない方がいいわ」

 そうか。自分でもかなり深いとは思っていたが、がっつり刺さってたからな。ルピアに頼んで起してもらうと、立ち上がってもちゃんと足に力が入らなかった。とりあえず突っ張り棒で杖のかわりだ。

 もうお付の幹部を二人仕留めたんだ。小女王は自分では戦わない。だったらこの状態でも大丈夫だろう。というか……別に待っててくれなくても先に捕まえててくれても良かったのに。

「待たせてすまなかった、小女王を早く捕獲して街の人を解放しよう」

「それだけど……」

 ミーアが何か言いかけた時、

「すみません、すみません! 本っ当にスミマセンでしたっ!」

 同じ顔が走って来て、同時に土下座をした。それはコシノとトミノに寄生されていた双子だった。

 わあ……気の毒に羽根がすごく少なくなってるな。

「お前達のせいではないだろう。寄生していたヴァファムのせいなんだから」

「しかし、女性を傷付けるなど……すみません、すみません」

 どっちがコシノだったのかわからないが、随分と腰の低い宿主だったんだな。そういや、チャラ男のルミノに憑かれていたリールも本当は大人しい男だったな。鳥族の男って大人しいのが多いのかな?

 何だかんだで結構ボロボロになってる双子は、後で話を聞くとして。もう一度ルピア達の方に向き直る。

「別に私を待っていなくても小女王を捕らえてくれても良かったのに」

 そう言うと、グイルが難しい顔をした。

「その事だが、もう一回戦わないといけないかもしれない」

「どういう事だ?」

「コシノとトミノの情報で、病院には小女王の近くにもう一人上級の役付きがいるらしいんだ。だからマユカが目を覚ますのを待ってた」

「!」

 グイルとリシュルの報告に思わず耳を疑った。

 そんな。コシノとトミノの二人だけじゃなかったのか! 充分に考えられた事だが……そうか、女王から離れて二人揃って外に出てきている地点で気がつけばよかった。

「その役付きはどんな奴なのかわかるのか? 階級は?」

「いや、コシノとトミノは小女王の部屋には入れないから仲間とはいえよく知らないらしいのよ。ほら、前のルミノも女王の部屋には選ばれたオスしか入れないって言ってたじゃない」

 前回一緒に小女王の間に入ったミーアが言った。そういえばそんな事を言ってあいつだけ表で待ってたな。と言う事はその役付きは女なのか?

 ああ。こうなってしまうと怪我したのが非常に痛いな。

「どうする? 出直す?」

「いや、行こう。一刻も早く街を開放したい」

「そうこなくっちゃ」

 皆やる気満々だな。少しは休憩時間が出来て良かったのかな?

「早く片付けて温泉に入るわよぉ!」

 そういう目的だったのか。ま、いいか。

 何だろうな、もう一戦やらなきゃいけないはずなのに、そう焦った感じがしないのは。それが一番不思議だった。

 坂道を登り、小女王のところに向かう。ルピアに掴まって足を引きずりながらゆっくり皆の後をついていく。

 ルピアは調子が戻ったからか、随分と落ち着いて見えた。

「マユカ、いい夢、見てた?」

「うーん? いい夢なのかな?」

「穏やかな顔で、少し笑ってた」

 うっ、私が? そうだな……幸せな気分だったのかもしれないな。

「猫になってた」

「え?」

「ぽかぽか縁側で猫になって昼寝してる夢。ちっこい自分に撫でられてた」

 そんなおかしな話をしたのに、なぜかルピアは悪戯っ子のように笑った。

「猫の気持ち、わかった?」

「ああ。いいな、猫」

 やっぱり猫は最高の生き物だと思う。

 軽部にもらった突っ張り棒は、まったく本来の使い方をしてもらってないな。戦うだけじゃなく、今は杖代わりに使っているなんて。

「抱っこ、してあげるのに」

「いい。重いだろう、私は」

「ううん。女の子、だからね」

 女の子……子というのはどうかと思うぞ? 意味も無く恥ずかしい。

 長い坂を登り終えて温泉病院は目の前。

 ここにもう一人役付きがいるのか。一体どんな奴なんだろうか。気合を入れなおし、軽く足を動かしてみたが、まだ力が入らない。

「さて、これで戦えるのかな」

「俺達が頑張るさ」

「そうそう。マユカは監督してて」

 頼もしいな。まだゲンも入れて六人いる。何とかなるだろう。

「僕も、頑張る」

 言葉が出るようになって、呪文が言えるようになったからか、ルピアも張り切ってる。そうだな、一番頼りになるかもしれない。

 早く片付けて、小女王を捕らえよう。そして温泉に入ろうな、みんなで。

 だが、今までの役付きも皆強かったように、そう簡単に行くはずが無かったのだ。


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