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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第二章 新大陸編
68/101

68:死神の鎌

 長柄の鎌。柄だけで百五十センチはありそうだな。先の刃も非常に細長い。

 漫画などでは格好良くクールなイメージだし、黒ずくめの服装も相まって確かに死神のようにも見える。うーん、でも微妙。よく見るとなんとなく決まらないというか。これって牧草を刈るのに使う農耕具なのだろう。だったら一般市民が持っていても不思議では無い。古びた感じから見て軽部の工場で作られたものでは無さそうだ。

 どちらにしても、あれを振り回されると身に覚えの無い者なら大怪我だな。

 私がこいつとやりあう。過激派もリーダーを倒せば取り巻きも大人しくなるだろう。その間、後の戦士はローア派のレジスタンスと共に、殺す事無く村人を解放するという算段だ。こちらの軍勢は過激派から村人を守りつつ、下っ端も倒すという二つの敵がいるわけだ。だが、信頼する彼らになら任せられる。

「あぶないからいい子にして隠れてるんだぞ」

「うにゃん」

 茂みの中にルピアを下ろし、やや離れたところのゲンとリシュル、それよりも私よりに隠れているグイルに目で合図する。彼らは無言で頷いた。

 村人の命を奪われる前に、とっととやんちゃで済まない死神を止めなければ。

「行くぞ、ゾンゲ、グイル」

「ああ」

 隠れていた私達の仲間が一斉に飛び出す。

「村人を殺させはしない!」

 黒服の鎌男の前に出ると不機嫌そうに睨み返してきた。

「ああん? 何だお前ら?」

 若い死神の一派がリーダーを囲み、一気に賑やかになったからか、下っ端に寄生されている村人もそれぞれ武器を持って出て来た。再びキーンという警戒の音が村に響く。それを契機に混戦の火蓋は切って落とされた。

 一旦見せかけで過激派についたが如く演技していたローアの一派は、ゲン、リシュルとともに村人の方を制圧に行く。勿論殺すのも大怪我をさせるのも無しだ。

 殺傷能力を持つ武器を持っている過激派の団体も出て行きかけたが、私、ゾンゲ、グイルで止める。

「畜生、出遅れちまったじゃねぇか。邪魔すんなよ」

「邪魔をしに来たのだ。いかにヴァファムを倒すためとはいえ、無駄な命を奪う事は許さん」

「フン」

 私の言葉に、鎌男は鼻で笑いやがった。

「俺達は害虫駆除をやってるんだぜ? 許さねぇも何もよぉ」

「命を奪わなくとも寄生は解ける。元は普通の人達だ、殺人だぞ」

「あー、面倒な事言ってんじゃねぇよ。邪魔するんなら容赦しねぇ」

 駄目だ、コイツ。ゲンちゃんではないが、やはりお灸を据えてやらねばな。

「容赦しないのはこちらだ!」

 あ、早くもキレそうになってるゾンゲが動いた。黒服を取り囲んでいた取り巻きがそれぞれ剣や槍を持って囲む。

「やっちまえ!」

 リーダーの命令で戦闘開始だ。

 十人ばかりいるといっても、ゾンゲとグイルに任せておけば大丈夫だろう。軽くひねっておいてやってくれ。

「あんたは俺の鎌の錆にでもしてやるよ!」

 問答無用で鎌を振り下ろしてきた男。

 だが、所詮素人。簡単にかわすことが出来た。ここまでヴァファム上級幹部に憑かれていた尋常で無い速さとやりあって来たのだ。その軌道はスローモーションにすら見える。

「へえ、おばさんのくせにいい動きじゃねぇか」

「なっ……」

 お  ば  さ  ん 。

 きーさーまー。私はまだ二十代だぞ! 独身だぞ! いかに若いといえどおばさん呼ばわりとは……。

 頭に来た! レディに言ってはならん事を!

「許さん!」

 思わず短いままの突っ張り棒で突きに行く。しかし得物の長さが違いすぎる。鎌の柄で止められ、そこで私ははっと我に返った。

 いかんいかん、頭に血が上った状態でマトモに戦えるわけない。冷静になれ冷静に。

 再び斜め上から鎌が振り下ろされるも、それも躱すとすかさず下から薙ぐように上がってくる。飛んでかわし、隙を見て突っ張り棒をやや伸ばした。

「ちょこまか逃げてんじゃねぇ」

 この男、今まで素人相手にやりたい放題だったのだろう。一向に攻撃が当たらないのが気に食わないらしい。

 ちら、と辺りを見るとグイルが豪快に剣を持った若者を投げ飛ばし、何人かはゾンゲにやられたのか引っ掻き傷を負ってへたり込んでいる。

 村人の方も問題ないだろう。さて、こっちも集中しないとな。

 大降りしても当たらないと見たか、ひゅんと風を切る音と共に、草を薙ぐように足元で振り回される死神の鎌。当たれば足の一本くらいは切断されそうだ。

 何度も襲って来たが、悉く躱してやると若い顔が鬼のように変わった。

「くそっ、何なんだよ一体!」

 焦ってるな。ここまでやって来て、長い柄の鎌は懐に入ってしまえば簡単に攻略できるともう算段はついた。だがもう少し精神的に揺さぶってやろうという、少しばかり意地悪な考えもあるのだ。

 刑事として、やんちゃ坊主の度が過ぎた愚行がもたらした犯罪の現場をいくつも見て来た。自分が全て正しい、強い者が正義。彼等のそんな認識や自信は、本当の痛みを知らないからこそというのが多かった。刃物で相手を簡単に刺せる奴は、刺される痛みを知らない。意識が無くなるほど人を殴れる奴は、本気で殴られたことが無い。

 目の前のコイツはその鎌で切られた人達の痛みを知らないのだろう。そうでなければ、いかに寄生されていても生きた人を草のように簡単に薙ぎ倒せるわけが無い。一度でいい、思いきりの敗北感を味わうといいのだ。

 わざと力を抜いたように立ち止ってみる。勿論、ただつっ立っているわけでは無い。合気道で言うところの半身の構えだ。

「死ねっ!」

 びゅん、と斜め上から私の肩口を狙うように大きく振り下ろされた鎌。重い長柄ゆえに両手で持つ形だ。

 軽く体をひねってかわし、地面に突き刺さる勢いでギリギリのところを掠めた鎌を持った肘を掴む。

「わぁっ!」

 余程の力を籠めていたのだろう。見事にくるりと回り、腰から地面に叩きつけられた男は、受身もろくに身につけてはいない。さて、そろそろ……。

「くそぉ……俺がおばさんに負けるなんて!」

 このっ、貴様この期に及んでまたおばさんと言うか!

「にゃーにゃにゃにゃにゃー!」

 こら、ルピア隠れてろと言っただろう! 何出てきてるんだ。

 多分、私がおばさん呼ばわりされてるのに抗議してるんだろうが、危ないからまだ引っ掻いたら駄目だ。

「ってぇ、何だぁ? この猫」

 逃げろ、ルピア! まだ鎌を取り上げていない!

 鎌を杖のようにして、男が立ち上がる。その目は私でなく真っ直ぐに金色の猫だけを見ている。

「ふーっ!」

 毛を逆立てて威嚇するルピアは逃げようとしない。

「ルピア! 危ないから逃げてろ」

「お前の猫か?」

 にやっと男が笑い、再び鎌を振り上げた。狙いはルピアだろう。

「させるか!」

 突っ張り棒を投げ捨て、思いきり鎌を持った手にとび蹴りを喰らわせた。手から離れた鎌が落ちるのに、慌ててルピアが飛び退る。よしよし、流石は猫だ、いい動きだぞ!

 すかさず素手になった男に組みに行き、渾身の背負い投げ。

「ぐはっ!」

 あっけなく伸びた男は、そういえば受身もマトモに出来無いんだった。打ち所が悪くて死んでないよな?

「にゃんにゃぁ?」

 つんつん、軽くルピアが確かめるように男をつついている。うーんと唸り声が聞えたので、大丈夫みたいだな。

「お仕置きにそいつに爪を立てて猫パンチしていいぞ、ルピア」

「にゃん!」

 すっごく嬉しそうにバシバシやり始めたルピア。

 おばさん呼ばわりしやがった死神モドキは、ルピアにゃんこの玩具と化した。

 ……ざまあみろ。


「こっちは片付いたわよぉん」

「こっちもな」

 ヴァファム担当のゲン、リシュル、過激派担当のグイルとゾンゲが報告に来た。ミーア、イーアに付き添われたローアもやってきた。

 村人の耳から下っ端を取り出し、普通に戻った人々は何度も礼を言う。その様子を見て、ローア派の者たちは酷く感激していたが、過激派の目にはどう映っているのかはわからない。

 その過激派達には一応縄を掛けてある。

 鎌を取り上げられ、ルピアの猫パンチでボロボロになっているリーダー格に、ローアが優しい口調で語りかける。

「このように、命を奪わなくとも解放できるのです。元々志は同じ。僕達もこの方々を見習って、穏やかに元の生活を取り戻しましょう」

 その言葉は何の返事もしなかった死神気取りの男の心に届いただろうか。

 まあ、診療所に連れて行ったらヒミナ先生が説教してくれるって言ってたしな。

 これで大人しくなってくれれば良いと思う。


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