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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第二章 新大陸編
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64:もう一つの鉄仮面

 死相だなんて縁起でも無い事を……。

 凄い先生だと聞いていただけに、その言葉が私に酷く重く圧し掛かった。

「や、やだなぁ。僕はこんなに元気なのに。マユカからも言ってよ」

 女医さんから逃れる様に、私の後ろに身を隠したルピアの手はこころもち震えているようにも思えた。

 確かに、私の代わりに攻撃を受けたり、すごい大技の魔法を使ったりして今日は一度の魔力補給で目覚め無いほど疲れ果てていた。それでも馬車に乗った頃からは異常に元気に見えているのだが。

 なんとなく可哀そうな気もして、言われるまま私もルピアの擁護に入る。

「あの、先生? ルピアは魔力補給もしたし、この通り元気ですけど?」

 それでも女医さんは難しい顔で首を振る。

「見た目は元気そうに見せてるけど、彼はボロボロよ。医者の目は誤魔化せないわ。猫は人に弱味は悟らせない名人なの。放って置いたらそのうち人目に付かないところで突然倒れて死ぬわね」

 何を言ってるんだ先生。でもそれは……あり得過ぎて怖い。

 考えてみたら、私を含め他の者は怪我をしたりする度に医者に診てもらっている。なのにルピアは一度も診てもらっていないかもしれない。それはひょっとしてわざと隠そうと逃げていたのだろうか。

「いい機会だ。一度ちゃんと診てもらえ」

 私の後ろに隠れていたルピアを差し出すと、先生の合図で看護婦さん数人が現れた。

「こ、怖い」

 今ルピアは人の姿なのに、なぜかへにょんとなった尻尾が見える気がした。そのくらい怯えているのがわかる。

 囲まれてガッシリ捕まったルピア。

 いいじゃんルピア、お前女の人が好きだろう。ナースって萌えなんじゃないのか? ま、なぜか結構年かさの女性ばかりだけど……。

「ウフフ、隅々まで調べてあげるわね」

 女医さんも看護婦さん達もなぜか非常に嬉しそうだ。中身は残念だが見た目だけは稀にみる極上の美男だからな。

「よくお姉様方の言う事を聞くんだぞ。先生、ブスッと注射でもしてやってください」

「わーっ! 嫌だぁ、助けてマユカー!」

 白衣のアマゾネス達が、悲鳴を上げるルピアを強制的に検査室に引き摺っていく。

 じたばたしているルピアの様子は非常に元気そうに見える。先生は深刻そうに言ったが、きっと何事も無いだろう。それに部屋の中と外なので大丈夫だと思い、ルピアを任せて私は表で待っていることにした。


 議事堂のほうも気になるし、ミーア達を預けて今日中に帰ると言ってあったから、あまり遅いと残っているグイルやゾンゲは心配するだろうか。

 だが、万が一本当に先生の言うようにルピアが入院という事態にでもなったら、私も一緒にいないとマズイ。それこそ本当に死んでしまいかねない。

 さあどうしようと思っていたら、待たせてあったゲンとニルアが指示を欲しいと詰め寄って来た。なぜ私に……と思わなくも無いけど、病院というのはどこも悪くない人間には退屈なところではある。

「そろそろ戻らないとマズくなぁい? 首都のほうも大変だろうし」

「ああ……その事だが」

 ルピアの事、ひょっとしたら私は動けないかもしれないと言う事を告げると、ニルアが先に自分達だけで戻ると言ってくれた。

「あらん、蛇のお兄さんの側にいたいんじゃないのぉ?」

「び、病院ですし、ご無事がわかったので」

 ニヤニヤ不気味に笑ったゲンちゃんにニルアが真っ赤になってるのが可愛い。

今更だが、ここに来る前にルピアが言っていた意味が私にもわかった。ふ~ん。なるほどぉ。いつの間にそういう関係になってたんだ。なかなかやるな少女。

「では、イーアは私と一緒に置いておくとして、二人は先に帰ってくれるか? 議事堂周辺は抑えたとしても、まだこの国はかなり危険な状態にある事は確かだ。下っ端だけならいいが、ひょっとしたら周辺から他の役付きが第一階級を奪還に来る事も考えられる。途中で会った過激な少年達のような動きも気になるし」

「了解よぉん」

 私が言うと、ゲンちゃんからすぐに返事が返ってきた。彼は頭も切れるみたいだし、わりと物分りがいいのでやりやすい。傭兵としての経験が長いからだろうか。オネェなのはともかく、こういうのが一人いてくれるととても助かるタイプだ。きっといい刑事になれると思う。

 三日後にこちらで合流する旨ゲンとニルアに打ち合わせをして、別れ際。

「あ、待って! ボクも一緒に行く!」

 慌てたようにイーアが走って来た。

「お兄さんは? イーアは私と一緒にもう少しお兄さんといてもいいんだぞ?」

「その兄ちゃんが早く行けって。もういっぱい話せたし、思ったより元気そうだったから。自分はいいから少しでもマユカの役に立てって」

 なんかせっかく久しぶりに会えたのに気の毒な気もするけど。わりとあっさりした兄弟関係なんだな。それとも信頼しあってるが故なんだろうか。

 まあいい。兄弟がいいと言うなら、向こうは一人でも人手があったほうがいい。いざとなったら下っ端くらいなら大人数相手でも一撃で気絶させられるイーアは、グイルとゾンゲが完全で無い今は頼もしい存在だ。

「ではイーアにもお願いする。まあ三日後にもう一度会えるから」

「わかった!」

 というわけで、入院となったミーア、リシュル、私、只今検査中のルピアを残して、幌馬車は議事堂に帰って行った。


 少し間を置いて、私も病院ですることも無く退屈になって来た頃、女医さんに呼ばれた。

「どうでしたか?」

「あの猫の坊やはしばらく入院してもらうわ。やっぱり他の二人とは比べ物にならないくらい状態が悪い。少なくとも十日は安静が必要」

「そんな……」

 三日どころか十日とか宣告されてしまった。

「心配しなくてもこの診療所はそれなりに設備も整ってるし、ヴァファムの手も及ばない。心配なのはわかるけど金髪子猫ちゃんもちゃんと看てるから置いておいても大丈夫よ?」

「いや……ルピアと私は離れられないんだ。私も一緒にいないと……」

 この先生はすごく信用出来そうだ。思い切って私がこの世界に来た経緯を先生に話してみた。

「……召還ねぇ。噂には聞いた事があったけど……そう、あなた達が猫族のデザール王と伝説の戦士なのね。そりゃ禁忌の技を使えばあの状態も納得いくわ」

 治癒魔法の大家だというだけあって、魔法に詳しい先生は溜息をつきながら何度も頷いた。そんなに凄いことだったのか。

 それよりも十日以上って……そこまで私が足止めされるのは厳しい。

「ルピアはそんなに悪いのですか?」

「何というか……命を削って行ってるとしか。表向きはわからないでしょうけど、内側から徐々に崩れて来てるって感じね。本当は全身夜も眠れないほど痛いだろうし歩くのも厳しいくらいよ。誤魔化すために制御の魔法を無意識に自分にかけてるの。だから魔力の減りが通常より早いのよ。本当ならもっとすごい魔法を使える素質を持っている筈だわ。それに珍しく獣化の変身が出来るそうだけど、あの歳なのに子猫にしかなれないというのは非常事態なの」

 命を削ってる――――誤魔化すために自分に魔法を――――。

 何てことだ。いつも愛想だけは良くて、頼りないのかすごいのかよくわからない、口を開けば冗談ばっかりで……。

 私と一緒じゃないか。私は悲しくても嬉しくても怒っていても顔に出ない。だが、ルピアは自分が辛いのを見せないようにいつも笑って、他の人の心配ばかりして。本当はもっとすごい事が出来るというのもその片鱗を見せてくれた。だから信用できる話だ。

 ルピア……

 鉄の仮面を被ってたのは私一人じゃ無いじゃないか。

 そう思うとルピアが無性に愛おしく、健気に思えた。本当は全然残念なんかじゃない、そこまでしてこの世界の人達を救おうと必死になっていたなんて。

 そして先生は言った。

「今は薬で眠らせてある。起きるまでそっとしておいてあげて。きっと貴女の顔が見えたら意地を張って、また何でもないフリをすると思うの。距離が開かないギリギリのところにいて頂戴」


 ミーアとリシュルの様子を見に行ったり、病院の中を散策したりした。それ以上離れると流石にマズイので、診療所からは出られない。元々ベッドの数も少ないが、外の状態が状態だけに入院患者は案外多く、ほとんどがお年よりや子供で、私達の一行やイーアの兄のローアの様な歳の者は珍しいのだそうだ。

 女医さん……ヒミナ先生はこの建物の一角に住んでいる。私もそちらにお世話になることになった。三十代半ばの美人の女医さんとは、何故か非常に気が合った。先のミーアとの話じゃないが、こんな姉が欲しかったと思う。

「まあ私も治癒魔法を使う医師として、極力頑張るから。そう心配しないで」

 ヒミナ先生も言ってくれたので、任せるしかない。

 だがあの小さな可愛い子猫を抱っこ出来無いのは非常に寂しい。

 夜、海が見たいと思い中庭に出た。

 もう夜も更け、明かりは煌々と冴える満月に近い月の光だけ。病院の夜は早く、既にほとんどが寝静まって静かだ。

 ルピアをこっそり覗きに行くと、静かに眠っていたので部屋には入らなかった。

 海風の気持ちいい中庭を歩いていると、奥の裏庭の方で大勢の人の気配がした。まさかヴァファムの下っ端が攻めてきたのかと思ったが、どうもそういう感じじゃない。電子音のような不快な音でなく、はっきりした人の言葉で話す声が微かに聞こえてきた。

「武器は随分集まりました」

「皆とてもやる気になっています」

「あまり無理はしないでくださいね」

「数人死なせてしまった者もいますが……これも仕方が無いと思います」

「虫つきといえど、元は大事な隣人達。傷付けても命を取るのは最小限に留めてください」

 ……この会話。

 そして、皆が敬語で話している主要人物の声に何となく聞き覚えがあった。

 私はそーっと気配を殺して、様子を伺うべく近づいた。

 月明りに照らしだされた芝生の庭、数十人の若い男女が剣や槍を手に集まっている。その中央にほっそりした人影が杖をついて皆に指示を与えるように立っていた。

「決起の日は近い。それまで皆さん、それまで無事に逃げ通してください」

 穏やかに微笑んだ反ヴァファムの集会の首謀者と思しき人物。

 それはイーアの兄のローアだった。


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