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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第二章 新大陸編
61/101

61:鞭のようにしなやかに

 ルピア……

 振り返る間など無いが、幾ら防御の魔法を使っていてもかなりのダメージがあっただろう。鍛えているグイルやゾンゲですら一撃でやられるような攻撃を喰らったら、あんな生白い体などそう持ちはしない。

「ふふぅん、面白いことするじゃないの。身代わりなんてさぁ」

 ルピア、お前が私の心を読める事を前提に考えるが、あまり無茶はするな。守ってくれるのは本当に感謝するし信頼もしている。だがお前が辛い目に遭うのは嫌だ。まだ自分が痛い方がいい。

 私は間を置かずに打ち込む。案の定すいすいと躱される。マキアが笑みすら浮かべているのがムカつくし、躱されて当たり前と思ってしまっている自分に気が付いて更に腹が立った。

 マキアは桁外れに早い。それでもここまでコモナやリリクと戦ってきたのは無駄にはなっていないはずだ。向こうでも毎日鍛錬して来たつもりではあったが、やはり実戦に敵うものは無い。少しくらいは私の実力も上がっていると思う。

 マキアが動いた。全神経を集中すれば、動きを読める。

 しゅっと音を立てて首元を薙ぎに来た鉄扇を、私は半身返して避ける。マキアの手首を掴もうとしたのは叶わなかったが、開いた脇にもう片方の手で持っていた突っ張り棒の突きはお見舞いできた。その見返りに、軌道の変わった攻撃は私の目の前を掠め、僅かに躱しそこねて、頬に微かな、ぴりっとした痛みが走った。

 すこし血が出たかな。まあカミソリで切った程度だ。

「あらぁ、女の顔に傷をつけても眉一つ動かさないのねぇ」

「こんな表情もかわらん顔など惜しくも無い」

「アンタ、女って感じじゃないわねぇ。胸もそんなに無いしさ」

 ……放っておいてもらおうか。微妙に気にはしているのだ。

 今までの幹部もそうだったように、上位になればなるほど個性も感情面が豊かだ。人間と変わらないと考えた方がいい。

 ……オネェの思考……。

 そういやお仕事柄、夜の商売の方々でわりとこういうオネェタイプには接する機会があったから私は慣れているかもしれない。肉体的に異常に強いのは別として。そう思うと少しは怖くない気がする。こんな時だがちょっと実験。

「その胸板は私より豊かで羨ましいな……」

「あらぁん、いいコト言うじゃない」

 あ、マキアがご機嫌そうな顔でにやっと笑ったぞ。うむ、外からが駄目ならリリクの時のようにメンタル面から攻めてみるとか?

 そう思っていたのに、思わぬ邪魔者は味方側にいた。

「マユカ、僕は胸が無くても腹筋割れてても気にしないって言っただろ!」

 ルピア、そういうのは今大きな声で言ってくれなくていいから! しかも褒めてないし!

「ノロケちゃってんじゃないわよ!」

 ほらっ、マキアが怒ったし! やっぱり残念だなお前!

 思いきり乱れ打ちのように扇が翻る。そう何度も躱せないが、光の壁が出現して、マキアの攻撃は当たらなかった。ルピアだ。

「うあ……っ!」

「やん。極上の綺麗なコが苦痛で顔を歪ませてるなんて、いい眺めぇ。子猫ちゃんも可愛かったけどぉ、ますます欲しくなっちゃったぁ」

 ヤバイ、半分自業自得とはいえあまり続くとルピアがもたない。何とか早く決着をつけないと。

 一旦数メートル引いて体勢を立て直す。余裕を見せているマキアは追っても来ない。

 脇、顎、膝裏など鍛えようの無いポイントを責め続ければ効果はあるのだろうが、懐に潜り込む度に切られては、多分こちらも持たない。仮にルピアが守ってくれても彼がダメージを受ける。

 そうだ、さっきどんな打撃攻撃も蹴りも効かなかったのに、ミーアの鞭はよく効いた。ここに攻略のポイントがある気がするのだ。

 渾身の力をこめて突いてもだめだ。鞭のようにしなやかに、こちらに力の入ってない状態……。

 よし、見えた。勝てる……かもしれない。

 ルピア、聞えるな。横にいるイーアに伝えろ、合図をしたらマキアに向かって流星錘を放てと。

 ふぅっと、思い切り息を吸い込んで私はマキアに言い放つ。

「ルピアは私の猫だ。お前なんぞにくれてやるか。この不細工なオカマっ!」

 突っ張り棒を捨て、こちらから行くのでなくおいでおいでしてみた。マキアイア、怒れ、そして乱れろ。

 ちらと横を伺うと、すでに錘を回していつでも放てる体勢を整えているイーアが見えた。よし、ルピアはちゃんと伝えてくれたんだな。更にマキアを煽ってみる。

「そんなものをひらひらさせても、ちっともお前の舞は綺麗じゃない」

「きぃっ! このアマ、言わせておけばっ!」

 マキアは真っ赤な顔で突っ込んできた。よし来い!

 真中に気を集中する。

 体はやや斜めに、足の親指に力を込め、前に出した足は真っ直ぐ相手に、後ろに一歩下げた足はやや横を。前と後ろの足の親指は一直線上になるように。腕は肩の力を抜き自然に肘を曲げ、指先まで神経を集中する。半身の構え。

 薙いでは来ず、閉じた鉄扇をナイフのように突き出してきたマキアの動きが見えた。思った以上にいい感じに来たな。

 すい、と更に身を開き、その手首を、肘を掴む。そして捻る。

「いたたたっ!」

 私は力は入れていない。マキア自身の攻撃の勢いをそのまま生かしただけだ。相手の攻撃の力を利用し、こちらの攻撃力に変える。これは合気道の基本。そういえば合気道の技はこちらの世界で初めて使う気がするな。これでもほかの武道と共に、結構鍛錬して来たのだぞ。

「今だ!」

 私が合図をすると流星錘が勢い良く飛んできて、片膝をついているマキアの首に巻きついた。上手いぞイーア!

「出力最大っ!」

 私が慌てて手を放して飛び退くと、昼間で明るいにも関わらず、マキアの全身が光って見えた。

「ひぎゃあああ!」

 耳を塞ぎたくなるような悲鳴が上がる。効いたな。うん、効いたみたいだ。なんか髪の毛から煙が出てるような気がするんだけど。

 しかし、流石はヴァファムの最高位の役付き。そして余程丈夫な宿主なのか、気を失いはしなかった。白目が血走り、ぴくぴくと筋肉が痙攣しているのが見えるにも関わらず、ボロボロになったオネェは立ち上って首に巻きついた細い紐を握った。

「……このチビ……」

 マズイ。まだ動けるなんて。

「イーア! 紐を放せ!」

 叫んで飛び出し、私も止めようと紐に手を出したがまだ残っていたビリビリにはじかれた。よりしっかり電撃を送るためにか、自分の手にも巻きつけていたらしいイーアは紐を解くのに間に合わなかった。

「わーっ!」

 細い紐でも強度はある。軽い小さな体は凧のように振り回され、石畳に叩きつけられた。

「イーアっ」

「……大……丈夫」

 イーアは上手く受身は取ったようだが、背中は強打したみたいだ。

「くそっ!」

 まだ僅かにビリビリするマキアの体にとび蹴りに行った。相変わらずの硬さでやはりダメージは感じられない。いっそ組んで投げようとも思ったが、膝を抱え丸くなられては柔道技は使えない。

 くそう、イーアの電撃でも駄目か。どうやったらとどめをさせる? もうかなり弱っているとはいえ、動きを完全に止めないと寄生している虫を取り出すことが出来無い。

 攻めあぐねている私に横から声が掛かった。

「……任せろ」

 今まで散々攻撃を私の代わりに受け、しゃがみ込んでいたルピアがふらっと立ち上った。

「ルピア?」

「イーアまでやられた今、僕もいい加減本気を出さないと。あ、でもとどめはマユカに頼むよ」

 何を言ってる? 本気って……もう顔色は蒼白だし、ボロボロじゃないか。

 とどめと言われても……そうだ、鞭の件で考えていた方法!

 ルピアが手をこちらにマキアのほうに向け、何か呟いている。その緑の目が青白く光っているように見えた。

「立て」

 ぞくっとするような声だった。いつものあの残念な男の声じゃない。

 丸くなっていたマキアがふらふらと立ち上った。

 いつものあの守りの魔法の印が三つ現れ、檻のようにムキムキオネェの体を挟み込むように集まる。まるで籠に閉じ込めるように。

 す、すごい。こんな事が出来たんだルピア!

「……長くは使えない。マユカ、とどめを」

 拳でだめなら平手だ! 鞭に近いし!

 ばし、ばしっと動けないマキアの頬を打ってみる。

「きゃん!」

 しなやかに、鞭のように。手首のスナップを利かせて、柔らかく、尚且つ強力に。コイツの鋼の筋肉の体には、渾身の力の攻撃よりも、表面だけを攻めていくほうが効くようだ。ようし、往復ビンタだ!

 ばし、ばし。これはミーアの分。

「やん!」

 ばし、ばし。これはゾンゲとグイルの分。

「あんっ!」

 ばしばしばし。これはリシュルの分。

「ひんっ!」

 ばしばしばしばしばしっ。これはイーアの、ルピアの分。

「なんか……絵的に最悪……」

 そんな声がどこからか聞こえた気がするが気にしてはいかん。

 ばしーん。これは私の分だ!

「……」

 あ、マキア伸びた。

 そしてルピアも力尽きた。


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