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鉄仮面な伝説の戦士は猫がお好き  作者: まりの
第一章 五種族の戦士編
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6:責任をとる?

 目の前に跪く五人をただ見下ろすしかない。

「顔色一つ変えず、見事な動きだったな」

 何故、何もしていないあんたが得意気なのだルピアさんよ。

「マユカに協力する事に誰も異議は無いな?」

「はっ!」

 いや、その……。

 皆の私を見る目が変わった事は言うまでも無い。妙に丁寧に、恐る恐る話しかけられる事になったのも。

 不本意ながら、私は『伝説の戦士』として認められてしまった様だ。


 その後、世界の各地の現在の状況や敵の情報が報告された。聞き慣れない単語や地名が多様されており、何の事やらさっぱりわからないので、真剣に聞いているフリをして半分寝ていた。勿論真顔で。署の会議でもいつもこんな感じなので慣れている。今まで実は居眠りしていたというのがバレた事が無いのが自慢だ。そんな事は自慢にもならんというツッコミはいらん。

 とりあえず私は着替えたい。そしてお腹が空いている。その上に眠いし、時間の感覚も怪しいけど、職場の方がどうなってるのかも気がかりだ。帰れたはいいがクビではたまらん。ここまで何回試験を受けてきたと思う。キャリアじゃないから叩き上げで来たと言うのに。

「では、後ほど」

 誰かの声で、顔合わせと会議が終わったのだと知った。気がつくと戦士達は部屋を出て行く所だった。

「マユカ、後で稽古をつけてくれ」

 ゾンゲ氏が渋いお声で言う。人の事は絶対に言えないが、豹の顔はイマイチ表情が読み取れない。だが真剣そのものの印象を受けた。真面目そうだしな、彼は。

「それは良いが……私は武道しか知らん。本物の戦争の現場で役に立のかなぞわからんぞ」

「武道?」

「……気にするな。朝でいいな」

 そうか、こちらの世界では武道という概念が無いのかもしれないな。

 マテ、ここは異世界だろう? そもそもなぜ言葉が通じているのかという基本から疑問を持ったほうが良いのだろうか?

「マユカは神に選ばれた者だから、言葉がわかるのだ」

 ルピアが馴れ馴れしく私の肩に手を置いている。しかもまた人の頭の中を読みやがったな。

「……投げるぞ」

「勘弁。ほ、ほら。着替えも用意させるし君の部屋に案内しよう」

「私の部屋?」


 城の中はヨーロッパの宮殿のように華美では無いが、大理石調の床や、高級ホテルを思わせる質の良さそうな物で占められている。

 私の部屋と言われた部屋は、広さはそこそこでもかなり豪華なものだった。何だ天蓋のついたベッドって。しかも……。

「お困りの事がございましたら何なりと私達にお申し付けください」

「うむ……」

 メイドさんみたいな可愛い娘が二人。うおお、尻尾が……。頭にネコ耳ついてるしっ。キジトラちゃんとロシアンブルーっぽい。さ、触りたい! だがメイドちゃんにいきなり触るのも変態みたいだしな。

 大好物を目の前に我慢をするのも結構しんどいものだな。ある意味拷問だ……朝ゾンゲ氏の尻尾をもふもふさせてもらおう。

 シンプルなワンピースっぽいのに着替えさせてもらったが、正直スカートは履き慣れない。いつも職場ではパンツスーツ、家ではジーンズがジャージだ。あースカスカする。まあ、あの太股丸出しよりはマシだろう。

「お食事をご一緒にとルピア様がお待ちです。」

 えええ? あいつと一緒に食事。勘弁してほしいがお腹は空いている。この際我慢という所だ。まあいい。訊きたい事もあるしな。

 無駄にでかいテーブルに、真っ白のテーブルクロス。白い皿も眩しく料理が鎮座。ナイフやフォークは見慣れた形をしているのが不思議。人の姿が大体似てて、使う用途が同じなら道具も世界は違っても結局同じ様な形に進化していく物なのかもしれない。

 金髪美形と向かい合って黙々と食事。味付けは薄めでそこそこ美味しい。魚料理がメインなのがいかにも猫の国っぽい。もう少し野菜も食べたいところだが空腹も満たされたので気分は良くなった。

 素朴な疑問を王様に聞いてみる。

「なあ、誰でも人型になったり猫になったり出来るのか?」

「いや、こちらの世界でも変化出来るのは今のところ僕と数人だけみたいだ。マユカを迎えに行った時について来た者は、城の兵士と魔道士達で、こちらでは普通に人型をしている。面白い事に君の住む世界へ行った途端に全員が猫になる。人語も操れない」

 ふむ。興味深い。そしてルピアは頭は残念だが、実は結構すごい奴だったのか。王様だしな。

 だが、もう一つ疑問がある。ルピアは人型の時は結構な青年であるのに何故変身後はヨチヨチ子猫なのだ? 可愛さをアピールする狙いでも?

「あー、それね。向こうでは子猫のほうがカサが低いしお供にも魔法をかけたんだけどね。僕にも良くわからないのだ。以前は普通の年相応の猫の姿だったのに、どうも空間と次元を超えるのに大量の魔力を消耗したからかもしれない。困った事に子猫にしかなれなくなった」

 いいんだけどもね。子猫。超ラブリーだから。

「……逆に向こうの世界の猫を連れてきたら人になるかもな」

「連れてくるなよ。ところで、私はちゃんと戻してくれるのだろうな」

「心配するな。契約が完了したら帰す」

 心配するなと言われてもなぁ。

「帰ってクビになっていたらどうする?」

「その時は責任は取る」

 などと、どうでもいい話をしただけでお食事タイムは終了した。

 責任をどうとってくれるのかは、もう考えない事にする。仕事以外、どうも私はあまり執着がないみたいだ。恋人がいるわけでもなく、自立した今は育て親とそうそう密にやりとりしている訳でもない。今までの私は、何となく日々を過ごしていただけという気がしなくもない。

 捨てるものが無い。確か条件にもそういうのがあったな。

 窓から見える外はもう暗い。夜の様だ。

「今日は疲れただろう。ゆっくり休め」

 ルピアが何となく優しく言ってくれたので、素直に従い部屋に戻る。

 おかげさまで枕が変わろうと、何処ででも寝られるのも私の取り柄だ。お風呂は朝に体を動かした後でいただくとして、とにかく寝る。実はまだ混乱していないわけでは無い。ハイそうですかと受け入れるには事が大きすぎる。そういう時は私は寝る事にしている。色々考えても仕方が無い時は眠る。その間だけでも忘れられるから。

 しかしまあ、この天蓋つきベッドというやつはどうだ。お姫様が寝るようなベッドに眠る機会があろうとはな。緊張するではないか。

 とかいいつつ……熟睡。


 何だか楽しい夢を見ていた気がする。

 ぼんやりと意識が浮上して目を開けると、まだ薄明るいだけでよくは見えないが、朝の様だ。

 ん? 何かベッドの中にいる? 私は何かを抱きしめて寝てたみたいだ。

「みゅ~」

 か細い可愛い声。うおおおっ? こ、子猫にゃんっ!?

 思わず部屋中を確める。よし、誰もいない。

 もぞもぞとシーツの中に潜る小さな盛り上がり。さあ、出ておいで愛しのラブリーエンジェルっ!

 待ちきれずにシーツをがばっとめくると、愛くるしい顔が覗いた。

「一緒にねんねしてたの?」

 可愛く頭をすりつけてくる仕草が、絡める様に手首に巻きつく尻尾がたまらない。ふわふわの小さな体を抱いて心ゆくまで撫で回す。

 あああ、この滑らかな毛の感触。ぷにぷにの肉球……。

 …………ん?

 マテ。

 そんなに豊かとはいえない私の胸に、しれっと顔を埋めるようにくっついているこの子猫。

「おはよう。ルピア・ヒャルト・デザール・コモイオ七世」

「おはよ……」

 ほおおお。返事したな、今。

「この変態野郎っ!」

 襟首を掴んで部屋から放り出したのはいうまでもない。まあ一応猫ちゃんに乱暴はできないのでそーっとではあるが。

 とんだ変態残念野郎に召還されたものだと、深く自分の身の上を恨んだ。


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